11 / 46
第11話
しおりを挟む
その後も、陛下が側妃候補と夜会でダンスを始めると、何処からともなく公爵が現れ、王妃である私をダンスに誘った。
夜会だけに限らず、陛下が側妃候補とお茶会の時も公爵は私の前に現れた。
陛下に相手にされず、側妃まで迎える状況に深く傷ついている王妃を慰める公爵の姿は、女性達の心を打っているようだった。
そして、それは自分にもいえることだった。
置いてきぼりされている惨めな状態に颯爽と現れ、救いの手を差し伸べる公爵を、いつからか心待ちにしていた。
お喋りを、ダンスを楽しみにしている。
《昨夜、侍従と一緒にワインを飲みすぎてしまって、朝起きたら二人ともソファで寝ていてね。
酒臭いだ。何だと、朝から執事に相当絞られたよ》
《余程美味しいワインだったのかしら?》
《それは、もう美味かった。
・・・・・・ワインは好きかい?》
《ええ、最近は飲んでいないけど》
陛下と一緒に食事を取っていた頃はよく飲んでいた。
私の言葉から何かを察したのか、表情が少し変わり、背中に当てられた手に少し力が籠められる。
《フルーティなもの、芳醇でコクがあるもの、色々ある。
いつか、一緒に飲みたいな》
《ええ、楽しみにしてるわ》
きっとそんな日は来ないのを知っていても、今はただ会話を楽しむ。
これは演技だから。
でも、別れ側に切なくも見える表情で私の手を取って、触れそうでいて決して触れない距離で口づけを落とされると、胸がざわついてしまう。
学生の頃、同じクラスの令嬢達が舞台役者が素敵だと、その話ばかりしていた。
『情熱的でいて、切ない表情にドキドキする』
あの時は意味が分からなかったけれど、今なら理解できる。
公爵は舞台役者のような完璧な演技をして、私はそれを観ている観客なんだ。
だから、ドキドキするのは当たり前。
公爵には目的があってのことだ。
過去に、公爵に一方的にのぼせ上がっていたカミンスキー公爵夫人の思わせぶりな態度に誤解したカミンスキー公爵が公爵を逆恨み。
身持ちが悪いこで有名だった隣国の第三王女と公爵を結婚に追い込んだ。
隣国も手を焼いていた王女と上手く行くはずがない。
不貞を繰り返し、二年で離婚。
もちろん、表向きには第三王女とは恋愛結婚とされ、離婚の理由も祖国が恋しかったとされている。
これを知ったのは王妃になってから。
晩餐会で、少し酔った外国の要人のお喋りが聞こえた。
母国語だからと安心していたんだろう。
《考え事?》
《ええ、学園時代のある令嬢の言葉を思い出して》
《そう。気になるな》
公爵は、明日から二週間国を離れる。
私を心配しているのか、
『用心して欲しい』
『私の手のものに見張らせる』
『兄上にも・・・・・・』
まるで物騒なことが起こるとでもいうような発言を繰り返した。
前国王ご夫妻は現在、肺を患っている前王妃様に適した環境である、王都から離れた宮殿住まいだ。
《大丈夫ですよ。
土産話、楽しみにしてますね》
私は笑顔で別れた。
いつも通り目覚め、朝食を取り、執務室へ向かっていた。
角を曲がった所で、突然現れた人物に、口元に布のようなものを当てられたかと思うと、私は意識を失った。
公爵が国を離れて三日後のことだった。
夜会だけに限らず、陛下が側妃候補とお茶会の時も公爵は私の前に現れた。
陛下に相手にされず、側妃まで迎える状況に深く傷ついている王妃を慰める公爵の姿は、女性達の心を打っているようだった。
そして、それは自分にもいえることだった。
置いてきぼりされている惨めな状態に颯爽と現れ、救いの手を差し伸べる公爵を、いつからか心待ちにしていた。
お喋りを、ダンスを楽しみにしている。
《昨夜、侍従と一緒にワインを飲みすぎてしまって、朝起きたら二人ともソファで寝ていてね。
酒臭いだ。何だと、朝から執事に相当絞られたよ》
《余程美味しいワインだったのかしら?》
《それは、もう美味かった。
・・・・・・ワインは好きかい?》
《ええ、最近は飲んでいないけど》
陛下と一緒に食事を取っていた頃はよく飲んでいた。
私の言葉から何かを察したのか、表情が少し変わり、背中に当てられた手に少し力が籠められる。
《フルーティなもの、芳醇でコクがあるもの、色々ある。
いつか、一緒に飲みたいな》
《ええ、楽しみにしてるわ》
きっとそんな日は来ないのを知っていても、今はただ会話を楽しむ。
これは演技だから。
でも、別れ側に切なくも見える表情で私の手を取って、触れそうでいて決して触れない距離で口づけを落とされると、胸がざわついてしまう。
学生の頃、同じクラスの令嬢達が舞台役者が素敵だと、その話ばかりしていた。
『情熱的でいて、切ない表情にドキドキする』
あの時は意味が分からなかったけれど、今なら理解できる。
公爵は舞台役者のような完璧な演技をして、私はそれを観ている観客なんだ。
だから、ドキドキするのは当たり前。
公爵には目的があってのことだ。
過去に、公爵に一方的にのぼせ上がっていたカミンスキー公爵夫人の思わせぶりな態度に誤解したカミンスキー公爵が公爵を逆恨み。
身持ちが悪いこで有名だった隣国の第三王女と公爵を結婚に追い込んだ。
隣国も手を焼いていた王女と上手く行くはずがない。
不貞を繰り返し、二年で離婚。
もちろん、表向きには第三王女とは恋愛結婚とされ、離婚の理由も祖国が恋しかったとされている。
これを知ったのは王妃になってから。
晩餐会で、少し酔った外国の要人のお喋りが聞こえた。
母国語だからと安心していたんだろう。
《考え事?》
《ええ、学園時代のある令嬢の言葉を思い出して》
《そう。気になるな》
公爵は、明日から二週間国を離れる。
私を心配しているのか、
『用心して欲しい』
『私の手のものに見張らせる』
『兄上にも・・・・・・』
まるで物騒なことが起こるとでもいうような発言を繰り返した。
前国王ご夫妻は現在、肺を患っている前王妃様に適した環境である、王都から離れた宮殿住まいだ。
《大丈夫ですよ。
土産話、楽しみにしてますね》
私は笑顔で別れた。
いつも通り目覚め、朝食を取り、執務室へ向かっていた。
角を曲がった所で、突然現れた人物に、口元に布のようなものを当てられたかと思うと、私は意識を失った。
公爵が国を離れて三日後のことだった。
112
お気に入りに追加
4,228
あなたにおすすめの小説
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

この罰は永遠に
豆狸
恋愛
「オードリー、そなたはいつも私達を見ているが、一体なにが楽しいんだ?」
「クロード様の黄金色の髪が光を浴びて、キラキラ輝いているのを見るのが好きなのです」
「……ふうん」
その灰色の瞳には、いつもクロードが映っていた。
なろう様でも公開中です。

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています
高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。
そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。
最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。
何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。
優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる