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第13話
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「お食事でございます」
時間になると、侍女が扉の横に置かれたテーブルに食事を運んでくる。
ほんの少し期待して、食事にカバーされた銀の蓋を開けて中を覗いてみるが、黒く焦げて縮まったよくわからない物体と、カチカチになったパンが見えた。
ああ、また・・・・・・
昨夜も、とてもじゃないけれど口にすることなどできない、誰かの食べ終えた余り物の魚料理と、使い終わった汚れたスプーンとフォークが出された。
『食事は後で運ばせるよ』陛下の言葉を聞いた後だったから、食事するつもりで蓋を開けた時には、正直吐き気に襲われた。
しばらくして、食事を下げに来た侍女に話してみるも、
『私は命令された、あ・・・言われたことをしているだけなんです。それに、今ここをクビになるわけにはいかなくて・・・・・・』
泣きそうになっていて、それ以上無理は言えなかった。
朝食もドロドロしたスープだったが、冷たい水が添えらるようになった。
ゆっくりと水を口に含んで喉を潤おしていく。
昨夜、侍女が食事を運ぶため部屋に入室した時に、脱出を試み廊下へ飛び出したが、一瞬にして護衛騎士に部屋へと連れ戻された。
宰相を、側近を呼んで欲しいと頼んでも、全く効果は無かった。
この部屋に小さめの窓はあるが、鉄格子付き。
隠し通路も見当たらない。
もちろん侍女は巻き込めない。
となると、陛下が来るのを待つしかない。
私をこんな所に閉じ込めて、仮に危険回避だとしても、優秀な護衛は大勢いるのだから王宮で過ごしても問題は無いはず。
『しばらくは、ここでゆっくり静養するといい』
引っかかる、あの言葉。
病気でも、体調を崩している訳でもないのに。
だとしたら、
やっぱり私を病気に仕立てて、このまま監禁するつもり・・・・・・?
陛下がそんな事する訳ない。
以前なら自身を持ってそう言えたけれど、正直最近の陛下を見ていると何を考えているか分からなかった。
ガチャーー
眠っていたのか、扉が開く音で飛び起きた。
目をこすっていると、陛下がゆっくりと歩いて椅子に腰を下ろした。
「あれから具合いはどうだ?」
「ええ、問題ありません」
「そうか」
「ですから離宮で休む必要は御座いません。
今は仕事も立て込んでいます。
私がいないと「君が居なくても大丈夫だと言ってるだろう」」
「お言葉ですが、外国語の資料が多く、私じゃなくては困難かと。
側近は・・・・・・クルーズ伯爵令息はまだ新婚で、スミス伯爵令息はお子様が誕生したばかり。
二人に無理難題な仕事はさせないとお約束下さい」
「そんな事は分かっている」
はぁー
イライラしているのか、ため息をついている。
考えてみれば、私と居ると陛下はため息ばかりついている。
「陛下、なぜ鍵をかける必要が?」
「・・・・・・危険だからだ」
「それだけでしょうか?」
「そうだ」
「食事は食べられるものをお願い「君が我儘を言っているのは聞いている。
何が気に入らないのか知らないが、出されたものを食べるように」」
「あれを食べろと?」
「君は、馬鹿にしてい・・・・・・」
陛下がそこまで言ったところで、扉の向こうから、護衛と思われる男性の声と女性の声が聞こえてきた。
『・・・こちらにお通しはできません』
『でも、エリオットが来ているでしょう?』
『パルディール前侯爵夫人、只今陛下は・・・・・・』
陛下は動きを止めると、立ち上がった。
「また、来る」
扉が閉まると、鍵がかかる音がした。
『エリオット!』
『ここへ来てはいけないと話したよね』
『・・・・・・だってぇ』
『わかった、わかった。
じゃあ、行こうか』
陛下の優しい声を久しぶりに聞いた。
自分に気持ちが無いのは理解していたし、とうに諦めはついているはずだった。
