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第17話
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『アリソン、久しぶりに薬局に顔を出してみないか?』
『アリソン、あの食堂に新メニューが出たんだ。
行かないか?』
『アリソン、珍しい薬草の苗が、隣の伯爵領で手に入るらしい。
見に行かないか?」
それからも、殿下は毎朝薬草園に現れては、断る理由が見つからない魅力的な話をするので、私達は一緒に出かけることが増えていった。
王宮へ移ってからは殿下の姿で会うことが多かったけれど、出かける時はアルの姿で、そうなると自然に友人のようは接し方になる。
しかも、離れた場所へ向かう時には、殿下の愛馬にふたりで乗る。
殿下の腕がお腹に回されている状態で話しかけられると、私の体が緊張で固まってしまい、そんな姿を見ては殿下は目を細めて私の髪に唇を寄せる。
そして、私の銀髪がお気に入りの殿下は、いつもやるように髪を掬いながら、好きだ。と呟く。
心臓が飛び出しそうになりながら、冗談はやめてください。と言葉を絞り出しても、また好きだ。と返される。
こんなことが何度も繰り返されたら、いくら雲の上の方だと理解していても、恋心を抱いてしまうというものだ。
ただ、この不毛の気持ちはいずれ捨てなくてはいけないのは分かっていた。
なのにーー
体調が良くなり、最近ではバラ園を散歩できるまでに回復した王太后様が薬師である私をお茶会に招待し、涙ながら感謝の言葉を口にされた。
その話は新聞紙面を飾り、私はなぜか“奇跡の薬師”と呼ばれ、一躍時の人として世間を賑わす。
そして、それだけでは終わらずに、国王様からも賛辞を贈られた。
『母上の笑顔を再び見せてくれてありがとう』
小さな声で、私にだけ聞こえるようにそう仰ってくださり、胸が温かくなった。
“奇跡の薬師”などと大それた呼び名が付いてしまった私は、王太后様のように病で苦しむ方の薬を作ることが本業になりつつある。
私の作る薬には自然治癒力を高める効果があるので、痛みの緩和やリハビリの期待ができると殿下やターナー薬師に勧められたことが大きい。
そんな変化があって、2週間が過ぎた頃。
いつもと同じように薬草園で水やりをしていると、殿下が大きな薔薇の花束を持って現れた。
殿下はエプロン姿で大きなジョウロを持っている私の前に跪くと、花束を差し出した。
「アリソン・グレイ男爵令嬢。
私、アルフォンス・ルイ・モンテと共に人生を歩んでくれないだろうか」
「・・・・・・殿下」
「アリソン、私は本気だよ。
父上と母上にも了承は得て、ふたりとも大賛成だ」
「・・・・・・・・・」
「アリソン、君を愛している。
私と結婚してくれないか?」
「・・・・・・け・・・結婚・・・」
「まずは、婚約だね。
結婚は後々になる」
「・・・・・・で、でも・・・」
「でも、私は婚約解消したばかりとか、身分の差とか、そんな話は受け付けないよ。
アリソンは、俺をどう思っている?」
それは・・・・・・
殿下を、アルのことを好きだ。
でも、そう口にするのは躊躇われれて。
なのに、目の前の紫色の瞳を見ていると。
「お・・・・・・お慕いしています」
「やった」
そう答えた次の瞬間には、殿下に抱きしめられていた。
そして、腕が少し緩むと、整った殿下の顔が近づいて、唇に柔らかい感触が触れた。
「アリソン・・・・・・
よろしく。私の婚約者殿」
こ、婚約者殿・・・・・・。
私、返事をした?
