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第13話
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「アリソン様、今朝は侵入者を阻止出来ずに申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げる護衛騎士レインがマリア様のことを言っているんだと、最初考えが及ばなかった。
それにしても、侵入者だなんて。
お客様だと思ったし、何かされた訳じゃないから全く問題ないけど。そう言っても、ひどく悔やんでいるようだった。
そんな元気のないレインに、香りの良い薬草とミントの爽やかなドリンクを渡して、ゴクゴク飲み干し笑顔でお礼を言われた時だった。
「アリソン!侵入者から危害を加えられたと聞いたが大丈夫か!」
随分と誤解している殿下が現れて、そんな事はない。と説明すると、ホッとした様子でコソコソとレインと何やら話し合っていた。
殿下の話では、侵入者は既に王都を出発したから安心して良い。
これからは警備をより万全にする為に護衛騎士を増員する話をされたが、あまり物々しいと薬局に来るお客様が驚くのではないかという事になり、護衛騎士の話は無くなった。
去り際に、殿下が少し話しにくそうに「レインが飲んだという爽やかなドリンクをもらえるか?」頼まれ、毒味用に側近、護衛騎士の分も渡せば、口々に「コレも凄い!」と褒められた。
そんな事があって10日程過ぎた頃ーー
ちょっとした問題が起きていた。
ここ最近、いかにも近隣住民とは思えない人物が鎮痛薬やハンドクリームを多めに買い占めていく。
そういった行為が続けば、いつも利用している近隣住民に薬が行き渡らなくなってしまう。
やんわりと購入は必要な分のみにして頂けると助かる。と伝えたところ、『ここの薬は効くから、田舎の家族や親戚に渡したくて』と訴えられ、こちらも断れず。
似たような事が続いて、殿下にも相談していた。
「ここの薬局の薬がよく効くと話題になりつつある。
まだアリソンが作ったものだと特定できてはいないみたいだが、時間の問題かも知れない。
理由をつけての薬の買い占めに関してはまだ調査中だが、効能を検査している可能性もある。
アリソン、しばらくの間ここは他のものに任せて、王宮へ来てくれないか?
実は、頼みたい事もあるんだ」
私の作る回復薬のこと、先祖返りの話をきっと殿下も知っているんだろう。
にわかに信じ難い話だったけれど、もし本当にそうなら、悪用しようと考える人だっているかも知れない。
考え過ぎのような気もするが、ミリーやみんなに迷惑はかけられない。
私はその日のうちに、ミリーと共に王宮へ向かうことになった。
王宮に到着すると、王族専属薬師のところへ殿下に連れられた。
「アリソン嬢、待っておったぞ」
久々に顔を合わせた60代半ばの白髪のターナー薬師には、なぜか握手をされ歓迎されているようだった。
話を聞けば、殿下が薬局で買い求めた薬はターナー薬師の手に渡っていたらしい。
「どれも素晴らしい薬だった」
「あ、ありがとうございます」
「そこでなんだが、アリソン。
私の祖母にあたる王太后が、病によりここ数年間療養している。
実は病はかなり進行しており、現在では痛みを和らげる治療のみを行っていた。
だが、最近になり以前は効いていた薬が効かず、痛みに苦しむようになってしまい、眠りにつくのも難しい日が増えてきた。
どうか、ターナーの協力のもと、祖母に痛み止めを作ってもらいたい」
お、王太后様の薬を・・・・・・。
突然の信じられない話に、口が開かなかった。
「アリソン嬢、大丈夫じゃぞ。
ワシが一緒におる。
怖がることも、心配することもない」
ターナー薬師は優しくそう告げ、殿下はじっと私を見つめていた。
「・・・・・・はい」
痛みで眠りにつけないなんて・・・ものすごく辛いはず。
