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第19話
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スティーブン様にそんな真剣な顔をされると、もしかしたら・・・なんて気持ちが芽生えてしまう。
でも、でも、実際には信じられるものではなかった。
スティーブン様の見張りをするあの日まで、一介のメイドである私と公爵家当主であるスティーブン様の接点なんてある筈もなく、たまに見かけても深々と頭を下げる私の前を通るスティーブン様とは目が合うことすら無かった。
それが、あの日たまたま目を覚まして、私を見たか見ないかもわからない位のたった一瞬で好意を抱くものなのか。
とてもじゃないけど、魅了に掛かったことに好意が関係あるとは思えなかった。
目覚めて最初に私の顔を見てしまい魅了に掛かった。
それだけの話だ。
そして、正気に戻ったものの夜会でまた私を見かけてしまい、何かの形で術に掛かった状態になった。
二度目だから以前に比べると、自然に見えるのではないかと思う。
それにしても、婚約なんてーー
ジェレミーさんやヘンリーさんは、どうしてこんな状態のスティーブン様のそばに居ないんだろう。
今回はスティーブン様に助けられて本当に感謝している。
でも、婚約話をされるなんて公爵家は私を良く思わないだろう。
遠く離れたクリケット伯爵領へ行ったはずのメイドが御当主様に近づいて誘惑した。
なんて話になったら・・・。
「スティーブン様。
とりあえずはアンドリュー様にお会いして、そして、ジェレミーさんかヘンリーさんを待ちましょう」
「ジョイ、
俺は術には掛かっていない。
最初の頃は確かに君に夢中になり過ぎていた。
君に逢いたくて、一緒に居ると嬉しくて楽しくて。
本当に全部覚えているんだ。
パイが好きで絵を描くのが好きなジョン、紅茶を淹れるのが上手でしっかり者のジャック、肩車が大好きで会うたびに新しい言葉を覚えているジャン。
そして、弟達が大好きで頑張り屋の美しいジョイ。
毎朝起きると、庭園で君を思いながら薔薇を1本選んで子爵邸へ向かった。
君達と共に過ごす朝の時間は、俺にとって幸せなひとときだった。
初めてのデートでは、ボートに乗り、話題のカフェへ行った。
君と一緒に過ごせて幸せで、あの時ほどジェレミーを邪魔に思ったことはない。
花祭りのダンスは、今まででのダンスの中で一番楽しい経験で、あのまま時が止まってしまえばいいと思った。
サーカスの時に、俺が贈った髪飾りをつけた君はとても美しかった。
女性に贈り物をしたのは、初めてでだったんだ。
自分が贈ったものを愛する女性が身につけてくれるのが、あれ程嬉しく幸せだなんて知らなかった。
あの時、溢れる気持ちを抑えられずに、君に気持ちを告げた。
それなのに、次の約束の日、俺は激しい頭痛と共に君のことを忘れてしまった。
ジョイ、今更だけど、本当に申し訳なかった」
スティーブン様はそこまで話すと、頭を下げた。
そして、また話し始めた。
「でも、それは一時的だったんだ。
俺は徐々に君を思い出した。
頭の中に君が現れて、それが続いて日増しに君の存在が頭の中で大きくなっていった。
断片的だったものが繋がって、ある時全てを思い出した。
でも、肝心の君が消えていた。
すぐに、ジェレミーとヘンリーを問い詰めたよ。
そうしたら、君に金銭取引を持ちかけて俺の相手をさせたと聞いた。
そして、今はクリケット伯爵領に居ると。
本当は、すぐに会いに行って謝罪したかった。
君が断れないことを知っていて、契約書まで準備するなんて本来許されることではない。
でも、騎士団の仕事が立て込んでかなわなかった。
アンディに連絡すると、夜会へジョイと一緒に出席するからその時に話せと言われた。
まぁ、結果話せなかった。
ジョイ、公爵家の者の横暴ともいえる対応、本当に申し訳ない」
スティーブン様は、また頭を下げた。
「いや、謝罪なんかやめて下さいよ。
私の方こそ金銭に釣られて、むしろ進んで引き受けたんですから」
これは事実だ。
5倍の給金に釣られた。
スティーブン様が頭を上げたと同時に、馬車が停車した。
どうやら伯爵家に到着したようだった。
スマートなエスコートで馬車を降りると、スティーブン様は用意されていた馬に飛び乗った。
「ジョイ、アンディが戻ったみたいだから、俺は行くよ。
さっき話した通り、明日にはウッズ男爵にジョイとの婚約を申し込むから覚悟しておいて」
「スティーブン様!」
なぜか、スティーブン様は笑っていた。
