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第19話 アルフォンス
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その後ジョーからの連絡で、アリソンと次期辺境伯であるルーク・スペンサーとの婚約解消の手続きが行われる日程が知らされた。
アリソンの母上であるグレイ男爵には、才能溢れるアリソンは婚約解消後に危険が及ぶ恐れもあるので、我々の保護のもと王都で薬師として働いてはどうか予め訊いていた。
すると男爵自身、アリソンの今後を思い悩んでいたようで、安心した様子を見せていた。
「アルフォンス、筆頭魔術師も辺境へ連れて行くがよい」
辺境へ向かう朝、父上が朝食を終えると俺の肩に手を置いて頷いた。
父上は今まで何も言わなかったが、俺が影を使って次期辺境伯令息を調査しているのをご存知だっただろう。
魔力が溢れて騒ぎを起こした事も。
それ以前に、何度も転移魔法でサヴォイ王国へ足を運んでいる段階で、アリソンに興味を抱いているのを知らない訳がないか。
筆頭魔術師ね。
この時は、遅い初恋をしている息子の魔力暴走を心配してのことだと思っていた。
心苦しく思っている?
思い合うふたりを見過ごせない?
埋め合わせ?それに見合った慰謝料?
浅はかな辺境伯夫妻の言動を実際耳にして、今しがた署名を済ませたばかりの婚約解消の申請書を辺境伯の執事から拝借した。
すると、魔術師が頷いている。
この為に来たのか?
筆頭魔術師は申請書を受け取ると、光と共に姿を消した。
扉を隔てて話を聞いていたが、婚約解消したというのに尚も“アリソン”と呼ぶ令息に我慢ならなくなった。
「それについては、私から説明しよう」
入室すれば、3週間ぶりのアリソンが不安気な表情でいるのが目に入った。
それと同時に、ソファに並んで座る令息とこの場に相応しくない治療師が視界に飛び込んで、魔力がうごめき出した。
だが、一瞬にして湧いた怒りは、アリソンが自分の名を呼ぶ声によって静まった。
王族である俺がアリソンを優秀な薬師だと言えば、手のひらを返したように態度を変える辺境伯に苛立ちしか感じなかった。
しかも、アリソンは令息を好いているから婚約解消を考え直すような話まで始める始末。
こんな分別のない人物が辺境伯であることに不安を覚えた。
アリソンは俺が王太子だと知ると、低姿勢で今までの無礼を・・・などと頭を下げて、それがどうしようもなく、やるせなかった。
それと、“アリソン”と最後まで名残惜しくその名を呼んでいた、ルーク・スペンサー。
幼い頃からアリソンを知り、その素晴らしい女性が婚約者になり、最終的に彼女を傷つけた男。
今更そんな顔をしても、もう遅い。
この先、お前がアリソンの目の前に立つことは決して無い。
まずは、辺境伯には退いてもらうのが先決だろう。
これだけ人間性に問題があるなら、剣の腕が一流というのもあやしいものだ。
グレイ男爵家への慰謝料もだが・・・
まぁ、叩けば色々と出てくるだろう。
アリソンを3日後迎えに来る約束をして王都へ帰った。
王太子としての仕事を済ませて、つい最近閉まった薬屋へ足を運んだ。
王都の中でも静かな場所にあるここは、裏手にまわれば薬草園が広がっている。
王宮薬師に手入れを頼んでいるので薬草も生き生きしている。
きっとここならーー
その思い通りにアリソンはこの薬局を気に入り、薬草園ではジョウロを手に楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。
基本的にアリソンに会う時は変身魔法で瞳の色と全体的な印象を変えている。
王太子と知ってからは“殿下”と呼ばれていたが、この姿の時は“アル”と呼んでくれている。
名前を呼ばれるたびに胸が高鳴り、もっと親しくなりたい。
そんな気持ちで溢れ返る。
ーーモンテ王国の王族は代々愛が重い。
国王である父上は、45歳を過ぎた今でも母上にベッタリだ。
常に触れていないと安心しないのか、見ているこちらが恥ずかしくなる程で、それは恋人同士になったばかりの者のようだ。
『お前も今に分かる』
何度と言われたその言葉の意味が、今なら理解できた。
アリソンの母上であるグレイ男爵には、才能溢れるアリソンは婚約解消後に危険が及ぶ恐れもあるので、我々の保護のもと王都で薬師として働いてはどうか予め訊いていた。
すると男爵自身、アリソンの今後を思い悩んでいたようで、安心した様子を見せていた。
「アルフォンス、筆頭魔術師も辺境へ連れて行くがよい」
辺境へ向かう朝、父上が朝食を終えると俺の肩に手を置いて頷いた。
父上は今まで何も言わなかったが、俺が影を使って次期辺境伯令息を調査しているのをご存知だっただろう。
魔力が溢れて騒ぎを起こした事も。
それ以前に、何度も転移魔法でサヴォイ王国へ足を運んでいる段階で、アリソンに興味を抱いているのを知らない訳がないか。
筆頭魔術師ね。
この時は、遅い初恋をしている息子の魔力暴走を心配してのことだと思っていた。
心苦しく思っている?
