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第8話
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「・・・・・・ミラ、本当にごめんなさい。
まさか・・・こんなことになっているなんて・・・・・・」
「お義母様・・・私は大丈夫ですので、どうぞお気になさらずに」
「・・・・・・ミラ・・・」
次期公爵夫人に必要な事をお義母様から学ぶために、私は定期的に公爵家を訪れている。
でも、ここ最近はお義母様に会うたびに謝罪されてばかりだ。
今日は大丈夫かも。と思っていたら、話の流れで別邸の改装の件でクラリス様とノアがお屋敷に来ているとつい言ってしまい、また謝罪を受けてしまった。
お義母様は旦那様の乳母であったトンプソン男爵夫人とは古くからの友人で、娘のクラリス様も幼い頃から知っているだけに複雑な思いのようだ。
エヴァンス公爵夫妻も私の実家のスタンリー伯爵夫妻も、結婚当初から今の今まで仲睦まじく暮らし愛人なんて無縁の話なので、別邸にクラリス様とノアが暮らすことを知ってからは特に同情してくれているようだった。
そんなお義母様は心強いことに執事と侍女長に『仕えるのはマークとミラの二人ということを絶対に忘れないように!』と念を押してくれた。
まだ先の話ではあるけれど、公爵夫人として自身を持って臨みたい。
そのためにも、今お義母様からしっかり学び、人脈も広げておきたい。
そして、ブルージェ王国の刺繍の腕をもっと上げたい。
妊娠出産してから足を運べていない孤児院でも刺繍を教えたい。
“ブルージェ王国の刺繍の技術を身につければ、難なく生活していける”
幼い頃に聞いた家庭教師の言葉は、今も私の中で響いている。
孤児院の子ども達にも、私にも、きっといつか役立つ日が来ると思いたい。
アニーを連れて庭を走り回っていたロージーはぐっすりと眠っていた。
お義母様が満足するまでロージーの寝顔を見てから、私達は公爵家を後にした。
「何かあったのかしら?」
「そうですね」
お屋敷へ帰るといつもある出迎えがなく、使用人が忙しそうにしていた。
「奥様、お出迎えが出来ずに申し訳ございませんでした」
私達に気がついた執事が足を止めて深々とお辞儀をする。
「何かありました?」
「実は、クラリス様が階段で転倒されまして・・・」
「クラリス様が!お怪我の具合は?医師は?医師は呼びましたか?」
「旦那様がすぐに医師を呼び、診察も済みました。
今は休まれています」
良かったーー
医師の診察は済んだのね。
でも、階段で転倒なんて・・・・・・。
執事にクラリス様が休まれている部屋まで案内してもらい、後をついて行った。
2階へ上がり、左側へ曲がる。
・・・・・・え?
左側は、旦那様と私の夫婦の寝室や執務室・・・・・・。
執事の背中は、寝室の前で止まった。
空いている扉から、中の様子が伺えた。
クラリス様かベッドに横になり、旦那様がクラリス様の手を握っている。
クラリス様の髪を優しく撫でて、何か話している。
クラリス様は・・・泣いていた。
執事が慌ててーー
私は、ロージーの部屋へ向かった。
「・・・・・・ミラ、すまない・・・」
「クラリス様の具合いはいかがですか?」
「・・・ああ。腰を強く打って、ひと月は安静にとーー」
「そうですか・・・・・・。
痛みはあるのですか?」
「かなり痛むみたいで、薬を飲んだ。
でも、骨には異常は無いと」
「痛みは・・・お辛いですね」
「ミラ・・・・・・
クラリスを夫婦の寝室へ運んでしまい申し訳ない」
最近、謝られてばかりいる。
あまり謝られると、自分が可哀想な人のようで、嫌になる。
「私は、クラリス様が完治するまでは客間へ移りますので・・・・・・大丈夫です」
「・・・・・・本当に、すまない・・・」