「・・・・・・殿下・・・」
頭の中がぐるぐるしていると、甘く微笑む殿下が呟くように口を開いた。
「アルフォンスと、呼んでくれないか?」
「・・・・・・アルフォンス様」
すると、一瞬紫色の瞳が光り、殿下の唇が先ほどよりも長い時間重なった。
「アリソン・・・・・・」
そして、殿下に強く抱きしめられた。
『えらい面倒な方から気に入られたもんだ。
可哀想に。
もう逃げられないのぅ』
何故か、ターナー薬師に言われた言葉が頭の中で聞こえたような気がした。
『アリソン、あの食堂に新メニューが出たんだ。
行かないか?』
『アリソン、珍しい薬草の苗が、隣の伯爵領で手に入るらしい。
見に行かないか?」
それからも、殿下は毎朝薬草園に現れては、断る理由が見つからない魅力的な話をするので、私達は一緒に出かけることが増えていった。
王宮へ移ってからは殿下の姿で会うことが多かったけれど、出かける時はアルの姿で、そうなると自然に友人のようは接し方になる。
しかも、離れた場所へ向かう時には、殿下の愛馬にふたりで乗る。
殿下の腕がお腹に回されている状態で話しかけられると、私の体が緊張で固まってしまい、そんな姿を見ては殿下は目を細めて私の髪に唇を寄せる。
そして、私の銀髪がお気に入りの殿下は、いつもやるように髪を掬いながら、好きだ。と呟く。
心臓が飛び出しそうになりながら、冗談はやめてください。と言葉を絞り出しても、また好きだ。と返される。
こんなことが何度も繰り返されたら、いくら雲の上の方だと理解していても、恋心を抱いてしまうというものだ。
ただ、この不毛の気持ちはいずれ捨てなくてはいけないのは分かっていた。
なのにーー
体調が良くなり、最近ではバラ園を散歩できるまでに回復した王太后様が薬師である私をお茶会に招待し、涙ながら感謝の言葉を口にされた。
その話は新聞紙面を飾り、私はなぜか“奇跡の薬師”と呼ばれ、一躍時の人として世間を賑わす。
そして、それだけでは終わらずに、国王様からも賛辞を贈られた。
『母上の笑顔を再び見せてくれてありがとう』
小さな声で、私にだけ聞こえるようにそう仰ってくださり、胸が温かくなった。
“奇跡の薬師”などと大それた呼び名が付いてしまった私は、王太后様のように病で苦しむ方の薬を作ることが本業になりつつある。
私の作る薬には自然治癒力を高める効果があるので、痛みの緩和やリハビリの期待ができると殿下やターナー薬師に勧められたことが大きい。
そんな変化があって、2週間が過ぎた頃。
いつもと同じように薬草園で水やりをしていると、殿下が大きな薔薇の花束を持って現れた。
殿下はエプロン姿で大きなジョウロを持っている私の前に跪くと、花束を差し出した。
「アリソン・グレイ男爵令嬢。
私、アルフォンス・ルイ・モンテと共に人生を歩んでくれないだろうか」
「・・・・・・殿下」
「アリソン、私は本気だよ。
父上と母上にも了承は得て、ふたりとも大賛成だ」
「・・・・・・・・・」
「アリソン、君を愛している。
私と結婚してくれないか?」
「・・・・・・け・・・結婚・・・」
「まずは、婚約だね。
結婚は後々になる」
「・・・・・・で、でも・・・」
「でも、私は婚約解消したばかりとか、身分の差とか、そんな話は受け付けないよ。
アリソンは、俺をどう思っている?」
それは・・・・・・
殿下を、アルのことを好きだ。
でも、そう口にするのは躊躇われれて。
なのに、目の前の紫色の瞳を見ていると。
「お・・・・・・お慕いしています」
「やった」
そう答えた次の瞬間には、殿下に抱きしめられていた。
そして、腕が少し緩むと、整った殿下の顔が近づいて、唇に柔らかい感触が触れた。
「アリソン・・・・・・
よろしく。私の婚約者殿」
こ、婚約者殿・・・・・・。
私、返事をした?
「・・・・・・殿下・・・」
頭の中がぐるぐるしていると、甘く微笑む殿下が呟くように口を開いた。
「アルフォンスと、呼んでくれないか?」
「・・・・・・アルフォンス様」
すると、一瞬紫色の瞳が光り、殿下の唇が先ほどよりも長い時間重なった。
「アリソン・・・・・・」
そして、殿下に強く抱きしめられた。
『えらい面倒な方から気に入られたもんだ。
可哀想に。
もう逃げられないのぅ』
何故か、ターナー薬師に言われた言葉が頭の中で聞こえたような気がした。
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