思い合うふたりを見過ごせない?
埋め合わせ?それに見合った慰謝料?
浅はかな辺境伯夫妻の言動を実際耳にして、今しがた署名を済ませたばかりの婚約解消の申請書を辺境伯の執事から拝借した。
すると、魔術師が頷いている。
この為に来たのか?
筆頭魔術師は申請書を受け取ると、光と共に姿を消した。
扉を隔てて話を聞いていたが、婚約解消したというのに尚も“アリソン”と呼ぶ令息に我慢ならなくなった。
「それについては、私から説明しよう」
入室すれば、3週間ぶりのアリソンが不安気な表情でいるのが目に入った。
それと同時に、ソファに並んで座る令息とこの場に相応しくない治療師が視界に飛び込んで、魔力がうごめき出した。
だが、一瞬にして湧いた怒りは、アリソンが自分の名を呼ぶ声によって静まった。
王族である俺がアリソンを優秀な薬師だと言えば、手のひらを返したように態度を変える辺境伯に苛立ちしか感じなかった。
しかも、アリソンは令息を好いているから婚約解消を考え直すような話まで始める始末。
こんな分別のない人物が辺境伯であることに不安を覚えた。
アリソンは俺が王太子だと知ると、低姿勢で今までの無礼を・・・などと頭を下げて、それがどうしようもなく、やるせなかった。
それと、“アリソン”と最後まで名残惜しくその名を呼んでいた、ルーク・スペンサー。
幼い頃からアリソンを知り、その素晴らしい女性が婚約者になり、最終的に彼女を傷つけた男。
今更そんな顔をしても、もう遅い。
この先、お前がアリソンの目の前に立つことは決して無い。
まずは、辺境伯には退いてもらうのが先決だろう。
これだけ人間性に問題があるなら、剣の腕が一流というのもあやしいものだ。
グレイ男爵家への慰謝料もだが・・・
まぁ、叩けば色々と出てくるだろう。
アリソンを3日後迎えに来る約束をして王都へ帰った。
王太子としての仕事を済ませて、つい最近閉まった薬屋へ足を運んだ。
王都の中でも静かな場所にあるここは、裏手にまわれば薬草園が広がっている。
王宮薬師に手入れを頼んでいるので薬草も生き生きしている。
きっとここならーー
その思い通りにアリソンはこの薬局を気に入り、薬草園ではジョウロを手に楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。
基本的にアリソンに会う時は変身魔法で瞳の色と全体的な印象を変えている。
王太子と知ってからは“殿下”と呼ばれていたが、この姿の時は“アル”と呼んでくれている。
名前を呼ばれるたびに胸が高鳴り、もっと親しくなりたい。
そんな気持ちで溢れ返る。
ーーモンテ王国の王族は代々愛が重い。
国王である父上は、45歳を過ぎた今でも母上にベッタリだ。
常に触れていないと安心しないのか、見ているこちらが恥ずかしくなる程で、それは恋人同士になったばかりの者のようだ。
『お前も今に分かる』
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