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第14話
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陛下が部屋を出て行った後、小さな窓から外を眺めた。
鉄格子付きの窓からは大きな枯れかかった木が見えるだけで、他には何も見えない。
正直、気力が無かったし、疲れていた。
お父様、お母様、アーチ・・・・・・。
王族になってからはお父様以外には滅多に会えない。
会えたとしても、私の立場上距離が生じる。
でも、それでも変わらない大切な存在に会いたかった。
それに・・・・・・あの方の姿が頭に浮かんだ。
《フルーティなもの、芳醇でコクがあるもの、色々ある。
いつか、一緒に飲みたいな》
たとえリップサービスだとしても、演技だと分かっていても、幸せな時間だった。
いつも何処らともなく現れる公爵が、あの扉から颯爽と現れるんじゃないか。
そんなことあり得ないのに、扉をじっと見つめ続けた。
そろそろ朝食の時間かしら。
喉が渇いていたので待ち侘びていると、ガチャと扉が開く音がした。
「昨日は済まなかった」
「・・・・・・陛下?」
こんな朝早くから来るなんて思っていなかったし、陛下の表情が本当に申し訳なさそうに見えたので驚きを隠せなかった。
「昨日は言い過ぎた。
君の言う通り、側近には無理させないよう外国語に長けた文官二名を付けた」
「そう、ですか。
私が、私が戻るという話にはならないのでしょうか?」
「まだ無理だ」
「それはいつまでのお話でしょうか?」
「君が、叔父上との関係を改めない限りは無理だ」
関係・・・・・・?
私と公爵の仲を疑っている?
「な、何を仰って・・・・・・。
スタインベック公爵は、ただ私をダンスに誘ってくれただけです」
「晩餐会の夜、二人で見つめ合っていたのはどう弁解する?」
「あ・・・・・・あれは」
私と公爵を見ていた?
「スタインベック公爵はお父様からボルコフ語を習っておりましたので、私が幼い頃から面識があります。
公爵は私が現在置かれている立場をご心配下さっているだけの話です。
晩餐会でも、ただ大丈夫か?と気にかけてくださっただけのこと」
「とても、そうは思えない」
「そう仰られましても・・・・・・」
「考えたんだ」
椅子から立ち上がった陛下に、思わず身構えてしまう。
「側妃は必要無いと思うんだ」
「・・・・・・」
「母上が私を授かったのは、結婚から五年経っていた。
だから、何も急ぐ必要はない」
ゆっくりと近づいてくる陛下が恐ろしかった。
陛下にはフランチェスカ様がいるのに、何を言おうとしてるんだろう。
「君が・・・・・・」
コンコンーー
ちょうどその時、扉をノックする音がして、胸を撫で下ろした。
「お食事でござ・・・・・・あ・・・・・・」
侍女がいつものように扉近くのテーブルにトレイを置こうとするが、予期せぬ陛下の存在に固まっている。
「朝食か・・・・・・」
「大丈夫、こちらに持ってきて。
あなたは罪に問われないから、安心してちょうだい」
多分、陛下は知らない。
心配そうにしている侍女に微笑むと、強張った顔で頷いた。
「罪に問われない?何の話だ?」
「陛下、食事を見る前にお願いが御座います。
侍女は命令に従ったまでのこと、罪に問わないとお約束下さいませ」
「食事がどうかしたというのか?」
「お約束下さいませ」
「・・・・・・わかった。侍女は罪に問わないと誓おう」
テーブルに置かれた朝食の蓋をつかんで開けると、食べかけの肉料理に、使用済みの汚れたカトラリーが見え、私は目を背けた。
「・・・これは・・・・・・。
こんな物が一体どうして・・・・・・」
私を見つめる瞳が揺れている。
「・・・・・・料理長を!
この朝食に関わった者全て、今すぐ連れて来い!」
扉を開け放ち、陛下の声が響き渡った。
鉄格子付きの窓からは大きな枯れかかった木が見えるだけで、他には何も見えない。
正直、気力が無かったし、疲れていた。
お父様、お母様、アーチ・・・・・・。
王族になってからはお父様以外には滅多に会えない。
会えたとしても、私の立場上距離が生じる。
でも、それでも変わらない大切な存在に会いたかった。
それに・・・・・・あの方の姿が頭に浮かんだ。
《フルーティなもの、芳醇でコクがあるもの、色々ある。
いつか、一緒に飲みたいな》
たとえリップサービスだとしても、演技だと分かっていても、幸せな時間だった。
いつも何処らともなく現れる公爵が、あの扉から颯爽と現れるんじゃないか。
そんなことあり得ないのに、扉をじっと見つめ続けた。
そろそろ朝食の時間かしら。
喉が渇いていたので待ち侘びていると、ガチャと扉が開く音がした。
「昨日は済まなかった」
「・・・・・・陛下?」
こんな朝早くから来るなんて思っていなかったし、陛下の表情が本当に申し訳なさそうに見えたので驚きを隠せなかった。
「昨日は言い過ぎた。
君の言う通り、側近には無理させないよう外国語に長けた文官二名を付けた」
「そう、ですか。
私が、私が戻るという話にはならないのでしょうか?」
「まだ無理だ」
「それはいつまでのお話でしょうか?」
「君が、叔父上との関係を改めない限りは無理だ」
関係・・・・・・?
私と公爵の仲を疑っている?
「な、何を仰って・・・・・・。
スタインベック公爵は、ただ私をダンスに誘ってくれただけです」
「晩餐会の夜、二人で見つめ合っていたのはどう弁解する?」
「あ・・・・・・あれは」
私と公爵を見ていた?
「スタインベック公爵はお父様からボルコフ語を習っておりましたので、私が幼い頃から面識があります。
公爵は私が現在置かれている立場をご心配下さっているだけの話です。
晩餐会でも、ただ大丈夫か?と気にかけてくださっただけのこと」
「とても、そうは思えない」
「そう仰られましても・・・・・・」
「考えたんだ」
椅子から立ち上がった陛下に、思わず身構えてしまう。
「側妃は必要無いと思うんだ」
「・・・・・・」
「母上が私を授かったのは、結婚から五年経っていた。
だから、何も急ぐ必要はない」
ゆっくりと近づいてくる陛下が恐ろしかった。
陛下にはフランチェスカ様がいるのに、何を言おうとしてるんだろう。
「君が・・・・・・」
コンコンーー
ちょうどその時、扉をノックする音がして、胸を撫で下ろした。
「お食事でござ・・・・・・あ・・・・・・」
侍女がいつものように扉近くのテーブルにトレイを置こうとするが、予期せぬ陛下の存在に固まっている。
「朝食か・・・・・・」
「大丈夫、こちらに持ってきて。
あなたは罪に問われないから、安心してちょうだい」
多分、陛下は知らない。
心配そうにしている侍女に微笑むと、強張った顔で頷いた。
「罪に問われない?何の話だ?」
「陛下、食事を見る前にお願いが御座います。
侍女は命令に従ったまでのこと、罪に問わないとお約束下さいませ」
「食事がどうかしたというのか?」
「お約束下さいませ」
「・・・・・・わかった。侍女は罪に問わないと誓おう」
テーブルに置かれた朝食の蓋をつかんで開けると、食べかけの肉料理に、使用済みの汚れたカトラリーが見え、私は目を背けた。
「・・・これは・・・・・・。
こんな物が一体どうして・・・・・・」
私を見つめる瞳が揺れている。
「・・・・・・料理長を!
この朝食に関わった者全て、今すぐ連れて来い!」
扉を開け放ち、陛下の声が響き渡った。
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