彼女があなたを思い出したから

MOMO-tank

文字の大きさ
上 下
5 / 46

第5話

しおりを挟む
『・・・・・・リリー』

結婚式で、触れるだけの誓いの口づけをした。 

夜は殿下が寝室に来てくれるか分からないのに、侍女達に磨かれ、オイルマッサージというものを受け、いつもと違う夜着を着せられた。

期待なんて、していなかった。

でも、殿下は現れた。

私達は口づけを交わし、そして、肌を合わせた。

『リリー』

殿下は何度も私の名前を呼んだ。
優しく呼んだ。

『リリー・・・・・・リリー』


・・・・・・ん?
誰?

「・・・・・・か?リリー」

殿下?

「リリー」

うっすら開いた瞼に光が差し込む。
その向こうに、ぼんやりと人影が見えた。

「大丈夫か?」

少しかすれた、よく知っている声。
エリオット様?
・・・・・・えっと、

「・・・・・・ここは?」

「寝室だ。昨夜倒れた」

倒れた?
ええと、確か、報告書に目を通して。
そうだった・・・目が回って。

「今は何時ですか?」

「朝の7時だ」

「あの、侍女を呼んでいただけますか?」

喉がカラカラで水が飲みたかった。
それに7時ならば、準備も始めなくてはいけない。

「今日は仕事する必要はないし、このまま休んでくれて構わない」

「そう、ですか」

でも、水が飲みたいので侍女をお願いすると、私がやろう。と言って体を起こすのを支えてくれ、水がはいったグラスを渡された。

なぜエリオット様が寝室にいるのか。
ボーっとする頭で、ベッド脇の椅子に座るエリオット様を不思議に思って見ていると、どこか居心地が悪そうに、倒れる寸前で護衛が体を抱きとめてくれたこと、医師の診察では倒れた原因は疲労とのこと。
数日は仕事を休み、安静に過ごすよう話していたと教えてくれた。

「では、私はそろそろ行くよ。
仕事は心配せず休んでくれ」

立ち上がると、そのまま背を向けて歩き出したが、扉の前で足を止めると振り返った。

「・・・・・・きちんと、きちんと食事をとって、ゆっくり休んでくれ」

その表情は、まるで私を心配しているかのように見えた。





「王妃様、大変お似合いでございます」

倒れてから十日が経った。
数日は仕事を休んで安静に過ごし、デザートメインになりつつあった食事の改善に努めた。
以前と比べるといまだに細っそりしているものの、血色も良く、化粧のおかげか健康的にすら見えた。

「ありがとう」

夜会前に控え室でエリオット様と落ち合い、エスコートされ会場へ向かった。
笑顔を貼り付けてファーストダンスを踊る。
この時ばかりはエリオット様の表情も幾分柔らかい。

ダンスが終われば、挨拶に来る貴族への対応。
そして、一旦控え室へ下がり休憩となる。

以前はエリオット様とこの場所でおしゃべりをしたり、時にはチェスをした。
でも、ある時を境にここへ姿を見せなくなった。
なのに、物音がすると扉が開いてエリオット様が来るんじゃないか。
いまだに期待してしまう。

果実水を口にしながら、そんな自分を自嘲していると、侍女が私の近くへ来て、一枚のカードを差し出した。

「こちら国王様からです」

[話をしたい。
エーデルワイスの間に来て欲しい。
エリオット]

何の疑いも持たなかった。
歩み寄りを見せてくれたんだと、嬉しく思った。

私も話したいことがある。

友人だと言い張るフランチェスカ様との関係。
節度を持って、せめて喪が明けてからにして欲しい。

避けて欲しくないし、以前のように何でも話し合いたい。

先日倒れた時に心配する顔を見せてくれたエリオット様を思い出して、カードを手に足を進めた。

廊下を真っ直ぐ進んで行くと、小ホールであるエーデルワイスの間からワルツが聴こえてきた。

楽団の、演奏?
不思議に感じながら進んで行くと、大きな扉は開かれていて中の様子が窺えた。

誰か、踊っている?

まさか、そんなことないはず。
自分に言い聞かせるように一歩一歩足を進めていくと、一組の男女の踊っている姿が見が目に入った。

プラチナブロンドに黒いドレス姿の女性をリードし、笑顔を見せて踊る男性エリオット様を見た瞬間、息が止まった。

エリオット様・・・・・・。

愛おしそうにフランチェスカ様を見つめる眼差しに、胸が苦しくなる。 

そして、フランチェスカ様の額に、頬に口づけを落とし、見つめ合うと、二人の唇はゆっくりと重なった。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました

Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。 必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。 ──目を覚まして気付く。 私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰? “私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。 こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。 だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。 彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!? そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

処理中です...