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第1話
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嬉しい知らせを誰よりも早く伝えたくて、大好きな婚約者の元に駆けつけた。
その日の早朝に、お母様が男の子を出産した。
待ちに待った、私の弟。
小さな小さな弟はちょっぴりしわしわで、まだ目も開いていなくって。
そして、お母様にそっくりの天使のようなプラチナブロンドの髪がクルンとカールしていて。
小さな手に自分の人差し指をそっと乗せたら、ぎゅっと握ってくれて。
その小さな温かな存在に胸がいっぱいになった。
マークお兄様は、きっといつもの場所に居るんだろう。
お屋敷の裏は小高い丘になっていて、街並みが見渡せ、遠くには山々も美しく聳え立ち、雨上がりには大きな虹が見られるそのお気に入りの場所で読書でもしてるはず。
だから、馬車を降りると一目散に走って、ここへ来たーー
でも、大きな木の前でマークお兄様がひとりじゃないことに気がついて、咄嗟に木の影に隠れてしまった。
「・・・・・・クラリス・・・」
「・・・・・・マーク・・・・・・」
あれは・・・あの真っ赤な美しい髪は、マークお兄様の幼馴染のクラリス様・・・・・・。
「・・・もし、もし、辛いことがあったらここへ来て」
「・・・・・・マーク」
「ここで、君を待ってるから」
ふたりは見つめ合って、
その手は繋がれていた。
私の胸はぎゅっと苦しくなって、それ以上見ていられなくて、そのまま走り出した。
10歳の私でも、ふたりの様子が何を意味するのか簡単に理解できた。
あのふたりは、
想い合っている・・・・・・。
馬車に揺られてお屋敷へ戻ると、後継ぎでもある弟の誕生にお祝いムード一色で、誰もが浮かれて相次ぐ来客の対応に追われていた。
私のちょっとした異変に気づいているのは、マークお兄様の所へ同行した侍女のアニーと護衛のカイ。
「おい、ミラ!
王子様には会ったのか?
・・・・・・っ、・・・どした?」
あと、隣国から来ている年上の従兄のローリー。
「・・・・・・ない。何でもない」
部屋に入ると、ベッドに飛び込んだ途端に我慢していたものが込み上げてきた。
あのふたりが見つめ合って、手を繋いでいる姿が頭から離れなかった。
『・・・・・・クラリス・・・』
優しいとも違う、見たことのない表情でクラリス様の名前を呼んでいた。
クラリス様はマークお兄様の乳母の娘さんで男爵令嬢だ。
ふたりは本当に幼い頃からそばに居たと聞いている。
『最近、乳母だった男爵夫人が倒れてしまって・・・・・・』
前回のお茶会でマークお兄様は心配そうに話していた。
美しい赤毛にグレーの瞳のクラリス様。
金髪碧眼の、今までは私の王子様だったマークお兄様と、お似合いだった。
それに比べて、私はこの国では平凡と言われる茶色の髪に茶色の瞳だ。
しかも、鼻の辺りにはそばかすが目立つ。
隣国のブルージェ王国の血が流れるお父様は、私を可愛いと褒めてくれるし、従兄のローリーは、『それはな、“天使からのキス”って言ってだな、ブルージェでは美人の象徴なんだぞ。この国のやつらは分かってない』と多分慰めてくれている。
でも、そばかすはこの国ではあまり良く思われないのを知っている。
あのふたりは14歳で、王都の同じ学園に通っている。
学園で仲良く過ごしているのかな・・・・・・。
5歳の頃に、私の世界に突然現れた王子様。
『よろしくね。お姫様』
そう言って手を差し出してくれた。
私はその手をギュッと握った。
この手を離さないんだから。って言うように。
でも、その手を離さないといけないようだ。
きっと、近いうちに私はマークお兄様から婚約解消されるんだろう。
考えてはいけないとわかっているのに、ふたりの事を考えては自分は邪魔者なんだと落ち込んで、涙と鼻水を流しながら私は眠りについた。
