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第9話
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「その・・・それ程までにグレイ男爵令嬢の治療薬は素晴らしいと、そういうお話でしょうか?」
「辺境伯、今まで何を見てきた。
そんなもの聞かずとも容易に分かるはずだ。
まぁ、ここの土地は回復魔法の使い手である治療師を優遇する習慣があるから、薬師を軽視しているのか」
殿下の話を聞いた辺境伯爵夫人は、伯爵にひそひそと何か耳打ちをしていた。
「殿下、婚約は解消されたと仰いましたが、申請書に署名したばかり。
それに、グレイ男爵令嬢は前からルークを好いている。
考えてみれば、そこまで急いで婚約解消しなくても良いかと」
「今しがた『思い合うふたりを見過ごせない』など言っておきながら、随分と変わり身が早いな。
辺境伯、グレイ男爵令嬢の優秀さに今頃気づいて、手放すのが惜しくなったか?
私が見るところ、グレイ男爵令嬢はスペンサー辺境伯令息を好いているようには見えないが。
それと、残念なことに申請書は私が連れて来た魔術師によって、ちょうど今頃王都の神殿に提出されているだろう」
「・・・・・・それは・・・」
「グレイ男爵家に慰謝料を支払う話は聞いたからな。
約束は反故しないように。
これで、この話は終わりだ。
じゃあ、グレイ男爵令嬢。
行こうか?」
「は、はいっ」
「ま、待ってくれ。
アリソンっ、い、いや、グレイ男爵令嬢・・・・・・。
その、本当に王都へ行ってしまうのか?」
ソファから立ち上がり、ルークが、スペンサー辺境伯令息が今更口を開いた。
話を聞いていなかったのか。
隣のマリアさんも不安にしているから、話しかけるのはやめてほしかった。
「はい、お話にあった通りです。
スペンサー辺境伯令息もお元気で」
「・・・・・・あ、ああ。
アリソ・・・グレイ男爵令嬢も・・・・・・」
これが、私とルークの最後の会話だった。
幼い頃から兄のように慕い、やがて婚約者となった人との別れは呆気ないものだった。
「素性を偽っていた上に、今日は驚かせてしまった。
王太子であることを明かせば、君は普通に接してくれないと思ってそうしたんだ。
できれば、今までみたいにアルと呼んで欲しいのだけれど・・・・・・」
「恐れながら申し上げます。
今までの数々のご無礼をお詫び「アリソン・・・・・・やっぱり、そうなるよね」」
サヴォイ王国では確か、“モンテ王国の王都で薬師の卵として勉強中のアル”という話だった。
基本的に知り合いの薬屋に滞在していたアルはたまにしか大学に現れなかったけれど、同国出身ということに加えて、親しみやすい性格で友人のように接していた。
今思えば、かなり失礼な態度を取っていた。
雲の上の存在である王族相手にあれは、完全にアウトだ。
しかも、辺境伯ご夫妻の前での人の上に立つ堂々たる風格の王族の姿を目にした今、アルなどと呼べる訳がない。
その後、残念そうな顔をした殿下は『3日後に迎えに来るから、家族とゆっくり過ごして。あと、侍女のミリーも一緒に来て大丈夫だから』そう言い、転移魔法というもので側近達と去って行った。
3日間はベッキーと過ごした。
誤魔化したところで辺境に暮らすベッキーにはすぐに分かるので、ルークと婚約解消になったこと、じきにルークはマリアさんと婚約、結婚するであろうことを話した。
私が王都へ行くことも。
ルークとはもう口を聞かない!と怒り、寂しくなる!と泣いていた。
3日後に殿下がグレイ男爵家に迎えに来ると、ベッキーは目を丸くして驚いていた。
そして、私とミリーはお母様、ベッキー、男爵家のみんなに別れを告げ、転移魔法で王都へ向かった。
「辺境伯、今まで何を見てきた。
そんなもの聞かずとも容易に分かるはずだ。
まぁ、ここの土地は回復魔法の使い手である治療師を優遇する習慣があるから、薬師を軽視しているのか」
殿下の話を聞いた辺境伯爵夫人は、伯爵にひそひそと何か耳打ちをしていた。
「殿下、婚約は解消されたと仰いましたが、申請書に署名したばかり。
それに、グレイ男爵令嬢は前からルークを好いている。
考えてみれば、そこまで急いで婚約解消しなくても良いかと」
「今しがた『思い合うふたりを見過ごせない』など言っておきながら、随分と変わり身が早いな。
辺境伯、グレイ男爵令嬢の優秀さに今頃気づいて、手放すのが惜しくなったか?
私が見るところ、グレイ男爵令嬢はスペンサー辺境伯令息を好いているようには見えないが。
それと、残念なことに申請書は私が連れて来た魔術師によって、ちょうど今頃王都の神殿に提出されているだろう」
「・・・・・・それは・・・」
「グレイ男爵家に慰謝料を支払う話は聞いたからな。
約束は反故しないように。
これで、この話は終わりだ。
じゃあ、グレイ男爵令嬢。
行こうか?」
「は、はいっ」
「ま、待ってくれ。
アリソンっ、い、いや、グレイ男爵令嬢・・・・・・。
その、本当に王都へ行ってしまうのか?」
ソファから立ち上がり、ルークが、スペンサー辺境伯令息が今更口を開いた。
話を聞いていなかったのか。
隣のマリアさんも不安にしているから、話しかけるのはやめてほしかった。
「はい、お話にあった通りです。
スペンサー辺境伯令息もお元気で」
「・・・・・・あ、ああ。
アリソ・・・グレイ男爵令嬢も・・・・・・」
これが、私とルークの最後の会話だった。
幼い頃から兄のように慕い、やがて婚約者となった人との別れは呆気ないものだった。
「素性を偽っていた上に、今日は驚かせてしまった。
王太子であることを明かせば、君は普通に接してくれないと思ってそうしたんだ。
できれば、今までみたいにアルと呼んで欲しいのだけれど・・・・・・」
「恐れながら申し上げます。
今までの数々のご無礼をお詫び「アリソン・・・・・・やっぱり、そうなるよね」」
サヴォイ王国では確か、“モンテ王国の王都で薬師の卵として勉強中のアル”という話だった。
基本的に知り合いの薬屋に滞在していたアルはたまにしか大学に現れなかったけれど、同国出身ということに加えて、親しみやすい性格で友人のように接していた。
今思えば、かなり失礼な態度を取っていた。
雲の上の存在である王族相手にあれは、完全にアウトだ。
しかも、辺境伯ご夫妻の前での人の上に立つ堂々たる風格の王族の姿を目にした今、アルなどと呼べる訳がない。
その後、残念そうな顔をした殿下は『3日後に迎えに来るから、家族とゆっくり過ごして。あと、侍女のミリーも一緒に来て大丈夫だから』そう言い、転移魔法というもので側近達と去って行った。
3日間はベッキーと過ごした。
誤魔化したところで辺境に暮らすベッキーにはすぐに分かるので、ルークと婚約解消になったこと、じきにルークはマリアさんと婚約、結婚するであろうことを話した。
私が王都へ行くことも。
ルークとはもう口を聞かない!と怒り、寂しくなる!と泣いていた。
3日後に殿下がグレイ男爵家に迎えに来ると、ベッキーは目を丸くして驚いていた。
そして、私とミリーはお母様、ベッキー、男爵家のみんなに別れを告げ、転移魔法で王都へ向かった。
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