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第26話 ロージー・エヴァンス

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「おじさま!お母様が今回は少し早くこちらに来るみたいよ!」 

「ミラが、か・・・?」

「ええ」

「おっ、そうか・・・・・・。
早いって、いつだ?」

「うーんとね、5日後だって。
2週間は滞在できるって書いてあったわよ」

「よし、5日後から2週間の滞在、と」

ローリーおじさまは分厚い手帳を取り出すとお母様の滞在予定をスラスラと書き込み、そのまま手帳を見つめている。

大国ブルージェ王国の宰相、ローリー・ディクソン侯爵ーー

分刻みのスケジュールで動いているであろう忙しいおじさまの頭の中は今、お母様との時間を作る為に思考を巡らせているようだった。


私、ロージー・エヴァンスは王女殿下の留学に伴い、8ヶ月前からここブルージェ王国の学園に通っている。

学園には快適な寮が完備されていると聞いていて楽しみにしていたら、お母様の従兄のローリーおじさまに言葉巧みに丸め込まれた。

『侯爵邸の料理人はこの国一といわれる者だ。
ロージーの大好物のパイの包み焼きは絶品で、フルーツを使ったデザートも最高ときている。
ああ、そうそう、因みにうちの護衛騎士の剣の技は騎士団長も舌を巻くほどでな。
うちに住めば毎朝鍛練できるんだけど、残念だ。
ロージーは寮生活をするんだったな』

魅力的な内容に、気づけばディクソン侯爵邸で暮らすことが決定していた。
そして、驚くことに侯爵邸にはすでに私の部屋が準備されていた。
家具は白木、寝相の悪い私専用と思われるキングサイズのベッド、壁紙からカーペットに至るまで私の好きな淡いグリーンでまとめられていた。

『ローリーは頭の回転が速くて口が上手いのよ』

お母様がよく言ってたっけ。
その理由が来て早々によく分かった。


ローリーおじさまに初めて会ったのは2歳の頃だったと聞く。
実のところ、私ははっきりとは覚えていない。
ただ、うっすらとお祖父様の家で私の名前を間違えたおじさんがいたような気はする。

4歳になる頃にお祖父様からもらった子ども用のおもちゃの剣でローリーおじさまを追いかけて、8歳の頃にお母様とブルージェ王国に来て、おじさまに会った。
お母様とのブルージェ王国の旅は楽しかった。

正直、あの頃はお屋敷にいいるのが少しだけ嫌だったから。


エヴァンス公爵家で生まれた私は、お父様にお母様、お祖父様、お祖母様、チャーリー、みんなに可愛がられて愛されて育った。

そんな私には幼い頃に家族が増えた。
ノアお兄様とクラリス様。
何の疑問も持たずにお兄様ができたことが嬉しくて、お兄様の後をついてまわっては真似していた。

でも、家族なのにどうして二人は別邸で暮らしているのか。
お父様が別邸によく行くのはどうしてなのか。
お母様とクラリス様はどうしてあまり話さないのか。

小さな疑問が湧いていたある日、クラリス様と仲の良い別邸のメイド達の会話を聞いて、その答えを知ることになる。

クラリス様とお父様が恋人同士で、お母様がそれを邪魔してお父様と結婚した。
ミラ様は早くお屋敷を出て行けばいいのに。

それを聞いた私は泣いた。
そんな私のそばには護衛のカイがいてくれた。

『ロージー、お母様が5歳の頃からお父様とは婚約していたのよ。
だから、そのメイド達が間違えてるの』

その後、迎えに来てくれたお祖母様が優しく教えてくれた。

『お母様は忙しいから、聞きたい事や知りたい事があったら、いつでもお祖母様の所に来てちょうだい』

お祖母様にはそう言われたけど、結局はその時以降この話について尋ねることはなかった。

興味のあった剣術に夢中になったり、優しい王女殿下と交流することで、気持ちが紛れたのかもしれない。

それに、別邸に行くことが多いお父様のことも、やっぱり大好きだったから。


なのに、お兄様が学園へ行ってからお父様はクラリス様の別邸へ入り浸り、お母様も私の前では明るく振る舞うも明らかに元気がなくって・・・・・・。

そして、私に弟ができた。

小さくって、可愛いヘンリー。

それなのに、胸が苦しかった。





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