「ジョイが俺のことを名前で二度も呼んでくれて嬉しいよ」
そう言うと、走り去って行った。
でも、でも、実際には信じられるものではなかった。
スティーブン様の見張りをするあの日まで、一介のメイドである私と公爵家当主であるスティーブン様の接点なんてある筈もなく、たまに見かけても深々と頭を下げる私の前を通るスティーブン様とは目が合うことすら無かった。
それが、あの日たまたま目を覚まして、私を見たか見ないかもわからない位のたった一瞬で好意を抱くものなのか。
とてもじゃないけど、魅了に掛かったことに好意が関係あるとは思えなかった。
目覚めて最初に私の顔を見てしまい魅了に掛かった。
それだけの話だ。
そして、正気に戻ったものの夜会でまた私を見かけてしまい、何かの形で術に掛かった状態になった。
二度目だから以前に比べると、自然に見えるのではないかと思う。
それにしても、婚約なんてーー
ジェレミーさんやヘンリーさんは、どうしてこんな状態のスティーブン様のそばに居ないんだろう。
今回はスティーブン様に助けられて本当に感謝している。
でも、婚約話をされるなんて公爵家は私を良く思わないだろう。
遠く離れたクリケット伯爵領へ行ったはずのメイドが御当主様に近づいて誘惑した。
なんて話になったら・・・。
「スティーブン様。
とりあえずはアンドリュー様にお会いして、そして、ジェレミーさんかヘンリーさんを待ちましょう」
「ジョイ、
俺は術には掛かっていない。
最初の頃は確かに君に夢中になり過ぎていた。
君に逢いたくて、一緒に居ると嬉しくて楽しくて。
本当に全部覚えているんだ。
パイが好きで絵を描くのが好きなジョン、紅茶を淹れるのが上手でしっかり者のジャック、肩車が大好きで会うたびに新しい言葉を覚えているジャン。
そして、弟達が大好きで頑張り屋の美しいジョイ。
毎朝起きると、庭園で君を思いながら薔薇を1本選んで子爵邸へ向かった。
君達と共に過ごす朝の時間は、俺にとって幸せなひとときだった。
初めてのデートでは、ボートに乗り、話題のカフェへ行った。
君と一緒に過ごせて幸せで、あの時ほどジェレミーを邪魔に思ったことはない。
花祭りのダンスは、今まででのダンスの中で一番楽しい経験で、あのまま時が止まってしまえばいいと思った。
サーカスの時に、俺が贈った髪飾りをつけた君はとても美しかった。
女性に贈り物をしたのは、初めてでだったんだ。
自分が贈ったものを愛する女性が身につけてくれるのが、あれ程嬉しく幸せだなんて知らなかった。
あの時、溢れる気持ちを抑えられずに、君に気持ちを告げた。
それなのに、次の約束の日、俺は激しい頭痛と共に君のことを忘れてしまった。
ジョイ、今更だけど、本当に申し訳なかった」
スティーブン様はそこまで話すと、頭を下げた。
そして、また話し始めた。
「でも、それは一時的だったんだ。
俺は徐々に君を思い出した。
頭の中に君が現れて、それが続いて日増しに君の存在が頭の中で大きくなっていった。
断片的だったものが繋がって、ある時全てを思い出した。
でも、肝心の君が消えていた。
すぐに、ジェレミーとヘンリーを問い詰めたよ。
そうしたら、君に金銭取引を持ちかけて俺の相手をさせたと聞いた。
そして、今はクリケット伯爵領に居ると。
本当は、すぐに会いに行って謝罪したかった。
君が断れないことを知っていて、契約書まで準備するなんて本来許されることではない。
でも、騎士団の仕事が立て込んでかなわなかった。
アンディに連絡すると、夜会へジョイと一緒に出席するからその時に話せと言われた。
まぁ、結果話せなかった。
ジョイ、公爵家の者の横暴ともいえる対応、本当に申し訳ない」
スティーブン様は、また頭を下げた。
「いや、謝罪なんかやめて下さいよ。
私の方こそ金銭に釣られて、むしろ進んで引き受けたんですから」
これは事実だ。
5倍の給金に釣られた。
スティーブン様が頭を上げたと同時に、馬車が停車した。
どうやら伯爵家に到着したようだった。
スマートなエスコートで馬車を降りると、スティーブン様は用意されていた馬に飛び乗った。
「ジョイ、アンディが戻ったみたいだから、俺は行くよ。
さっき話した通り、明日にはウッズ男爵にジョイとの婚約を申し込むから覚悟しておいて」
「スティーブン様!」
なぜか、スティーブン様は笑っていた。
「ジョイが俺のことを名前で二度も呼んでくれて嬉しいよ」
そう言うと、走り去って行った。
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