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第9話
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晩餐会当日、来客なんて滅多に訪れない私の執務室にあの人の側近が姿を見せた。
珍しい事もあるものね。
業務上の連絡事項かと思い、側近にメモを取るように合図すると、意外な言葉を口にした。
「王妃様、国王様がお呼びでございます。
執務室へお越しいただけますか?」
「・・・分かりました。
ひと段落つき次第向かいます」
半年もの間私を避け続けている人の急な呼び出しに、動揺しなかったといえば嘘になる。
でも、こちらが歩み寄りを見せても態度を変えず、人の話を最後まで聞かず、友人と言い張った人物との不貞行為を思い出すと、早く済ませてしまって、自分の仕事を終わらせよう。
そんな気持ちで、何ヶ月かぶりに執務室の扉を叩いた。
「入ってくれ」
執務室の椅子に座る姿を見ても気持ちが乱れることも無く、少しほっとした。
「ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「なぜ呼ばれたのか、分かってるんじゃないのか?」
「仰っている意味がわかりかねます」
はぁ~っ。
呆れるようにため息を吐くと、
「君がフラン・・・パルディール前侯爵夫人のことを、あちこちで悪く言っているのは知っている。
みんな迷惑してるんだ。
これ以上、馬鹿げたことをするのは止めてくれ」
まるで侮蔑するような目を私に向けていた。
「私は一切そのような事はしておりません」
「白々しい。しらを切るのか?」
「・・・・・・」
「図星を突かれて言葉も出ないか」
「・・・・・・しらを切るも何も、していないものはしておりません。
まさか陛下は、片方だけの話を鵜呑みにし、信用されるのですか?
私の話も聞かずに、人を嘘つき呼ばりするのですか?」
あまりの滅茶苦茶な話に、それを信じていることに絶句した。
本当に変わってしまった。
もう何を話しても無駄だと解った。
また言い返してくると思い身構えていたが、陛下は急に動きを止め、今までの勢いを失ったように黙り込んだ。
「・・・・・・じゃあ、君は侍女に、パルディール前侯爵夫人を辱める発言、彼女のドレスを汚す命令や・・・命令はしていないんだな」
「しておりません。
第一、私は自分付きの侍女以外と会話する暇はございません」
「・・・・・・そうか」
「お話がお済みでしたら、もうよろしいでしょうか?」
「・・・ああ」
「では、失礼致します」
「ま、待ってくれ。
君は、叔父上と・・・・・・いや、何でもない」
よく聞こえなかったのでそのまま退出したけれど、気持ちの整理がつかなかった。
執務室まで呼ばれて何かと思えば、悪口を話したか?学生のような幼稚な質問をされた。
あんな話を信用するなんて。
私が忙しく、スケジュールは常に一杯で、他の侍女と会話する暇なんてある訳無い。
そんなこと、知ってるはずなのに。
あの侮蔑するように向けられた目が、あれがこの先も続くかと思うと・・・・・・
『私と王妃様が恋仲になるっていうのはどうだい?』
公爵の顔か浮かんだ。
何事も無かったかのように、陛下のエスコートで晩餐会の会場に入った。
お互いに隣に座った賓客と会話する。
いつもの事なのに、なぜか気持ちが晴れず、笑顔を作るのも一苦労だった。
何気なく辺りを見渡すと、少し離れた場所に一際目立つ男性が目に入った。
その男性、公爵を中心に周りが笑顔に包まれている。
こちらに顔を向けた一瞬目が合うと、かすかに笑顔から心配するような表情に変わったような気がした。
もう答えは出ていた。
《あのお話、お受けします》
そんな気持ちで頷くように頭を僅かに動かすと、公爵は目を細めて、また周りとの会話に戻った。
私はこの時、全く気づかなかった。
陛下がじっと見ていたことに。
珍しい事もあるものね。
業務上の連絡事項かと思い、側近にメモを取るように合図すると、意外な言葉を口にした。
「王妃様、国王様がお呼びでございます。
執務室へお越しいただけますか?」
「・・・分かりました。
ひと段落つき次第向かいます」
半年もの間私を避け続けている人の急な呼び出しに、動揺しなかったといえば嘘になる。
でも、こちらが歩み寄りを見せても態度を変えず、人の話を最後まで聞かず、友人と言い張った人物との不貞行為を思い出すと、早く済ませてしまって、自分の仕事を終わらせよう。
そんな気持ちで、何ヶ月かぶりに執務室の扉を叩いた。
「入ってくれ」
執務室の椅子に座る姿を見ても気持ちが乱れることも無く、少しほっとした。
「ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「なぜ呼ばれたのか、分かってるんじゃないのか?」
「仰っている意味がわかりかねます」
はぁ~っ。
呆れるようにため息を吐くと、
「君がフラン・・・パルディール前侯爵夫人のことを、あちこちで悪く言っているのは知っている。
みんな迷惑してるんだ。
これ以上、馬鹿げたことをするのは止めてくれ」
まるで侮蔑するような目を私に向けていた。
「私は一切そのような事はしておりません」
「白々しい。しらを切るのか?」
「・・・・・・」
「図星を突かれて言葉も出ないか」
「・・・・・・しらを切るも何も、していないものはしておりません。
まさか陛下は、片方だけの話を鵜呑みにし、信用されるのですか?
私の話も聞かずに、人を嘘つき呼ばりするのですか?」
あまりの滅茶苦茶な話に、それを信じていることに絶句した。
本当に変わってしまった。
もう何を話しても無駄だと解った。
また言い返してくると思い身構えていたが、陛下は急に動きを止め、今までの勢いを失ったように黙り込んだ。
「・・・・・・じゃあ、君は侍女に、パルディール前侯爵夫人を辱める発言、彼女のドレスを汚す命令や・・・命令はしていないんだな」
「しておりません。
第一、私は自分付きの侍女以外と会話する暇はございません」
「・・・・・・そうか」
「お話がお済みでしたら、もうよろしいでしょうか?」
「・・・ああ」
「では、失礼致します」
「ま、待ってくれ。
君は、叔父上と・・・・・・いや、何でもない」
よく聞こえなかったのでそのまま退出したけれど、気持ちの整理がつかなかった。
執務室まで呼ばれて何かと思えば、悪口を話したか?学生のような幼稚な質問をされた。
あんな話を信用するなんて。
私が忙しく、スケジュールは常に一杯で、他の侍女と会話する暇なんてある訳無い。
そんなこと、知ってるはずなのに。
あの侮蔑するように向けられた目が、あれがこの先も続くかと思うと・・・・・・
『私と王妃様が恋仲になるっていうのはどうだい?』
公爵の顔か浮かんだ。
何事も無かったかのように、陛下のエスコートで晩餐会の会場に入った。
お互いに隣に座った賓客と会話する。
いつもの事なのに、なぜか気持ちが晴れず、笑顔を作るのも一苦労だった。
何気なく辺りを見渡すと、少し離れた場所に一際目立つ男性が目に入った。
その男性、公爵を中心に周りが笑顔に包まれている。
こちらに顔を向けた一瞬目が合うと、かすかに笑顔から心配するような表情に変わったような気がした。
もう答えは出ていた。
《あのお話、お受けします》
そんな気持ちで頷くように頭を僅かに動かすと、公爵は目を細めて、また周りとの会話に戻った。
私はこの時、全く気づかなかった。
陛下がじっと見ていたことに。
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