旦那様は神妙な面待ちで謝り、頭を下げた。
謝られるのは、もう、
辛かった。
まさか・・・こんなことになっているなんて・・・・・・」
「お義母様・・・私は大丈夫ですので、どうぞお気になさらずに」
「・・・・・・ミラ・・・」
次期公爵夫人に必要な事をお義母様から学ぶために、私は定期的に公爵家を訪れている。
でも、ここ最近はお義母様に会うたびに謝罪されてばかりだ。
今日は大丈夫かも。と思っていたら、話の流れで別邸の改装の件でクラリス様とノアがお屋敷に来ているとつい言ってしまい、また謝罪を受けてしまった。
お義母様は旦那様の乳母であったトンプソン男爵夫人とは古くからの友人で、娘のクラリス様も幼い頃から知っているだけに複雑な思いのようだ。
エヴァンス公爵夫妻も私の実家のスタンリー伯爵夫妻も、結婚当初から今の今まで仲睦まじく暮らし愛人なんて無縁の話なので、別邸にクラリス様とノアが暮らすことを知ってからは特に同情してくれているようだった。
そんなお義母様は心強いことに執事と侍女長に『仕えるのはマークとミラの二人ということを絶対に忘れないように!』と念を押してくれた。
まだ先の話ではあるけれど、公爵夫人として自身を持って臨みたい。
そのためにも、今お義母様からしっかり学び、人脈も広げておきたい。
そして、ブルージェ王国の刺繍の腕をもっと上げたい。
妊娠出産してから足を運べていない孤児院でも刺繍を教えたい。
“ブルージェ王国の刺繍の技術を身につければ、難なく生活していける”
幼い頃に聞いた家庭教師の言葉は、今も私の中で響いている。
孤児院の子ども達にも、私にも、きっといつか役立つ日が来ると思いたい。
アニーを連れて庭を走り回っていたロージーはぐっすりと眠っていた。
お義母様が満足するまでロージーの寝顔を見てから、私達は公爵家を後にした。
「何かあったのかしら?」
「そうですね」
お屋敷へ帰るといつもある出迎えがなく、使用人が忙しそうにしていた。
「奥様、お出迎えが出来ずに申し訳ございませんでした」
私達に気がついた執事が足を止めて深々とお辞儀をする。
「何かありました?」
「実は、クラリス様が階段で転倒されまして・・・」
「クラリス様が!お怪我の具合は?医師は?医師は呼びましたか?」
「旦那様がすぐに医師を呼び、診察も済みました。
今は休まれています」
良かったーー
医師の診察は済んだのね。
でも、階段で転倒なんて・・・・・・。
執事にクラリス様が休まれている部屋まで案内してもらい、後をついて行った。
2階へ上がり、左側へ曲がる。
・・・・・・え?
左側は、旦那様と私の夫婦の寝室や執務室・・・・・・。
執事の背中は、寝室の前で止まった。
空いている扉から、中の様子が伺えた。
クラリス様かベッドに横になり、旦那様がクラリス様の手を握っている。
クラリス様の髪を優しく撫でて、何か話している。
クラリス様は・・・泣いていた。
執事が慌ててーー
私は、ロージーの部屋へ向かった。
「・・・・・・ミラ、すまない・・・」
「クラリス様の具合いはいかがですか?」
「・・・ああ。腰を強く打って、ひと月は安静にとーー」
「そうですか・・・・・・。
痛みはあるのですか?」
「かなり痛むみたいで、薬を飲んだ。
でも、骨には異常は無いと」
「痛みは・・・お辛いですね」
「ミラ・・・・・・
クラリスを夫婦の寝室へ運んでしまい申し訳ない」
最近、謝られてばかりいる。
あまり謝られると、自分が可哀想な人のようで、嫌になる。
「私は、クラリス様が完治するまでは客間へ移りますので・・・・・・大丈夫です」
「・・・・・・本当に、すまない・・・」
旦那様は神妙な面待ちで謝り、頭を下げた。
謝られるのは、もう、
辛かった。
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