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第8話
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「こんなことになって私達も心苦しく思っているの。
でも、思い合うふたりをとても見過ごせなくて」
「埋め合わせと言ってはなんだが、それに見合った慰謝料を支払わせてもらおう」
婚約解消の手続きのためにグレイ男爵であるお母様と城を訪れた。
席につくやいなや婚約解消の申請書にサインすると、こうしてふたりで一方的に話す辺境伯ご夫妻の対応に、自分の中で何かが冷めて行くような感覚を覚えた。
私は今まで何を見てきたんだろう。
しかも、この場に居るのが相応しいとは思えないマリアさんが、以前とはまるで違う上質で流行りのデザインのワンピース姿でルークの隣に座っていた。
少し前の私なら胸を痛めたかも知れないけれど、今はどうでも良かった。
ルークとマリアさんの座る右側は見ずに、テーブルに目線を向け続けた。
「これからも、今までと変わらず領地の為にお願いね」
「はい・・・「はい、勿論で御座います。
グレイ男爵家は今までと変わらずに、薬師として領地、領民の為にお仕えいたします。
ただ、アリソンはスペンサー伯爵令息との婚約が解消になった今、王都へ向かうことが決まっており、今後辺境伯領に戻ることはないかと」」
「何だって?アリソンが王都に?」
「兄上、婚約解消となったからには、グレイ男爵令嬢とお呼びください!」
「・・・・・・し、失礼した。
それで、どうしてグ、グレイ男爵令嬢が王都へ向かい、辺境には戻らないと?」
「ああ、そうだ。
グレイ男爵、説明してくれ」
私の言葉に被せて話し始めたお母様は、何やらとんでもない発言をし、それにはルークや辺境伯爵も驚いたようだった。
私だって、そんな話は初耳だ。
「それについては、私から説明しよう」
ガチャ
静かに開いた扉から現れたのは、留学先のサヴォイ王国で何度か顔を合わせ、親しくした友人アルだった。
でも、以前会った時にはボサボサだった黒髪は整えられ、紫色の瞳は輝き、自信に満ち溢れる姿は別人のようだった。
どうして堂々とこんな場所に・・・・・・。
「・・・・・・アル?」
「やぁ!アリソン、久しぶりだね」
「で・・・・・・殿下!
こ、これは・・・・・・お出迎えもせずに大変失礼を・・・・・・」
「構わない。
先触れ無しに来たのは、こちらだから」
で、殿下?
アルが・・・・・・?
この人が・・・・・・殿下?
辺境伯爵の言葉に固まっていると、アルがこちらを見てウィンクした。
アルフォンス・ルイ・モンテ王太子殿下ーー
黒髪に紫色の瞳は王族の証。
神がかった美しさと、無尽蔵ともいえる魔力の持ち主。
どうして、気づかなかったんだろう。
目の前に居るこの方は、王太子殿下だ。
「た、大変失礼を、ご無礼をお許しく「アリソン、謝らないで。
私がアルって呼んでくれ。と、そうお願いした。
それに、素性を偽っていたのは私だ。
さぁ、アリソン、顔を上げて」」
立ち上がり頭を深く下げる私に、殿下は優しく声をかけてくれた。
そして、ジョーの座っていたソファに殿下が腰を下ろした。
「何年も前からグレイ男爵令嬢の名前は父上である国王も知り、私達の中では話題の人物だった。
それは彼女の作る治療薬が素晴らしかったからだ。
是非ともグレイ男爵令嬢を王都に呼び寄せたいと男爵に願い出たが、すでにスペンサー辺境伯令息の婚約者との返答を受け叶わなかった。
だが、先程スペンサー辺境伯令息とグレイ男爵令嬢の婚約は解消された。
この話は事前に耳に入っていたから、男爵にグレイ男爵令嬢の今後を尋ねていた。
でも、考えたら本人に直接聞かないとね」
そう言うと、殿下は私の方を向いた。
「グレイ男爵令嬢。
いきなりで驚いたかも知れないけれど、王都で薬師として活躍してみないかい?
