女性治療師と距離が近いのは気のせいなんかじゃない

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第21話 アルフォンス

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辺境伯が退いて、令息が新たな当主となった。
それと同時に、治療師が知り合いの伯爵家の養子となり、令息の正式な婚約者に決まった。

影からの情報では、令息は精力的に仕事に取り組み、騎士や領民は若き当主に期待を寄せている。
一時やや距離があった治療師とは、正式な婚約者となってからは歩み寄りが見られ、連れ立っている姿も多く見られるとのこと。

気になる点は、令息はが度々グレイ男爵家を訪れては男爵と面会を希望していることだ。
おおかたアリソンの作った回復薬や薬草茶[これは、アリソンが令息の日々の健康の為にと渡していたものと聞く]を飲まなくなって、体調に変化が表れたんだろう。 
男爵にはアリソンが作ったものはもう無いと言われ、肩を落とす姿を見せているという。

今のところ、体力であったり騎士としての技術に変化はないらしいが、この先どうなるかだ。
アリソンの作るものには、自然治癒力を高め、リラックス効果に加え、彼女の願いも含まれる。
回復魔法が体質に合わない令息を幼い頃から見てきたアリソンは、きっと令息の健康を願っただろう。

そう考えれば、アリソンに大切に思われていたであろう令息に嫉妬心にも似たものが湧き上がってきた。

そして、いちばん気にかかるともいえる情報ーー
令息は、アリソンから贈られたネックレスを身につけている。

間もなく、令息が辺境伯として治療師の婚約者を伴い国王に報告に訪れる。

あの日、アリソンが王都へ向かうと知った時のあの男の表情から考えても、アリソンに接触を図る可能性は極めて高いと見ていいだろう。

アリソンには令息が王都滞在中の2日間は、薬局の店頭に立つのを控えるよう頼み、腕利きの護衛騎士であるレインにはアリソンから目を離さないよう命じた。
さらに、令息が王都滞在中に限っては薬局周辺に護衛を配備した。


気に食わないことに、金髪碧眼の美麗な若き辺境伯と聖女様と呼ばれる平民の治療師との婚約は、王都でも注目を集めていた。

晩餐会では、緊張気味の治療師をスマートにエスコートする姿を見せた。
ただ時折会場を見渡したり、少しばかり落ち着かない様子を見せる姿は、まるでアリソンを探しているように感じた。

案の定、どこで仕入れた情報かは定かではないが、令息が愛馬に乗り薬局方面に向かっているとの連絡を受け、この時ばかりは転移魔法で薬局へ先回りした。
そして、令息の存在をアリソンに知られないように防音魔法を掛けた。

「アリソンは・・・・・・薬師のアリソン嬢はいるだろうか?」

いまだに名前で呼ぶ令息に、頭に血が昇った。

「辺境伯、悪いが君にグレイ男爵令嬢を会わせるつもりはない」

店の奥から現れた俺の姿に令息は驚いた表情を見せたが、次の瞬間アリソンの名前を大声で口にした。

「アリソン!アリソン!
俺だよ!ルー・・・・・・」

「辺境伯!帰るんだ!」

無意識に魔法を使って令息の言葉を封じ、自分から魔力が溢れているのがわかった。
薬局の扉や棚がガタガタ揺れ始め、筆頭魔術師が飛んで来た。



「申し訳ございません。
侵入者を阻止出来ませんでした」

開店前の薬局に治療師が姿を見せ、店内にいたアリソンに接触したと護衛騎士レインから報告を受けた。

アリソンが令息に贈ったネックレスを返却したうえ、妹君とお揃いのブローチに言いがかりをつけたと言う。

アリソンに会わせるものかと、令息にばかり気を取られていた自分の視野の狭さを突きつけられたようだった。


その後、アリソン宛てに令息から手紙が届いた。
勿論アリソンの目に触れる前に回収したが、その手紙は俺の手に渡ることなく、魔力暴走を心配する筆頭魔術師の手により塵と化した。




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