上 下
13 / 46

第13話

しおりを挟む
「お食事でございます」

時間になると、侍女が扉の横に置かれたテーブルに食事を運んでくる。

ほんの少し期待して、食事にカバーされた銀の蓋を開けて中を覗いてみるが、黒く焦げて縮まったよくわからない物体と、カチカチになったパンが見えた。

ああ、また・・・・・・
 
昨夜も、とてもじゃないけれど口にすることなどできない、誰かの食べ終えた余り物の魚料理と、使い終わった汚れたスプーンとフォークが出された。
『食事は後で運ばせるよ』陛下の言葉を聞いた後だったから、食事するつもりで蓋を開けた時には、正直吐き気に襲われた。
しばらくして、食事を下げに来た侍女に話してみるも、

『私は命令された、あ・・・言われたことをしているだけなんです。それに、今ここをクビになるわけにはいかなくて・・・・・・』

泣きそうになっていて、それ以上無理は言えなかった。
朝食もドロドロしたスープだったが、冷たい水が添えらるようになった。

ゆっくりと水を口に含んで喉を潤おしていく。

昨夜、侍女が食事を運ぶため部屋に入室した時に、脱出を試み廊下へ飛び出したが、一瞬にして護衛騎士に部屋へと連れ戻された。
宰相を、側近を呼んで欲しいと頼んでも、全く効果は無かった。

この部屋に小さめの窓はあるが、鉄格子付き。
隠し通路も見当たらない。
もちろん侍女は巻き込めない。

となると、陛下が来るのを待つしかない。
私をこんな所に閉じ込めて、仮に危険回避だとしても、優秀な護衛は大勢いるのだから王宮で過ごしても問題は無いはず。

『しばらくは、ここでゆっくり静養する・・・・といい』
 
引っかかる、あの言葉。
病気でも、体調を崩している訳でもないのに。

だとしたら、
やっぱり私を病気に仕立てて、このまま監禁するつもり・・・・・・?

陛下がそんな事する訳ない。
以前なら自身を持ってそう言えたけれど、正直最近の陛下を見ていると何を考えているか分からなかった。


ガチャーー

眠っていたのか、扉が開く音で飛び起きた。 
目をこすっていると、陛下がゆっくりと歩いて椅子に腰を下ろした。

「あれから具合いはどうだ?」

「ええ、問題ありません」

「そうか」

「ですから離宮で休む必要は御座いません。
今は仕事も立て込んでいます。
私がいないと「君が居なくても大丈夫だと言ってるだろう」」

「お言葉ですが、外国語の資料が多く、私じゃなくては困難かと。
側近は・・・・・・クルーズ伯爵令息はまだ新婚で、スミス伯爵令息はお子様が誕生したばかり。
二人に無理難題な仕事はさせないとお約束下さい」

「そんな事は分かっている」

はぁー
イライラしているのか、ため息をついている。
考えてみれば、私と居ると陛下はため息ばかりついている。

「陛下、なぜ鍵をかける必要が?」

「・・・・・・危険だからだ」

「それだけでしょうか?」

「そうだ」

「食事は食べられるものをお願い「君が我儘を言っているのは聞いている。
何が気に入らないのか知らないが、出されたものを食べるように」」

「あれを食べろと?」

「君は、馬鹿にしてい・・・・・・」

陛下がそこまで言ったところで、扉の向こうから、護衛と思われる男性の声と女性の声が聞こえてきた。

『・・・こちらにお通しはできません』

『でも、エリオットが来ているでしょう?』

『パルディール前侯爵夫人、只今陛下は・・・・・・』


陛下は動きを止めると、立ち上がった。

「また、来る」


扉が閉まると、鍵がかかる音がした。


『エリオット!』

『ここへ来てはいけないと話したよね』

『・・・・・・だってぇ』

『わかった、わかった。
じゃあ、行こうか』


陛下の優しい声を久しぶりに聞いた。

自分に気持ちが無いのは理解していたし、とうに諦めはついているはずだった。

なのに、いまだに思いが断ち切れていないかのように、胸が苦しくなるのを感じた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います

ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」 公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。 本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか? 義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。 不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます! この作品は小説家になろうでも掲載しています

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

記憶がないなら私は……

しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。  *全4話

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...