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第20話 アルフォンス
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「魔法のハンドクリームをひとつお願いしたい」
仕事の合間を縫っては薬局に足を運んでいる。
アリソンに逢いたいのは勿論だが、同時に彼女の作る薬をこうして購入し、内密に効能を検査している。
サヴォイ王国の研究所での結果を考えれば、アリソンの薬はいつ目をつけられてもおかしくないから。
既に数種類の薬を調べたが、それら全てが素晴らしいもので、薬師達は声を揃えて絶賛していた。
だが、実際にはこんなもんじゃ無いだろう。
これらの薬の薬草はアリソンではなく、前任者である老夫婦が育てたものだ。
最初からアリソンが育てたものなら。
それに彼女の思いが、願いが込められたら。
薬師として長い歴史を持つグレイ男爵家には、稀に特別な者が現れる。
その者が作る薬には、その者の思いや願いが反映され、まるで魔法のようだという。
まるでそれを表すかのように、アリソンが疲労時に飲むという特製ドリンクは、喉を通った瞬間にスーッと体が軽くなり疲れなどどこかへ飛んでいった。
毎回薬局でこの特製ドリンクを飲むのを俺のみならず、側近、護衛騎士までもが楽しみにしているというのに、これを王宮でいただけるようにとか何とか、レシピを渡された時には思わず『ここで飲みたいんだ!』と叫んでしまった。
アリソンには引かれない程度に、わりと分かりやすく好意を表しているつもりだった。
俺の気持ちを知っている周りの連中やアリソンの侍女ミリーはニヤニヤして、そんなこと言っちゃうんですか~という顔をしているというのに、当のアリソンときたらキョトンとするだけで、返されたレシピを見つめていた。
分かりやすくしていたのに、駄目か?
それとも、もっと積極的に行くべきか?
本心ならば、すぐにでも攫ってしまいたい。
でも、アリソンには時間をかけて俺の本来の姿、アルフォンス・ルイ・モンテを知ってもらう必要がある。
ここは我慢の時だと、すぐにでも距離を縮めたい焦る気持ちを抑えて、お礼にと食事に誘った。
今はこれでいい。
テーブル越しのアリソンを見て、彼女と居られることを幸せに感じた。
辺境には、影を送り込んだままだった。
辺境伯の動向、あとは婚約解消になったものの、あの令息があのまま素直に引き下がるか見届ける必要も感じていた。
まぁ、アリソンに会わせるつもりなど毛頭ないが。
影からの報告によると、女性治療師は変わらず城に暮らすものの、以前と比べてふたりには距離があるらしい。
辺境伯に関しては、あの時釘を刺したというのにグレイ男爵家への慰謝料をまだ支払っていない。
数ヶ月前には、辺境騎士の防具の制作に対して難癖をつけ、支払いをうやむやにしたと聞く。
表向きは人当たり良く装い、多くの人はその姿を信用していたようだが、実際にはなかなかの強欲な人間だろう。
しかも、弟や側近の手柄を横取りし、ここ数年は戦地や遠征は令息任せで、本人はほぼ城に居て名ばかりの指揮官だ。
国王である父上に報告し、辺境伯には退いてもらうことで話はまとまった。
国王から直々に王宮へ呼び出され、笑顔で登場した辺境伯は見ものだった。
過去の手柄の横取り、ここ数年ほぼ仕事をしていないこを指摘されれば、言い訳を口にするふてぶてしさを見せた。
だが、王太子から注意を受けたグレイ男爵家への慰謝料未払いは王家への反逆行為と聞いて、一気に顔色を青くし項垂れた。
直ちに謝罪のうえ、延滞分を上乗せした慰謝料をグレイ男爵家に、未払い分を防具制作者に支払わせた。
また、王家への反逆行為に、国王の話に言い訳とう言いがかりをつけた罪が追加され、辺境伯は表舞台からは完全に退かせ、領地の外れの町に夫妻で移り住むことでこの件は終わった。
