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第11話

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その後も、陛下が側妃候補と夜会でダンスを始めると、何処からともなく公爵が現れ、王妃である私をダンスに誘った。
夜会だけに限らず、陛下が側妃候補とお茶会の時も公爵は私の前に現れた。

陛下に相手にされず、側妃まで迎える状況に深く傷ついている王妃を慰める公爵の姿は、女性達の心を打っているようだった。

そして、それは自分にもいえることだった。
置いてきぼりされている惨めな状態に颯爽と現れ、救いの手を差し伸べる公爵を、いつからか心待ちにしていた。
お喋りを、ダンスを楽しみにしている。

《昨夜、侍従と一緒にワインを飲みすぎてしまって、朝起きたら二人ともソファで寝ていてね。
酒臭いだ。何だと、朝から執事に相当絞られたよ》

《余程美味しいワインだったのかしら?》

《それは、もう美味かった。
・・・・・・ワインは好きかい?》

《ええ、最近は飲んでいないけど》

陛下と一緒に食事を取っていた頃はよく飲んでいた。
私の言葉から何かを察したのか、表情が少し変わり、背中に当てられた手に少し力が籠められる。

《フルーティなもの、芳醇でコクがあるもの、色々ある。
いつか、一緒に飲みたいな》

《ええ、楽しみにしてるわ》

きっとそんな日は来ないのを知っていても、今はただ会話を楽しむ。

これは演技だから。

でも、別れ側に切なくも見える表情で私の手を取って、触れそうでいて決して触れない距離で口づけを落とされると、胸がざわついてしまう。

学生の頃、同じクラスの令嬢達が舞台役者が素敵だと、その話ばかりしていた。
『情熱的でいて、切ない表情にドキドキする』
あの時は意味が分からなかったけれど、今なら理解できる。
公爵は舞台役者のような完璧な演技をして、私はそれを観ている観客なんだ。

だから、ドキドキするのは当たり前。

公爵には目的があってのことだ。
過去に、公爵に一方的にのぼせ上がっていたカミンスキー公爵夫人の思わせぶりな態度に誤解したカミンスキー公爵が公爵を逆恨み。
身持ちが悪いこで有名だった隣国の第三王女と公爵を結婚に追い込んだ。
隣国も手を焼いていた王女と上手く行くはずがない。
不貞を繰り返し、二年で離婚。
もちろん、表向きには第三王女とは恋愛結婚とされ、離婚の理由も祖国が恋しかったとされている。

これを知ったのは王妃になってから。
晩餐会で、少し酔った外国の要人のお喋りが聞こえた。
母国語だからと安心していたんだろう。

《考え事?》

《ええ、学園時代のある令嬢の言葉を思い出して》

《そう。気になるな》

公爵は、明日から二週間国を離れる。
私を心配しているのか、
『用心して欲しい』
『私の手のものに見張らせる』
『兄上にも・・・・・・』
まるで物騒なことが起こるとでもいうような発言を繰り返した。

前国王ご夫妻は現在、肺を患っている前王妃様に適した環境である、王都から離れた宮殿住まいだ。

《大丈夫ですよ。
土産話、楽しみにしてますね》

私は笑顔で別れた。





いつも通り目覚め、朝食を取り、執務室へ向かっていた。
角を曲がった所で、突然現れた人物に、口元に布のようなものを当てられたかと思うと、私は意識を失った。

公爵が国を離れて三日後のことだった。



















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