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第6話

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「公爵様、どうしたんですか?
ジェレミーさんは・・・って、居ないじゃないですか!」

狭い部屋を見渡してもジェレミーさんは見当たらなかった。

「俺のこと心配してくれてるなんて感激だなぁ。
ジェレミーはねぇ、ジョイに逢いたいって言ったら反対したから、ちょっと撒いてきたんだ。
うん?下りるかい?」

そう言うと、ジャンを優しく抱き上げて下ろした。

これは、マズイやつなんじゃないか。
ジェレミーさんを撒いてきたって。
しかも、満面の笑みがこわい。
魅了というのに完全に・・・やられている。
公爵が、たかが一介の使用人の家に普通来るわけがない。
これじゃあ、まるで私が誑かしてるみたいに見えるんじゃないか心配になる。
今メイドの仕事をクビになるわけにはいかない。
ああ・・・憂鬱になる。

「あのですね、これは一大事で、今ごろ公爵家では公爵様を必死に探してますよ。
とりあえず帰られたらいかがでしょう」

「姉ちゃん、騎士団長でもあるフォックス公爵様に不敬だよ。
せっかく来てくれたのに」

「ねーたん、けー」

「あの、フォックス公爵様、お口に合うかどうかわかりませんがどうぞ」

テーブルを見れば、ジャックがこの家で唯一欠けていないカップに紅茶を準備していた。 

「ありがとう、ジャック。
じゃあ、頂くね」

流れるような優雅な動きで椅子に座って、砂糖はどうするか尋ねるジャックとやり取りしている。

「姉ちゃん、氷の公爵って話に聞いてたのと大分違うね」

ジョンが耳元でこっそり言ってくるが、
違うも何も、ほぼ別人だよ。とは言えない。
この小さな平屋の家の普段から4人でも手狭に感じる居間に、かの有名な公爵様が居るなんて誰が思うだろう。

「今日はね、ジョイを誘って出掛けたいなんて思って来たんだけど、「すいませ~ん、ジョイさん!スティーブン様来てませんか?」」 

ドアをノックする音と共にジェレミーさんの声がした。

ああ、良かった。
ジェレミーさんの登場に安堵しかなかった。

すぐにドアを開けてジェレミーさんを招き入れると、チッと、スティーブン様から舌打ちが聞こえた。

「思ったより早かったな」

「スティーブン様、ホント困りますよ。
あ、えっとお邪魔しますね。
ジョイさんに、え~と・・・」

「弟の、ジョン、ジャック、ジャンです」

「これは初めまして。
フォックス公爵様の従者のジェレミーです。
どうも、朝早くからご迷惑をおかけしました。
さぁ、スティーブン様行きますよ。
今日は予定がびっしりですからね」

スティーブン様は素直に椅子から立ち上がって、ジョンに紅茶のお礼を言うと、胸元から一輪の薔薇を出すと私に手渡した。

「今朝、庭でジョイをイメージして摘んだんだ。
また明日来るよ」

とろけるような笑みだった。
 


「氷の公爵って、姉ちゃんのこと好きなのか?
眼鏡取った顔見たからかーー」

「格好良かったですね」

「スチー スチー」


花瓶にはピンク色の3本の薔薇が飾られている。
スティーブン様は、3日間毎朝我が家に訪れた。

クッキー、パイの手土産に弟達は大喜びだった。

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