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第21話
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「ミラ」
後ろから呼びかけてくる旦那様の声に、ハッと我に返った。
「旦那様・・・・・・」
「・・・どうかしたかい?」
「いえ、もうしばらくかかるかと思っていたので」
「今夜は元々休みだからね。
余程のことがない限りは、呼び出しもかからないはずだったんだ」
「そうだったんですね」
ざわつくダンスフロアに目を向ければ、ちょうど曲が終わったようで踊り終えた男女が移動を始めていた。
「ミラ、踊ってくれるかい?」
「ええ」
エスコートされダンスフロアへ向かうと、次の曲が始まった。
この曲は・・・・・・。
「ミラ、ネックレス、とても似合っている」
「ありがとうございます」
私の首元で美しく輝いている、涙型にカッティングされたブルーダイヤモンドのネックレスは、昨夜旦那様から贈られた。
あまり見たことがない美しく上品なこの形は、他国の技術だという。
クラリス様を差し置いて、この素晴らしいネックレスを手に取ることに迷いがなかったと言えば嘘になるけれど、久しぶりの王城での夜会なのでありがたく頂いた。
他国の王族も出席される夜会で、このネックレスを身につけるのが正解な気がしたから。
『じゃあ、今度はもっと徳大サイズのブルーダイヤモンドを見つけて、愛しの妻に贈るとしよう』
あの時の私がこれを貰ったら、大喜びしたんだろうな。
ぼんやりそんなことを考えていると、旦那様と目が合った。
ロージーによく似た瞳を見つめながら、以前この曲を踊った深い緑色の瞳を思い出した。
「エヴァンス公爵、夫人」
馴染みのある、落ち着いた低音の声が聞こえて一瞬ドキッとしてしまう。
「ディクソン侯爵、お久しぶりです」
「ディクソン侯爵、こんばんは」
挨拶を交わすと、エスコートしていたブロンドヘアに空色の瞳の美しい女性を紹介してくれた。
「こちらは、ロザンヌ・ターナー伯爵令嬢」
「初めまして、エヴァンス公爵様。
エヴァンス公爵夫人」
ロザンヌ様は鈴を転がすような声で挨拶をしてくれて、私の涙型のネックレスを褒めてくれた。
その後、会場でお父様とお母様に会うと、ローリーが女性をエスコートしていたことにえらく興奮していた。
「明日、ローリーが寄って行くからロージーを連れていらっしゃい。
会いたがっていたわよ」
「おかあさま、お願い!」
お茶会までは剣術はお預けのはずが、お父様が孫可愛さに隠れてロージーに幼児用の剣を渡していたらしい。
剣を抱きしめて離さない頑固で可愛い娘に頭を抱えてしまった。
内緒で剣を振っていた成果をお祖父様に見せたい。
ノアのブカブカの服まで着ようとするロージーを言い聞かせて、剣を持って行くことを許可するとジャンプをして喜んでいた。
もう馬車に乗っても、チャーリーの名前を出すことはない。
抱かなくても一人で上手に座り、腕を広げて抱っこをねだることもない。
でも、
『おかあさま』『かあしゃま~!』
私を呼ぶ、その愛らしさは変わらない。
「おじいさま~!おばあさま~!」
伯爵家に到着すると大好きな二人のもとへ走り、ロージーは剣をブンブンと振って、お父様に剣の成果を見せている。
「ロージー、元気だな」
「でしょ?」
ローリーと顔を見合わせて笑ってしまう。
しかも、ローリーが前回のロージーに会った時の話をするものだから、笑いが止まらなくなってしまった。
ゲラゲラ笑うローリーの横顔をみていると、自分の中で引っかかっていたことが思い出された。
「ローリーは・・・・・・」
「ん?何だ?」
ローリーは、サリンジャー氏の主人の投資家なの?
