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第12話
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昨日辺境から王都に到着したルーク達の話題は、連日新聞紙面を賑わしている。
ーー新たな辺境伯となった麗しいルーク・スペンサー殿の婚約者は彼の命を救った治療師のマリア嬢。
女神のようなマリア嬢は、毒矢に苦しむ・・・・・・。
読むつもりなんて全くないけれど、目に入る場所に新聞が置いてあるので勝手に記事を目が追ってしまう。
それに気づいたミリーは、眉間に皺を寄せて私の傍から新聞を回収していった。
「ミリー、私はもう気にしていないし、大丈夫よ」
「お嬢様・・・・・・。
でも、お嬢様がそう仰られても・・・・・・、わたくしがですね」
そこまでミリーが話したところで、薬局の呼び鈴が鳴った。
まだ薬局の開店までは2時間もある。
こんな時間帯に来るのはあの方しかいない。
「今日はお早いですね」
いつの間にやらミリーの眉間の皺はなくなり、笑みを浮かべている。
ここ最近、殿下は毎日のように現れては他愛もない話をしていく。
『アリソンの顔を見に来たんだ』
なんてさり気なく、そう口にしては、市場で買って来たフルーツや花を一輪渡される。
そして、その度に私の心臓は忙しく音を立てる。
ミリーに、早く行かれてはいかがですか。お待ちになってますよ。と急かされて店へ向かうと、予想通りの方がいた。
急いで来たのか、珍しく呼吸が乱れている殿下は『今日明日、アリソンには薬局の店頭に立つのを控えてもらいたい』それだけ言って、真っ赤な薔薇を一輪私に手渡すと、風のように去って行った。
店頭に立つのを控える?
訳がわからなかったけれど、護衛騎士にも殿下と同じことを言われた。
結果、店は薬師見習いに任せ、2日間私は薬草の手入れと薬作りに精を出すことになった。
薬草園にいると、2回ほど塀の向こうから、懐かしいルークの愛馬ゲオルクの鼻を鳴らす音や、いななきが聞こえたような気がした。
3日目になり、久々に店頭に立って開店の準備をしていると、立派な馬車が店の前に停車した。
こんな立派な馬車が、こんな早い時間になんだろう・・・・・・。
不思議に思っていると、髪を隠すようにショールのようなもので覆った女性が店に入ってきた。
もうすぐ開店だし、まぁ、いいか。
あの人気のハンドクリームを買いに来たのかも知れない。
じわじわと貴族女性の間にも知れ渡り、侍女達への贈り物に買い求めると聞く。
この女性もそのひとりかも。
「いらっしゃいませ」
いつものように声をかけると、女性はハンドクリームには目もくれずに、私の立つカウンターへと進んできた。
「こちらお返しします」
そう言ってカウンターに置いたのは、赤い宝石がついた剣をモチーフにしたネックレスだった。
「・・・・・・これは」
「お揃いか知りませんが、あなたも未練がましくそのブローチ外されては如何ですか」
語気を強めたその声の女性は、マリアさん・・・・・・様だった。
「・・・・・・これは妹とお揃い「ルーク様には私がいるので、あなたは必要ありませんから」」
私の目を見て、言いたいことを言い終えると、店を出て行った。
「何ですか!今のは!失礼な!」
裏で話を聞いていたと思われるミリーが、怒りながら走り去った馬車が停車していた辺りに塩を撒いていた。
どうして彼女にあんな態度を取られないといけないんだろう。
第一、もう辺境には戻らないって、そう言ってたのに。
それに、あれじゃあ、まるで私がルークをしつこく思っているみたいだ。
せっかく気持ちよく開店の準備をしていたのを台無しにされ、がっかりしながらカウンターに目を向けると、ネックレスが目に入った。
『こちらは女神様の祈りが込められておりまして、危険から身を守ってくれるといわれるものです。
大切な方にいかがでしょう?』