なのに、なぜ自分は怖気づいたのか。
薬が必要な人はみんな同じ。
私は、薬師だ。
「はい、殿下」
紫色の瞳を見つめて、はっきりとそう伝えた。
深々と頭を下げる護衛騎士レインがマリア様のことを言っているんだと、最初考えが及ばなかった。
それにしても、侵入者だなんて。
お客様だと思ったし、何かされた訳じゃないから全く問題ないけど。そう言っても、ひどく悔やんでいるようだった。
そんな元気のないレインに、香りの良い薬草とミントの爽やかなドリンクを渡して、ゴクゴク飲み干し笑顔でお礼を言われた時だった。
「アリソン!侵入者から危害を加えられたと聞いたが大丈夫か!」
随分と誤解している殿下が現れて、そんな事はない。と説明すると、ホッとした様子でコソコソとレインと何やら話し合っていた。
殿下の話では、侵入者は既に王都を出発したから安心して良い。
これからは警備をより万全にする為に護衛騎士を増員する話をされたが、あまり物々しいと薬局に来るお客様が驚くのではないかという事になり、護衛騎士の話は無くなった。
去り際に、殿下が少し話しにくそうに「レインが飲んだという爽やかなドリンクをもらえるか?」頼まれ、毒味用に側近、護衛騎士の分も渡せば、口々に「コレも凄い!」と褒められた。
そんな事があって10日程過ぎた頃ーー
ちょっとした問題が起きていた。
ここ最近、いかにも近隣住民とは思えない人物が鎮痛薬やハンドクリームを多めに買い占めていく。
そういった行為が続けば、いつも利用している近隣住民に薬が行き渡らなくなってしまう。
やんわりと購入は必要な分のみにして頂けると助かる。と伝えたところ、『ここの薬は効くから、田舎の家族や親戚に渡したくて』と訴えられ、こちらも断れず。
似たような事が続いて、殿下にも相談していた。
「ここの薬局の薬がよく効くと話題になりつつある。
まだアリソンが作ったものだと特定できてはいないみたいだが、時間の問題かも知れない。
理由をつけての薬の買い占めに関してはまだ調査中だが、効能を検査している可能性もある。
アリソン、しばらくの間ここは他のものに任せて、王宮へ来てくれないか?
実は、頼みたい事もあるんだ」
私の作る回復薬のこと、先祖返りの話をきっと殿下も知っているんだろう。
にわかに信じ難い話だったけれど、もし本当にそうなら、悪用しようと考える人だっているかも知れない。
考え過ぎのような気もするが、ミリーやみんなに迷惑はかけられない。
私はその日のうちに、ミリーと共に王宮へ向かうことになった。
王宮に到着すると、王族専属薬師のところへ殿下に連れられた。
「アリソン嬢、待っておったぞ」
久々に顔を合わせた60代半ばの白髪のターナー薬師には、なぜか握手をされ歓迎されているようだった。
話を聞けば、殿下が薬局で買い求めた薬はターナー薬師の手に渡っていたらしい。
「どれも素晴らしい薬だった」
「あ、ありがとうございます」
「そこでなんだが、アリソン。
私の祖母にあたる王太后が、病によりここ数年間療養している。
実は病はかなり進行しており、現在では痛みを和らげる治療のみを行っていた。
だが、最近になり以前は効いていた薬が効かず、痛みに苦しむようになってしまい、眠りにつくのも難しい日が増えてきた。
どうか、ターナーの協力のもと、祖母に痛み止めを作ってもらいたい」
お、王太后様の薬を・・・・・・。
突然の信じられない話に、口が開かなかった。
「アリソン嬢、大丈夫じゃぞ。
ワシが一緒におる。
怖がることも、心配することもない」
ターナー薬師は優しくそう告げ、殿下はじっと私を見つめていた。
「・・・・・・はい」
痛みで眠りにつけないなんて・・・ものすごく辛いはず。
なのに、なぜ自分は怖気づいたのか。
薬が必要な人はみんな同じ。
私は、薬師だ。
「はい、殿下」
紫色の瞳を見つめて、はっきりとそう伝えた。
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