上 下
10 / 21

第10話

しおりを挟む
「あれ?姉ちゃん早いね。
忘れもの?」

「ねーたん、わしゅれ?」

「公爵様はね、急に騎士団の仕事がはいったの」

こうなることは予めわかっていたので、言う台詞は決めていた。

「そっかー。
でも、考えれてみれば騎士団長だもんなー」

「そうですね」

「ねー」

弟達に、怪しまれるわけにはいかないし、心配もかけたくない。

スティーブン様が正気に戻ったからには、私はもう公爵家に行くことはないし、スティーブン様に会うこともないだろう。

多分早ければ今日、遅くても明日には新しい勤め先が知らされて、すぐにここから出て行かないといけない。
私達の持ち物なんて大した量ではないから、すぐに準備はできる。

「ねぇ、みんなで出かけよっか。
甘いもの、食べたかったんでしょ」

王都で過ごすのも最後になるし、少しばかりの贅沢は許されるだろう。
ありがたいことに、お金は結構持っている。

大喜びする弟達と、庶民的なカフェでケーキを食べた。 
この店のケーキは美味しい。
でも、ここ最近食べていたデザートは、バターや砂糖が惜しみなく使われて、見た目も美しかった。
子爵令嬢の時はたまに食べたことがあった。
でも、生活が激変して甘いものは贅沢品に変わり、ケーキなんて滅多に食べられなくなった。

いちごのタルトを思い出す。
あれは夢だった。
そして、夢から醒めた。
そんな気がした。



大満足の弟達と子爵家の裏口へ進むと、そこには公爵家執事のヘンリーさんが居た。
弟達には家に戻ってもらい、私は近くに停めてあった馬車の中で話を聞いた。

新しい勤め先は、ここから4時間程西へ向かった伯爵家。
お屋敷の敷地内の小さな家に、有難いことに弟達と暮らせるらしい。
迎えの馬車は明日の9時。
最後に、ヘンリーさんからお給金を貰った。


弟達に職場が変わることを話した。   
反対される覚悟で告げるも、ジョンとジャックは子爵家から離れたかったようで、悪くない反応だった。
母が亡くなってから、父親が新しい奥さんを迎え、子どもがすぐに生まれたことは複雑で、しかも同じ敷地内に暮らすのは嫌だったみたいだ。

「公爵様はいいの?
会えなくなるんじゃない?」

「当分の間、忙しくなるみたい。
騎士団長だからね。
まぁ、また会えるわよ」

そりゃあ毎朝欠かさずに薔薇の花を持ってきて、休日はデートだってしてたから、そう思われてもしょうがない。

「明日の朝、会えるか・・・」


弟達もスティーブン様に懐いていたから、きっと会いたかったんだろう。

でも、翌朝スティーブン様は現れなかった。


私達は荷物の準備と部屋の片付けを済ませて、子爵家の以前から知る使用人に挨拶し、家を出た。

私は、花瓶の薔薇3本と髪飾りを持った。



西に位置する伯爵家は、子爵領の近くを通る。
子爵領にある母のお墓に立ち寄ってもらい、4人で母に伯爵領に行くことを報告した。

お墓はきれいに保たれ、母の好きだった白い薔薇が置かれていた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こんな姿になってしまった僕は、愛する君と別れる事を決めたんだ

五珠 izumi
恋愛
僕たちは仲の良い婚約者だった。 他人の婚約破棄の話を聞いても自分達には無縁だと思っていた。 まさか自分の口からそれを言わなければならない日が来るとは思わずに… ※ 設定はゆるいです。

婚約破棄されたけど、転生前の獣医師だったときの記憶を思い出した私は、ドラゴンの王子を助けました。

惟名 水月
恋愛
『シャルロット、本日を持ってそなたとの婚約を破棄する!』  突如として、婚約者アレンから婚約破棄を告げられた辺境貴族の令嬢『シャルロット・アストルフィア』。仕方なく引き下がったシャルロットだったが、婚約者であるアレンは、婚約破棄したという事実を消すために、自らの領地へと戻っていたシャルロットを暗殺する計画を企てる。  道中にアレンの雇った族に襲撃されたシャルロット一行の元に現れたのはドラゴン。ドラゴンの登場でパニックが生じた最中、シャルロットは頭を強打し意識を失ってしまう。  意識を失っている最中、シャルロットは前世の記憶を思い出す。彼女は前世で、動物のお医者さんとして働いていたのだ。  目を覚ましたシャルロットは、ドラゴンの国で檻に捕らえられていた。ドラゴンは、一族に蔓延る『呪い』を抑えるために、人間の女性を生け贄に捧げることを目的として、人間の女性をさらっていた。  生け贄にされそうになっていたシャルロットは、ドラゴンの王子『リンドヴルム』から、『呪い』についての話を聞く。そして、それが『呪い』ではなく、病気だと確信したシャルロットは、リンドヴルムにある提案をする。 「いくら生け贄を捧げたところで、『呪い』は解けないわ。無駄よ。それを、私が証明してあげる。もし、私がその『呪い』とやらを解けなかったら、私のこの身、あなたの好きにして貰っていいわ」

婚約者の隣にいるのは初恋の人でした

四つ葉菫
恋愛
ジャスミン・ティルッコネンは第二王子である婚約者から婚約破棄を言い渡された。なんでも第二王子の想い人であるレヒーナ・エンゲルスをジャスミンが虐めたためらしい。そんな覚えは一切ないものの、元から持てぬ愛情と、婚約者の見限った冷たい眼差しに諦念して、婚約破棄の同意書にサインする。 その途端、王子の隣にいたはずのレヒーナ・エンゲルスが同意書を手にして高笑いを始めた。 楚々とした彼女の姿しか見てこなかったジャスミンと第二王子はぎょっとするが……。 前半のヒロイン視点はちょっと暗めですが、後半のヒーロー視点は明るめにしてあります。 ヒロインは十六歳。 ヒーローは十五歳設定。 ゆるーい設定です。細かいところはあまり突っ込まないでください。 

たとえこの想いが届かなくても

白雲八鈴
恋愛
 恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。  王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。 *いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。 *主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)

「好き」の距離

饕餮
恋愛
ずっと貴方に片思いしていた。ただ単に笑ってほしかっただけなのに……。 伯爵令嬢と公爵子息の、勘違いとすれ違い(微妙にすれ違ってない)の恋のお話。 以前、某サイトに載せていたものを大幅に改稿・加筆したお話です。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

この影から目を逸らす

豆狸
恋愛
愛してるよ、テレサ。これまでもこれからも、ずっと── なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

処理中です...