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第4話
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お兄様を見ているようだった。
私が5歳の時に婚約者になった、私の王子様を。
あの時のお兄様よりは幼く感じるけれど、『よろしくね、お姫様』今にもそう言って手を差し出してきそうだった。
驚きで、ただそれだけで少年を見つめていた。
でも、次第に胸の辺りがおかしくなり始めた。
「かあしゃま!」
ロージーの声にハッと我に帰る。
「にぃに!」
ロージーを見ると、まるで私に紹介でもするかのように少年の手を持ち上げ見せている。
止まっていた頭が動き出して、この状況を少しずつ理解してきた時、一番恐れていた人物の声が聞こえて、真っ赤な美しい髪が目に入った。
「ノア!そんなに急がないでちょうだい」
クラリス様・・・・・・。
隣国に・・・
高位貴族に見初められて、隣国へ嫁いだんじゃ・・・・・・。
でも、この少年は・・・
マークお兄様の・・・・・・。
ロージーは、
ロージーは、どうしてこの少年を知っているの?
この少年は言ってた。
『ロージー!また遊びに来たよ!」
私は、何も知らない。
頭がぐちゃぐちゃになっていくのを、深呼吸をして冷静さを保とうと必死に耐えていると、小さな手がドレス引っ張っていることに気づいた。
「かあしゃま・・・」
ロージー・・・・・・。
私はロージーを抱き上げると、ロージーの髪に顔をうずめた。
ロージーの柔らかい天使のような髪を感じながらふわっと香る甘い匂いに幸福感を得ると、ゆっくりと歩き出した。
「お客様ですね。
今、執事を呼びますのでお待ちください」
ふたりの姿を見るつもりなんてなかった。
なのに、部屋を出ようとする私にクラリス様が何かを言おうとしているのがわかり、一瞬目を向けてしまった。
「あの・・・・・・マークから聞いてませんか?
これには、理由があるんです」
その首元の、マークお兄様を思わせるブルーダイヤモンドのネックレスは、私の指輪のものよりも大きくて、美しく輝きを放っていた。
『じゃあ、今度はもっと徳大サイズのブルーダイヤモンドを見つけて、愛しの妻に贈るとしよう』
愛しの妻は、私ではなかったんだ。
部屋を出ると、執事と使用人が立ちすくんでいた。
多分、一部始終を見たんだろう。
何も言わなくても、きっと後はどうにかしてくれる。
私はロージーを抱いたまま、外へ向かって馬車に乗り込んだ。
「かあしゃま、かあしゃま!
チャーリー!チャーリー!」
馬車に乗れば弟のチャーリーに会えると思って、ロージーは喜んでいる。
「そうね」
何も、考えたくなかった。
なのに、あの少年とクラリス様の姿が頭から離れない。
あの少年は、間違いなくマークお兄様とクラリス様の子どもだろう。
わからない・・・・・・。
どうして、私と結婚したのか。
どうして、『愛してる』なんて言ったのか。
『マーク』
クラリス様は、お兄様をそう呼んでいた。
まるで、毎日呼んでいるみたいに、自然に呼んでいた。
きっと、あの二人の元に帰っていたんだ。
でも、でも、
本当はわかっていたはず。
弟が誕生したあの日、丘で見たことが全てだ。
邪魔者は私なのに。
なのに、いつから勘違いしたんだろう。
大切にされている。
愛されている。
そんなこと、あり得ないのに。
膝の上で、喜んでいるロージーを抱きしめる。
ロージーのぬくもりが、誕生した時を思い出させる。
小さな小さな宝物が産まれた時、涙が溢れた。
抱き上げると壊れそうな、温かい存在に愛おしさが込み上げた。
ロージー・・・・・・。
泣いていることを気づかれないように、私はロージーの髪に優しく顔をうずめた。
私が5歳の時に婚約者になった、私の王子様を。
あの時のお兄様よりは幼く感じるけれど、『よろしくね、お姫様』今にもそう言って手を差し出してきそうだった。
驚きで、ただそれだけで少年を見つめていた。
でも、次第に胸の辺りがおかしくなり始めた。
「かあしゃま!」
ロージーの声にハッと我に帰る。
「にぃに!」
ロージーを見ると、まるで私に紹介でもするかのように少年の手を持ち上げ見せている。
止まっていた頭が動き出して、この状況を少しずつ理解してきた時、一番恐れていた人物の声が聞こえて、真っ赤な美しい髪が目に入った。
「ノア!そんなに急がないでちょうだい」
クラリス様・・・・・・。
隣国に・・・
高位貴族に見初められて、隣国へ嫁いだんじゃ・・・・・・。
でも、この少年は・・・
マークお兄様の・・・・・・。
ロージーは、
ロージーは、どうしてこの少年を知っているの?
この少年は言ってた。
『ロージー!また遊びに来たよ!」
私は、何も知らない。
頭がぐちゃぐちゃになっていくのを、深呼吸をして冷静さを保とうと必死に耐えていると、小さな手がドレス引っ張っていることに気づいた。
「かあしゃま・・・」
ロージー・・・・・・。
私はロージーを抱き上げると、ロージーの髪に顔をうずめた。
ロージーの柔らかい天使のような髪を感じながらふわっと香る甘い匂いに幸福感を得ると、ゆっくりと歩き出した。
「お客様ですね。
今、執事を呼びますのでお待ちください」
ふたりの姿を見るつもりなんてなかった。
なのに、部屋を出ようとする私にクラリス様が何かを言おうとしているのがわかり、一瞬目を向けてしまった。
「あの・・・・・・マークから聞いてませんか?
これには、理由があるんです」
その首元の、マークお兄様を思わせるブルーダイヤモンドのネックレスは、私の指輪のものよりも大きくて、美しく輝きを放っていた。
『じゃあ、今度はもっと徳大サイズのブルーダイヤモンドを見つけて、愛しの妻に贈るとしよう』
愛しの妻は、私ではなかったんだ。
部屋を出ると、執事と使用人が立ちすくんでいた。
多分、一部始終を見たんだろう。
何も言わなくても、きっと後はどうにかしてくれる。
私はロージーを抱いたまま、外へ向かって馬車に乗り込んだ。
「かあしゃま、かあしゃま!
チャーリー!チャーリー!」
馬車に乗れば弟のチャーリーに会えると思って、ロージーは喜んでいる。
「そうね」
何も、考えたくなかった。
なのに、あの少年とクラリス様の姿が頭から離れない。
あの少年は、間違いなくマークお兄様とクラリス様の子どもだろう。
わからない・・・・・・。
どうして、私と結婚したのか。
どうして、『愛してる』なんて言ったのか。
『マーク』
クラリス様は、お兄様をそう呼んでいた。
まるで、毎日呼んでいるみたいに、自然に呼んでいた。
きっと、あの二人の元に帰っていたんだ。
でも、でも、
本当はわかっていたはず。
弟が誕生したあの日、丘で見たことが全てだ。
邪魔者は私なのに。
なのに、いつから勘違いしたんだろう。
大切にされている。
愛されている。
そんなこと、あり得ないのに。
膝の上で、喜んでいるロージーを抱きしめる。
ロージーのぬくもりが、誕生した時を思い出させる。
小さな小さな宝物が産まれた時、涙が溢れた。
抱き上げると壊れそうな、温かい存在に愛おしさが込み上げた。
ロージー・・・・・・。
泣いていることを気づかれないように、私はロージーの髪に優しく顔をうずめた。
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