これであの者達がアリソンを傷つけた行いが消える訳ではないが、僅かに溜飲が下がったのを感じた。
仕事の合間を縫っては薬局に足を運んでいる。
アリソンに逢いたいのは勿論だが、同時に彼女の作る薬をこうして購入し、内密に効能を検査している。
サヴォイ王国の研究所での結果を考えれば、アリソンの薬はいつ目をつけられてもおかしくないから。
既に数種類の薬を調べたが、それら全てが素晴らしいもので、薬師達は声を揃えて絶賛していた。
だが、実際にはこんなもんじゃ無いだろう。
これらの薬の薬草はアリソンではなく、前任者である老夫婦が育てたものだ。
最初からアリソンが育てたものなら。
それに彼女の思いが、願いが込められたら。
薬師として長い歴史を持つグレイ男爵家には、稀に特別な者が現れる。
その者が作る薬には、その者の思いや願いが反映され、まるで魔法のようだという。
まるでそれを表すかのように、アリソンが疲労時に飲むという特製ドリンクは、喉を通った瞬間にスーッと体が軽くなり疲れなどどこかへ飛んでいった。
毎回薬局でこの特製ドリンクを飲むのを俺のみならず、側近、護衛騎士までもが楽しみにしているというのに、これを王宮でいただけるようにとか何とか、レシピを渡された時には思わず『ここで飲みたいんだ!』と叫んでしまった。
アリソンには引かれない程度に、わりと分かりやすく好意を表しているつもりだった。
俺の気持ちを知っている周りの連中やアリソンの侍女ミリーはニヤニヤして、そんなこと言っちゃうんですか~という顔をしているというのに、当のアリソンときたらキョトンとするだけで、返されたレシピを見つめていた。
分かりやすくしていたのに、駄目か?
それとも、もっと積極的に行くべきか?
本心ならば、すぐにでも攫ってしまいたい。
でも、アリソンには時間をかけて俺の本来の姿、アルフォンス・ルイ・モンテを知ってもらう必要がある。
ここは我慢の時だと、すぐにでも距離を縮めたい焦る気持ちを抑えて、お礼にと食事に誘った。
今はこれでいい。
テーブル越しのアリソンを見て、彼女と居られることを幸せに感じた。
辺境には、影を送り込んだままだった。
辺境伯の動向、あとは婚約解消になったものの、あの令息があのまま素直に引き下がるか見届ける必要も感じていた。
まぁ、アリソンに会わせるつもりなど毛頭ないが。
影からの報告によると、女性治療師は変わらず城に暮らすものの、以前と比べてふたりには距離があるらしい。
辺境伯に関しては、あの時釘を刺したというのにグレイ男爵家への慰謝料をまだ支払っていない。
数ヶ月前には、辺境騎士の防具の制作に対して難癖をつけ、支払いをうやむやにしたと聞く。
表向きは人当たり良く装い、多くの人はその姿を信用していたようだが、実際にはなかなかの強欲な人間だろう。
しかも、弟や側近の手柄を横取りし、ここ数年は戦地や遠征は令息任せで、本人はほぼ城に居て名ばかりの指揮官だ。
国王である父上に報告し、辺境伯には退いてもらうことで話はまとまった。
国王から直々に王宮へ呼び出され、笑顔で登場した辺境伯は見ものだった。
過去の手柄の横取り、ここ数年ほぼ仕事をしていないこを指摘されれば、言い訳を口にするふてぶてしさを見せた。
だが、王太子から注意を受けたグレイ男爵家への慰謝料未払いは王家への反逆行為と聞いて、一気に顔色を青くし項垂れた。
直ちに謝罪のうえ、延滞分を上乗せした慰謝料をグレイ男爵家に、未払い分を防具制作者に支払わせた。
また、王家への反逆行為に、国王の話に言い訳とう言いがかりをつけた罪が追加され、辺境伯は表舞台からは完全に退かせ、領地の外れの町に夫妻で移り住むことでこの件は終わった。
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