5歳でマークお兄様の婚約者になってから5年、初めての失恋を経験した私だったが・・・・・・
婚約はそう簡単には解消されるものではなかった。
その日の早朝に、お母様が男の子を出産した。
待ちに待った、私の弟。
小さな小さな弟はちょっぴりしわしわで、まだ目も開いていなくって。
そして、お母様にそっくりの天使のようなプラチナブロンドの髪がクルンとカールしていて。
小さな手に自分の人差し指をそっと乗せたら、ぎゅっと握ってくれて。
その小さな温かな存在に胸がいっぱいになった。
マークお兄様は、きっといつもの場所に居るんだろう。
お屋敷の裏は小高い丘になっていて、街並みが見渡せ、遠くには山々も美しく聳え立ち、雨上がりには大きな虹が見られるそのお気に入りの場所で読書でもしてるはず。
だから、馬車を降りると一目散に走って、ここへ来たーー
でも、大きな木の前でマークお兄様がひとりじゃないことに気がついて、咄嗟に木の影に隠れてしまった。
「・・・・・・クラリス・・・」
「・・・・・・マーク・・・・・・」
あれは・・・あの真っ赤な美しい髪は、マークお兄様の幼馴染のクラリス様・・・・・・。
「・・・もし、もし、辛いことがあったらここへ来て」
「・・・・・・マーク」
「ここで、君を待ってるから」
ふたりは見つめ合って、
その手は繋がれていた。
私の胸はぎゅっと苦しくなって、それ以上見ていられなくて、そのまま走り出した。
10歳の私でも、ふたりの様子が何を意味するのか簡単に理解できた。
あのふたりは、
想い合っている・・・・・・。
馬車に揺られてお屋敷へ戻ると、後継ぎでもある弟の誕生にお祝いムード一色で、誰もが浮かれて相次ぐ来客の対応に追われていた。
私のちょっとした異変に気づいているのは、マークお兄様の所へ同行した侍女のアニーと護衛のカイ。
「おい、ミラ!
王子様には会ったのか?
・・・・・・っ、・・・どした?」
あと、隣国から来ている年上の従兄のローリー。
「・・・・・・ない。何でもない」
部屋に入ると、ベッドに飛び込んだ途端に我慢していたものが込み上げてきた。
あのふたりが見つめ合って、手を繋いでいる姿が頭から離れなかった。
『・・・・・・クラリス・・・』
優しいとも違う、見たことのない表情でクラリス様の名前を呼んでいた。
クラリス様はマークお兄様の乳母の娘さんで男爵令嬢だ。
ふたりは本当に幼い頃からそばに居たと聞いている。
『最近、乳母だった男爵夫人が倒れてしまって・・・・・・』
前回のお茶会でマークお兄様は心配そうに話していた。
美しい赤毛にグレーの瞳のクラリス様。
金髪碧眼の、今までは私の王子様だったマークお兄様と、お似合いだった。
それに比べて、私はこの国では平凡と言われる茶色の髪に茶色の瞳だ。
しかも、鼻の辺りにはそばかすが目立つ。
隣国のブルージェ王国の血が流れるお父様は、私を可愛いと褒めてくれるし、従兄のローリーは、『それはな、“天使からのキス”って言ってだな、ブルージェでは美人の象徴なんだぞ。この国のやつらは分かってない』と多分慰めてくれている。
でも、そばかすはこの国ではあまり良く思われないのを知っている。
あのふたりは14歳で、王都の同じ学園に通っている。
学園で仲良く過ごしているのかな・・・・・・。
5歳の頃に、私の世界に突然現れた王子様。
『よろしくね。お姫様』
そう言って手を差し出してくれた。
私はその手をギュッと握った。
この手を離さないんだから。って言うように。
でも、その手を離さないといけないようだ。
きっと、近いうちに私はマークお兄様から婚約解消されるんだろう。
考えてはいけないとわかっているのに、ふたりの事を考えては自分は邪魔者なんだと落ち込んで、涙と鼻水を流しながら私は眠りについた。
5歳でマークお兄様の婚約者になってから5年、初めての失恋を経験した私だったが・・・・・・
婚約はそう簡単には解消されるものではなかった。
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