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第5話

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「信じられない!なんて人なの!
娘の結婚を何だと思ってるのよ!!」 

「いや、私だって言いたかったさ。
でもだな、王族が絡んでいるんだ」

「だからって・・・・・・」

「ミラ・・・・・・謝って済む話じゃないのは分かってる。
でも、本当に申し訳ない」

「今更なのよ!!
さぁ、ミラ、あんな人は放っておいて行きましょう」


実家のスタンリー伯爵家に帰ってきて1週間になる。

帰ってきた時の私の様子がおかしいことに気づいたお母様に何が起きたのか問い詰められ、あの日の出来事を話した。

それを聞いたお母様は激昂した。
しかも、お父様があの二人に子どもが居ることを知りながら私を結婚させたことを白状すると、お母様はお父様を軽蔑し顔を見る度に蒸し返しては罵っている。

お母様が大好きなお父様は、それは気の毒に思えるほど落ち込んでいる。

お父様も詳しい話は聞いていないらしく、この話を知っているのはお父様とエヴァンス公爵様の二人だけだという。


王族が絡んでいるーー

今更そんなことを聞いても、何も変わる事なんてない。


お兄様はクラリス様との間に子どもがいる。

私はお兄様と結婚して、ロージーがいる。

お兄様はクラリス様を、愛している。



『離婚してしまいなさい。そうして頂戴。
それで、お父様の親戚が大勢住むブルージェ王国に4人で行きましょう。
え?お父様?
あの人は置いて行くに決まってるでしょ』

お母様は口癖のようにそう言ってくれる。

そして、伯爵家に訪ねてくるお兄様を毎回追い返していた。


離婚の二文字は、あの日から私の頭の中を占めている。
 
逃げてばかりじゃなく、先に進まなくてはいけないのはわかっている。

でも、屋敷に帰ってあの人クラリス様が居たら。
お兄様にそっくりな、あの少年が居たら。
三人が並んでる姿を見て、平然としていられるだろうか。

もし、クラリス様が“マーク”と親しげに呼んで、それに応えるお兄様を見て、平気でいられるだろうか。

惨めに感じないだろうか。


これは、一度は離した手をまた取った罰なのかもしれない・・・・・・。


「かあしゃま~!!」

チャーリーに纏わりついて大満足のロージーが、とびっきりの笑顔で手を振ってくる。

『とーしゃまは?』

こんなに長い期間スタンリー伯爵家に滞在することことはないので、ロージーには何度も聞かれている。
 

そろそろなのかもしれない・・・・・・。

心の準備も出来ていないし、これからどうするのかも決まっていない。

でも、一度お屋敷に帰ることにした。






「とーしゃまね、とーしゃま」

馬車に乗っている時から、ロージーは目を輝かせていた。

「そうね、お父様に会うの久しぶりね」

「うん!」

馬車の窓に顔を向けて、「おうち、おうち」と言っている。
そして、お屋敷が見えると今にも飛び出して行きそうにはしゃぐので、落ちないように抱きしめた。


「ミラ、ロージー!」

「とーしゃま!!」

嬉しそうに、
すごく嬉しそうにお兄様に向かって走って、
抱きつくロージーを見た瞬間に、
答えは出た。


ロージーから、お父様を引き離すことなんてできない。



それに、わかっている。

離婚したところで、今の私にできることなんて無いことを。
ブルージェ王国の刺繍だって、ここ2年はほぼやっていないに等しい。
外国語が話せるだけで、果たして仕事が見つかるのか。

所詮は貴族の世界で生きてきた私がそれを手放して、ロージーに肩身の狭い思いをさせるだけだろう。

お母様だって、ああ言ってはくれているけど、友人が多くて華やかな世界が好きで、お茶会や夜会で美しいお母様の周りにはいつも人が集まる。

お母様の世界はこの国にある。



ぼんやりとしていると、ロージーを抱き上げたお兄様が向かってきた。

「・・・・・・ミラ、帰ってきてくれてありがとう。
それと、本当に申し訳ない・・・」

頭を下げるお兄様にロージーが「めっ!」と言って叱りつけている。

可愛いロージーを抱き上げているお兄様を見て、わからない感情が込み上げてくる。

お兄様は沈痛な表情を浮かべて、ただ頷くことしかできない私を、そっと抱きしめた。





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