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第17話 マーク・エヴァンス
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「父上、こんにちは」
「マーク、久しぶりね」
「ノア、クラリス、待っていたよ」
しばらく使っていなかった別邸を改装して、クラリスとノアが暮らすことが決まった。
家具や壁紙、カーペットを選ぶために、こうして二人は屋敷によく訪れる。
本邸ではミラとロージーが暮らし、別邸ではクラリスとノアが暮らす。
どちらにも自分の部屋があり、寝室がある。
ミラとは寝室を別々にすることが決まったが、別邸はクラリスの希望で大きなサイズの夫婦のベッドがオーダーメイドされた。
「もうすぐ、父上と一緒に暮らせるんだね」
「ふふ、楽しみね」
喜んでいる二人を見ると、やっと二人を迎え入れることが決まった安心感と共に、言いようのないやるせなさを感じてしまう。
『旦那様・・・』
ミラからそう呼ばれるたびに、自分の中に寂しさとも諦めともとれるものが蓄積されていた。
ミラはあの契約書からも分かるように、ただロージーを思って、この屋敷に残る決断をした。
ミラの本心ではない。
・寝室を別にする。
・ロージーが結婚後には、離婚する。
あの時は、理解を見せるしかなかった。
ミラとロージー、二人と離れるなんて考えられなかった。
ましてや離婚なんて。
ミラと別れるなんて、考えられない。
別れたくない。
ミラと別れたくない。
きっと時間をかけて向き合っていけば、いつかミラも分かってくれるはず。
考え直してくれるはず。
ミラを優先して、自分の気持ちを分かってもらおう。
態度で示していこう。
そう思っているのに、現実にはミラを苦しい立場に追い込んでいってしまう。
クラリスが階段で転倒してしまい、抱き上げてとりあえず一番近くの部屋へ運びベッドに寝かせた。
医師の診察の結果は、骨に異常は無いが腰を痛めているのでしばらくは動かさずに安静に過ごすように。とのことだった。
心配するノアに説明し安心させたのも束の間、クラリスを運んだ部屋が夫婦の寝室だと気がついた。
正確にいえばこの寝室は私が使い、ミラは扉の向こうで休んでいる。
でも、ここは夫妻の寝室だ。
夫婦以外の人間がベッドを利用するなんて、あり得ない。
痛み止めを飲んで少し落ち着いたクラリスがそのことに気づいた。
泣き始めたクラリスの少し乱れてしまった髪を優しくなでた。
「クラリス、大丈夫だから。
泣いているとノアも心配してしまう。
とにかく今は、ゆっくりと休んで」
ミラに謝罪し、頭を下げた。
ミラの顔色は明らかに冴えなかった。
そんなミラはクラリスの心配をして、寝室を移動した。
クラリスを心配するノアのために、空いているスペースにノアのベッドを設置した。
私は別室で休むつもりが、結局新しい環境に不安がる二人を放っておけず、それからひと月クラリスが回復に向かうまで、クラリスの隣で眠ることになった。
そんなクラリスは順調に回復し、ノアと完成した別邸へ移り住んだ。
ここひと月は、ミラと顔を合わせる機会が減っていた。
やっと元の生活に戻った。
ロージーの寝顔を見てから夕食。
そして、ミラと語らう。
そんな日常が、平穏で幸せな日々が、殿下の言葉によって崩れていく。
「マーク、クラリスの立場が悪くならないように、次の夜会ではクラリスをエスコートしたらいい」
「マーク、久しぶりね」
「ノア、クラリス、待っていたよ」
しばらく使っていなかった別邸を改装して、クラリスとノアが暮らすことが決まった。
家具や壁紙、カーペットを選ぶために、こうして二人は屋敷によく訪れる。
本邸ではミラとロージーが暮らし、別邸ではクラリスとノアが暮らす。
どちらにも自分の部屋があり、寝室がある。
ミラとは寝室を別々にすることが決まったが、別邸はクラリスの希望で大きなサイズの夫婦のベッドがオーダーメイドされた。
「もうすぐ、父上と一緒に暮らせるんだね」
「ふふ、楽しみね」
喜んでいる二人を見ると、やっと二人を迎え入れることが決まった安心感と共に、言いようのないやるせなさを感じてしまう。
『旦那様・・・』
ミラからそう呼ばれるたびに、自分の中に寂しさとも諦めともとれるものが蓄積されていた。
ミラはあの契約書からも分かるように、ただロージーを思って、この屋敷に残る決断をした。
ミラの本心ではない。
・寝室を別にする。
・ロージーが結婚後には、離婚する。
あの時は、理解を見せるしかなかった。
ミラとロージー、二人と離れるなんて考えられなかった。
ましてや離婚なんて。
ミラと別れるなんて、考えられない。
別れたくない。
ミラと別れたくない。
きっと時間をかけて向き合っていけば、いつかミラも分かってくれるはず。
考え直してくれるはず。
ミラを優先して、自分の気持ちを分かってもらおう。
態度で示していこう。
そう思っているのに、現実にはミラを苦しい立場に追い込んでいってしまう。
クラリスが階段で転倒してしまい、抱き上げてとりあえず一番近くの部屋へ運びベッドに寝かせた。
医師の診察の結果は、骨に異常は無いが腰を痛めているのでしばらくは動かさずに安静に過ごすように。とのことだった。
心配するノアに説明し安心させたのも束の間、クラリスを運んだ部屋が夫婦の寝室だと気がついた。
正確にいえばこの寝室は私が使い、ミラは扉の向こうで休んでいる。
でも、ここは夫妻の寝室だ。
夫婦以外の人間がベッドを利用するなんて、あり得ない。
痛み止めを飲んで少し落ち着いたクラリスがそのことに気づいた。
泣き始めたクラリスの少し乱れてしまった髪を優しくなでた。
「クラリス、大丈夫だから。
泣いているとノアも心配してしまう。
とにかく今は、ゆっくりと休んで」
ミラに謝罪し、頭を下げた。
ミラの顔色は明らかに冴えなかった。
そんなミラはクラリスの心配をして、寝室を移動した。
クラリスを心配するノアのために、空いているスペースにノアのベッドを設置した。
私は別室で休むつもりが、結局新しい環境に不安がる二人を放っておけず、それからひと月クラリスが回復に向かうまで、クラリスの隣で眠ることになった。
そんなクラリスは順調に回復し、ノアと完成した別邸へ移り住んだ。
ここひと月は、ミラと顔を合わせる機会が減っていた。
やっと元の生活に戻った。
ロージーの寝顔を見てから夕食。
そして、ミラと語らう。
そんな日常が、平穏で幸せな日々が、殿下の言葉によって崩れていく。
「マーク、クラリスの立場が悪くならないように、次の夜会ではクラリスをエスコートしたらいい」
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