なのに、いまだに思いが断ち切れていないかのように、胸が苦しくなるのを感じた。
時間になると、侍女が扉の横に置かれたテーブルに食事を運んでくる。
ほんの少し期待して、食事にカバーされた銀の蓋を開けて中を覗いてみるが、黒く焦げて縮まったよくわからない物体と、カチカチになったパンが見えた。
ああ、また・・・・・・
昨夜も、とてもじゃないけれど口にすることなどできない、誰かの食べ終えた余り物の魚料理と、使い終わった汚れたスプーンとフォークが出された。
『食事は後で運ばせるよ』陛下の言葉を聞いた後だったから、食事するつもりで蓋を開けた時には、正直吐き気に襲われた。
しばらくして、食事を下げに来た侍女に話してみるも、
『私は命令された、あ・・・言われたことをしているだけなんです。それに、今ここをクビになるわけにはいかなくて・・・・・・』
泣きそうになっていて、それ以上無理は言えなかった。
朝食もドロドロしたスープだったが、冷たい水が添えらるようになった。
ゆっくりと水を口に含んで喉を潤おしていく。
昨夜、侍女が食事を運ぶため部屋に入室した時に、脱出を試み廊下へ飛び出したが、一瞬にして護衛騎士に部屋へと連れ戻された。
宰相を、側近を呼んで欲しいと頼んでも、全く効果は無かった。
この部屋に小さめの窓はあるが、鉄格子付き。
隠し通路も見当たらない。
もちろん侍女は巻き込めない。
となると、陛下が来るのを待つしかない。
私をこんな所に閉じ込めて、仮に危険回避だとしても、優秀な護衛は大勢いるのだから王宮で過ごしても問題は無いはず。
『しばらくは、ここでゆっくり静養するといい』
引っかかる、あの言葉。
病気でも、体調を崩している訳でもないのに。
だとしたら、
やっぱり私を病気に仕立てて、このまま監禁するつもり・・・・・・?
陛下がそんな事する訳ない。
以前なら自身を持ってそう言えたけれど、正直最近の陛下を見ていると何を考えているか分からなかった。
ガチャーー
眠っていたのか、扉が開く音で飛び起きた。
目をこすっていると、陛下がゆっくりと歩いて椅子に腰を下ろした。
「あれから具合いはどうだ?」
「ええ、問題ありません」
「そうか」
「ですから離宮で休む必要は御座いません。
今は仕事も立て込んでいます。
私がいないと「君が居なくても大丈夫だと言ってるだろう」」
「お言葉ですが、外国語の資料が多く、私じゃなくては困難かと。
側近は・・・・・・クルーズ伯爵令息はまだ新婚で、スミス伯爵令息はお子様が誕生したばかり。
二人に無理難題な仕事はさせないとお約束下さい」
「そんな事は分かっている」
はぁー
イライラしているのか、ため息をついている。
考えてみれば、私と居ると陛下はため息ばかりついている。
「陛下、なぜ鍵をかける必要が?」
「・・・・・・危険だからだ」
「それだけでしょうか?」
「そうだ」
「食事は食べられるものをお願い「君が我儘を言っているのは聞いている。
何が気に入らないのか知らないが、出されたものを食べるように」」
「あれを食べろと?」
「君は、馬鹿にしてい・・・・・・」
陛下がそこまで言ったところで、扉の向こうから、護衛と思われる男性の声と女性の声が聞こえてきた。
『・・・こちらにお通しはできません』
『でも、エリオットが来ているでしょう?』
『パルディール前侯爵夫人、只今陛下は・・・・・・』
陛下は動きを止めると、立ち上がった。
「また、来る」
扉が閉まると、鍵がかかる音がした。
『エリオット!』
『ここへ来てはいけないと話したよね』
『・・・・・・だってぇ』
『わかった、わかった。
じゃあ、行こうか』
陛下の優しい声を久しぶりに聞いた。
自分に気持ちが無いのは理解していたし、とうに諦めはついているはずだった。
なのに、いまだに思いが断ち切れていないかのように、胸が苦しくなるのを感じた。
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