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第12話

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目の前で食事をとっている人は、どこから見ても男性だった。
何だか、もう訳がわからなかった。

「まぁ、私のことは今は置いておいて、今日は頼みがあって来たんだ。
1週間後に王宮で夜会があるんだけど、君にパートナーになってほしい」

「はぁ?」

夜会?
夜会って言った?

「あの、私、平民なんですけど」

「ああ、君達姉弟ね、平民じゃないよ。
ハドソン子爵令嬢ではないけど、母方のウッズ男爵の養女になってるから」

「はぁ?」

「だから、平民じゃない。
ドレスは手配済み。
1週間後の9時頃に迎えを寄越すから、王都のクリケット伯爵家で待ってて。
なるべく早く迎えに行く」

「ちょっ、あの、困りますよ。
夜会なんて無理ですよ」 

「でも、確かデビュダント済ませてるでしょ。
ダンスは、まぁ、一曲踊ってもらうかも。
ああ、久しぶりでダンスに自信がないないなら、ダンス講師を手配するようにダニエルに伝えとくよ」

「いえ、あの、そういうことではなくてですねぇ。
ダンスも勿論、踊れませんけど」

「じゃあ、手配しておく。
ああ、夜会の日は特別手当で10倍の給金。
ドレスも君の物にして構わない。
マダムエブリンのドレスだから、売ってもなかなかの金額になるよ」

「引き受けましょう」

10倍の給金に、有名店のドレス付きと聞いて、断る理由は無かった。
これから、お金は必要になる。
稼げる時に稼がなくては。

急に態度を変えた私を見て、アンジー様、いや、アンドリュー様は笑っていた。

その後、忙しいアンドリュー様は出掛けて夜遅くに帰り、また翌朝には王都へ帰った。


私達姉弟が母方のウッズ男爵の養子になっていたのには驚いた。
どうして、父は何も言わなかったんだろう。
母方の親族も、あの時は誰一人として私達に接触してこなかった。

何か、理由があるのか。

弟達にはまだこの話はしていない。
養子になった理由も不明なのに、それにまた今度は男爵家から離籍されないとも限らない。
もう、振り回されるのはごめんだった。


そして、アンドリュー様は何を考えているのか。
アンジー様のこともよく分からないけど、夜会にはアンドリュー様として出席するってこと?

魔術師団長は男性だって、割と有名。
って言ってたな。

パートナーが私なのも意味不明だけど、給金にドレスも貰えるんだ。
大人しく俯いてれば、どうにかなるだろう。

夜会までの1週間は、毎日2時間ダンスを習った。
2年振りのダンスは意外にも体が覚えていて、講師にも褒められた。


夜会の夜は王都のクリケット伯爵家に泊まることになる。
“このクリケット伯爵領の屋敷は結界も張られてどこよりも安全”
アンドリュー様も言ってたし、グレースさんも弟達の様子を見てくれるから心配ないだろう。

「いってらっしゃい。楽しんで来てくださいね」

「ねーたん、おかし、おかし」

「姉ちゃん、心配いらないよ。
公爵さまによろしく」

ジョンの言葉は聞かなかったことにした。
3人には、奮発して高級菓子店でお土産を買ってこよう。
私は迎えの馬車に乗り、王都のクリケット伯爵家へ向かった。 



到着したクリケット伯爵家では、待ち構えていた侍女3人に徹底的に磨き上げられ、淡いブルーのマーメイドといわれる形のドレスを着せられ、化粧に髪もセットされた。

「大変お似合いです」
「素敵です」
褒め上手の侍女に変身させられた私は、別人のように美しく仕上がっていた。






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