そう言われて、目に浮かんだのはルークだった。
このネックレスを選んだ時を思い出すと、ほんの少し胸がチクリと痛んだような気がした。
ーー新たな辺境伯となった麗しいルーク・スペンサー殿の婚約者は彼の命を救った治療師のマリア嬢。
女神のようなマリア嬢は、毒矢に苦しむ・・・・・・。
読むつもりなんて全くないけれど、目に入る場所に新聞が置いてあるので勝手に記事を目が追ってしまう。
それに気づいたミリーは、眉間に皺を寄せて私の傍から新聞を回収していった。
「ミリー、私はもう気にしていないし、大丈夫よ」
「お嬢様・・・・・・。
でも、お嬢様がそう仰られても・・・・・・、わたくしがですね」
そこまでミリーが話したところで、薬局の呼び鈴が鳴った。
まだ薬局の開店までは2時間もある。
こんな時間帯に来るのはあの方しかいない。
「今日はお早いですね」
いつの間にやらミリーの眉間の皺はなくなり、笑みを浮かべている。
ここ最近、殿下は毎日のように現れては他愛もない話をしていく。
『アリソンの顔を見に来たんだ』
なんてさり気なく、そう口にしては、市場で買って来たフルーツや花を一輪渡される。
そして、その度に私の心臓は忙しく音を立てる。
ミリーに、早く行かれてはいかがですか。お待ちになってますよ。と急かされて店へ向かうと、予想通りの方がいた。
急いで来たのか、珍しく呼吸が乱れている殿下は『今日明日、アリソンには薬局の店頭に立つのを控えてもらいたい』それだけ言って、真っ赤な薔薇を一輪私に手渡すと、風のように去って行った。
店頭に立つのを控える?
訳がわからなかったけれど、護衛騎士にも殿下と同じことを言われた。
結果、店は薬師見習いに任せ、2日間私は薬草の手入れと薬作りに精を出すことになった。
薬草園にいると、2回ほど塀の向こうから、懐かしいルークの愛馬ゲオルクの鼻を鳴らす音や、いななきが聞こえたような気がした。
3日目になり、久々に店頭に立って開店の準備をしていると、立派な馬車が店の前に停車した。
こんな立派な馬車が、こんな早い時間になんだろう・・・・・・。
不思議に思っていると、髪を隠すようにショールのようなもので覆った女性が店に入ってきた。
もうすぐ開店だし、まぁ、いいか。
あの人気のハンドクリームを買いに来たのかも知れない。
じわじわと貴族女性の間にも知れ渡り、侍女達への贈り物に買い求めると聞く。
この女性もそのひとりかも。
「いらっしゃいませ」
いつものように声をかけると、女性はハンドクリームには目もくれずに、私の立つカウンターへと進んできた。
「こちらお返しします」
そう言ってカウンターに置いたのは、赤い宝石がついた剣をモチーフにしたネックレスだった。
「・・・・・・これは」
「お揃いか知りませんが、あなたも未練がましくそのブローチ外されては如何ですか」
語気を強めたその声の女性は、マリアさん・・・・・・様だった。
「・・・・・・これは妹とお揃い「ルーク様には私がいるので、あなたは必要ありませんから」」
私の目を見て、言いたいことを言い終えると、店を出て行った。
「何ですか!今のは!失礼な!」
裏で話を聞いていたと思われるミリーが、怒りながら走り去った馬車が停車していた辺りに塩を撒いていた。
どうして彼女にあんな態度を取られないといけないんだろう。
第一、もう辺境には戻らないって、そう言ってたのに。
それに、あれじゃあ、まるで私がルークをしつこく思っているみたいだ。
せっかく気持ちよく開店の準備をしていたのを台無しにされ、がっかりしながらカウンターに目を向けると、ネックレスが目に入った。
『こちらは女神様の祈りが込められておりまして、危険から身を守ってくれるといわれるものです。
大切な方にいかがでしょう?』
そう言われて、目に浮かんだのはルークだった。
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