大丈夫。
王族専属薬師なんて厄介なものを頼むつもりは無いから、安心して欲しい」
少し目を細めて殿下は笑った。
その顔は、私の知るサヴォイ王国の友人アルだった。
「はい、殿下。
よろしくお願い致します」
私はそう答えた。
でも、思い合うふたりをとても見過ごせなくて」
「埋め合わせと言ってはなんだが、それに見合った慰謝料を支払わせてもらおう」
婚約解消の手続きのためにグレイ男爵であるお母様と城を訪れた。
席につくやいなや婚約解消の申請書にサインすると、こうしてふたりで一方的に話す辺境伯ご夫妻の対応に、自分の中で何かが冷めて行くような感覚を覚えた。
私は今まで何を見てきたんだろう。
しかも、この場に居るのが相応しいとは思えないマリアさんが、以前とはまるで違う上質で流行りのデザインのワンピース姿でルークの隣に座っていた。
少し前の私なら胸を痛めたかも知れないけれど、今はどうでも良かった。
ルークとマリアさんの座る右側は見ずに、テーブルに目線を向け続けた。
「これからも、今までと変わらず領地の為にお願いね」
「はい・・・「はい、勿論で御座います。
グレイ男爵家は今までと変わらずに、薬師として領地、領民の為にお仕えいたします。
ただ、アリソンはスペンサー伯爵令息との婚約が解消になった今、王都へ向かうことが決まっており、今後辺境伯領に戻ることはないかと」」
「何だって?アリソンが王都に?」
「兄上、婚約解消となったからには、グレイ男爵令嬢とお呼びください!」
「・・・・・・し、失礼した。
それで、どうしてグ、グレイ男爵令嬢が王都へ向かい、辺境には戻らないと?」
「ああ、そうだ。
グレイ男爵、説明してくれ」
私の言葉に被せて話し始めたお母様は、何やらとんでもない発言をし、それにはルークや辺境伯爵も驚いたようだった。
私だって、そんな話は初耳だ。
「それについては、私から説明しよう」
ガチャ
静かに開いた扉から現れたのは、留学先のサヴォイ王国で何度か顔を合わせ、親しくした友人アルだった。
でも、以前会った時にはボサボサだった黒髪は整えられ、紫色の瞳は輝き、自信に満ち溢れる姿は別人のようだった。
どうして堂々とこんな場所に・・・・・・。
「・・・・・・アル?」
「やぁ!アリソン、久しぶりだね」
「で・・・・・・殿下!
こ、これは・・・・・・お出迎えもせずに大変失礼を・・・・・・」
「構わない。
先触れ無しに来たのは、こちらだから」
で、殿下?
アルが・・・・・・?
この人が・・・・・・殿下?
辺境伯爵の言葉に固まっていると、アルがこちらを見てウィンクした。
アルフォンス・ルイ・モンテ王太子殿下ーー
黒髪に紫色の瞳は王族の証。
神がかった美しさと、無尽蔵ともいえる魔力の持ち主。
どうして、気づかなかったんだろう。
目の前に居るこの方は、王太子殿下だ。
「た、大変失礼を、ご無礼をお許しく「アリソン、謝らないで。
私がアルって呼んでくれ。と、そうお願いした。
それに、素性を偽っていたのは私だ。
さぁ、アリソン、顔を上げて」」
立ち上がり頭を深く下げる私に、殿下は優しく声をかけてくれた。
そして、ジョーの座っていたソファに殿下が腰を下ろした。
「何年も前からグレイ男爵令嬢の名前は父上である国王も知り、私達の中では話題の人物だった。
それは彼女の作る治療薬が素晴らしかったからだ。
是非ともグレイ男爵令嬢を王都に呼び寄せたいと男爵に願い出たが、すでにスペンサー辺境伯令息の婚約者との返答を受け叶わなかった。
だが、先程スペンサー辺境伯令息とグレイ男爵令嬢の婚約は解消された。
この話は事前に耳に入っていたから、男爵にグレイ男爵令嬢の今後を尋ねていた。
でも、考えたら本人に直接聞かないとね」
そう言うと、殿下は私の方を向いた。
「グレイ男爵令嬢。
いきなりで驚いたかも知れないけれど、王都で薬師として活躍してみないかい?
大丈夫。
王族専属薬師なんて厄介なものを頼むつもりは無いから、安心して欲しい」
少し目を細めて殿下は笑った。
その顔は、私の知るサヴォイ王国の友人アルだった。
「はい、殿下。
よろしくお願い致します」
私はそう答えた。
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