ローリーは、ロザンヌ様と・・・・・・。
喉のあたりまで出かかった言葉は、声に出すことができなかった。
「・・・ううん、何でもない」
「ミラ」
「ん?」
「ドレスの刺繍・・・・・・きれいだったぞ」
ぼそっと、少し恥ずかしそうに褒めてくれた。
「ありがとう、ローリー」
「ローリー!あなた、夜会であんな美しい女性エスコートして、隅に置けないんだから」
その後、ローリーはお母様に捕まって質問攻めに合っていた。
そして、ロージーは剣でローリーを突っついて、ローリーは逃げ回り、ロージーは楽しそうに追いかけていた。
そんな楽しい平和な時間はあっという間に過ぎ、忙しい従兄は手を振って、国へと帰った。
後ろから呼びかけてくる旦那様の声に、ハッと我に返った。
「旦那様・・・・・・」
「・・・どうかしたかい?」
「いえ、もうしばらくかかるかと思っていたので」
「今夜は元々休みだからね。
余程のことがない限りは、呼び出しもかからないはずだったんだ」
「そうだったんですね」
ざわつくダンスフロアに目を向ければ、ちょうど曲が終わったようで踊り終えた男女が移動を始めていた。
「ミラ、踊ってくれるかい?」
「ええ」
エスコートされダンスフロアへ向かうと、次の曲が始まった。
この曲は・・・・・・。
「ミラ、ネックレス、とても似合っている」
「ありがとうございます」
私の首元で美しく輝いている、涙型にカッティングされたブルーダイヤモンドのネックレスは、昨夜旦那様から贈られた。
あまり見たことがない美しく上品なこの形は、他国の技術だという。
クラリス様を差し置いて、この素晴らしいネックレスを手に取ることに迷いがなかったと言えば嘘になるけれど、久しぶりの王城での夜会なのでありがたく頂いた。
他国の王族も出席される夜会で、このネックレスを身につけるのが正解な気がしたから。
『じゃあ、今度はもっと徳大サイズのブルーダイヤモンドを見つけて、愛しの妻に贈るとしよう』
あの時の私がこれを貰ったら、大喜びしたんだろうな。
ぼんやりそんなことを考えていると、旦那様と目が合った。
ロージーによく似た瞳を見つめながら、以前この曲を踊った深い緑色の瞳を思い出した。
「エヴァンス公爵、夫人」
馴染みのある、落ち着いた低音の声が聞こえて一瞬ドキッとしてしまう。
「ディクソン侯爵、お久しぶりです」
「ディクソン侯爵、こんばんは」
挨拶を交わすと、エスコートしていたブロンドヘアに空色の瞳の美しい女性を紹介してくれた。
「こちらは、ロザンヌ・ターナー伯爵令嬢」
「初めまして、エヴァンス公爵様。
エヴァンス公爵夫人」
ロザンヌ様は鈴を転がすような声で挨拶をしてくれて、私の涙型のネックレスを褒めてくれた。
その後、会場でお父様とお母様に会うと、ローリーが女性をエスコートしていたことにえらく興奮していた。
「明日、ローリーが寄って行くからロージーを連れていらっしゃい。
会いたがっていたわよ」
「おかあさま、お願い!」
お茶会までは剣術はお預けのはずが、お父様が孫可愛さに隠れてロージーに幼児用の剣を渡していたらしい。
剣を抱きしめて離さない頑固で可愛い娘に頭を抱えてしまった。
内緒で剣を振っていた成果をお祖父様に見せたい。
ノアのブカブカの服まで着ようとするロージーを言い聞かせて、剣を持って行くことを許可するとジャンプをして喜んでいた。
もう馬車に乗っても、チャーリーの名前を出すことはない。
抱かなくても一人で上手に座り、腕を広げて抱っこをねだることもない。
でも、
『おかあさま』『かあしゃま~!』
私を呼ぶ、その愛らしさは変わらない。
「おじいさま~!おばあさま~!」
伯爵家に到着すると大好きな二人のもとへ走り、ロージーは剣をブンブンと振って、お父様に剣の成果を見せている。
「ロージー、元気だな」
「でしょ?」
ローリーと顔を見合わせて笑ってしまう。
しかも、ローリーが前回のロージーに会った時の話をするものだから、笑いが止まらなくなってしまった。
ゲラゲラ笑うローリーの横顔をみていると、自分の中で引っかかっていたことが思い出された。
「ローリーは・・・・・・」
「ん?何だ?」
ローリーは、サリンジャー氏の主人の投資家なの?
ローリーは、ロザンヌ様と・・・・・・。
喉のあたりまで出かかった言葉は、声に出すことができなかった。
「・・・ううん、何でもない」
「ミラ」
「ん?」
「ドレスの刺繍・・・・・・きれいだったぞ」
ぼそっと、少し恥ずかしそうに褒めてくれた。
「ありがとう、ローリー」
「ローリー!あなた、夜会であんな美しい女性エスコートして、隅に置けないんだから」
その後、ローリーはお母様に捕まって質問攻めに合っていた。
そして、ロージーは剣でローリーを突っついて、ローリーは逃げ回り、ロージーは楽しそうに追いかけていた。
そんな楽しい平和な時間はあっという間に過ぎ、忙しい従兄は手を振って、国へと帰った。
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