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第5話
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「じゃあ、ゲオルクに乗っていたのは、ルークとマリアさんだったの?」
「ああ、マリアがゲオルクに乗ってみたいって」
「それで、あのカフェでケーキを食べて、マリアさんの家にお土産として渡しに行ったと」
「ケーキを食べて、『美味しい、私ひとりだけこんなケーキを』って聞いたらね」
確かに、私も美味しいものを食べたら、ベッキーにも食べさせてあげたい。って思う。
弟と妹が4人もいれば、尚更かもしれない。
「そっか」
それは分かるのに、何だろう。
ゲオルクに乗せたのも、ルークの口から“マリア”と名前を聞くたびに、胸の辺りに違和感のようなものを感じてしまう。
ルークはといえば、お土産のネックレスをつけて赤い宝石を指でツンツンしている。
「危険が起きたら、この宝石が眩しく光って相手の目が一時的に見えなくなるとか?
それとも、異臭を放つ!」
「それじゃあ、ルークもやられるでしょ!」
「そうなる」
1年経って精悍さも加わり、惚れ惚れする顔立ちのルークだけれど、相変わらずの言動に安心感を覚える。
こういう、少しふざけた飾らない会話が親しみやすいと周りはルークを慕う。
おかしくって笑っていると、ルークも幼い頃からよくやるように、顔をクシャっとさせて、いつものように私を抱きしめた。
「ありがとう、アリソン。
アリソンだと思って、毎日身につけるよ」
「うん」
「薬草の匂いがする。
アリソンだ」
その日の夕食後、お母様に話があると言われ執務室へ向かった。
「アリソン、座って頂戴」
返事をしてソファに腰を下ろすと、お母様は手にしていた手紙を広げて、私の顔を見た。
「今日、サヴォイ王国の研究所から手紙が届いたわ」
そういえば、私の作った回復薬の成分を特定するために、研究所で調べていたんだった。
回復薬にしては効き目が強く即効性があると、薬草の育てるところから調合までをいつも研究者が視察に来ていた。
「そう、ですか」
「あら、あまり興味がなさそうね」
「そんな訳じゃ・・・」
ないけど、確かにルークが今現在マリアさんを側に置いて、私の回復薬を使用していないから。
今後はもう回復薬は必要無いと言われている気がして、このことも話せなかった。
手紙によると、回復薬には効能以外に、人が元々持つ自然治癒力を大幅に高める力、リラックス効果。
そして、私が回復薬を作る時に願ったことが反映されている、らしい。
そんなこと言われても、ただ普通に作ってるだけのような。
「それが有り得なくもない話なの。
グレイ男爵家では以前にもアリソンのような薬師が存在したのよ。
だから、あなたは先祖返りっていうのかしら」
先祖返り・・・・・・。
おまじないにも似ているこの能力は、どうやら無意識のうちに使っているらしい。
今回の研究所で調べた結果、体の調子がいまいち優れない者、不眠症の者、風邪を引きやすい者など、何かしら体に問題を抱えたすべての者がたった一度の回復薬の使用で調子が良くなったとのことだった。
「はぁ」
「アリソン、そんな顔しないで。
別に、何かが変わる訳でもないんだし。
それと、今日辺境伯にお会いしたけど、この話を知らないようだったわ。
あなた、まだ話してないのね」
「・・・・・・・・・」
何も言えないでいると、お母様は少し心配そうに眉を寄せ、私の手を優しく握った。
お母様は、マリアさんのことを知っているんだろう。
あれだけルークと一緒に居れば噂にだってなる。
でも、私は口を開くことができなかった。
「ああ、マリアがゲオルクに乗ってみたいって」
「それで、あのカフェでケーキを食べて、マリアさんの家にお土産として渡しに行ったと」
「ケーキを食べて、『美味しい、私ひとりだけこんなケーキを』って聞いたらね」
確かに、私も美味しいものを食べたら、ベッキーにも食べさせてあげたい。って思う。
弟と妹が4人もいれば、尚更かもしれない。
「そっか」
それは分かるのに、何だろう。
ゲオルクに乗せたのも、ルークの口から“マリア”と名前を聞くたびに、胸の辺りに違和感のようなものを感じてしまう。
ルークはといえば、お土産のネックレスをつけて赤い宝石を指でツンツンしている。
「危険が起きたら、この宝石が眩しく光って相手の目が一時的に見えなくなるとか?
それとも、異臭を放つ!」
「それじゃあ、ルークもやられるでしょ!」
「そうなる」
1年経って精悍さも加わり、惚れ惚れする顔立ちのルークだけれど、相変わらずの言動に安心感を覚える。
こういう、少しふざけた飾らない会話が親しみやすいと周りはルークを慕う。
おかしくって笑っていると、ルークも幼い頃からよくやるように、顔をクシャっとさせて、いつものように私を抱きしめた。
「ありがとう、アリソン。
アリソンだと思って、毎日身につけるよ」
「うん」
「薬草の匂いがする。
アリソンだ」
その日の夕食後、お母様に話があると言われ執務室へ向かった。
「アリソン、座って頂戴」
返事をしてソファに腰を下ろすと、お母様は手にしていた手紙を広げて、私の顔を見た。
「今日、サヴォイ王国の研究所から手紙が届いたわ」
そういえば、私の作った回復薬の成分を特定するために、研究所で調べていたんだった。
回復薬にしては効き目が強く即効性があると、薬草の育てるところから調合までをいつも研究者が視察に来ていた。
「そう、ですか」
「あら、あまり興味がなさそうね」
「そんな訳じゃ・・・」
ないけど、確かにルークが今現在マリアさんを側に置いて、私の回復薬を使用していないから。
今後はもう回復薬は必要無いと言われている気がして、このことも話せなかった。
手紙によると、回復薬には効能以外に、人が元々持つ自然治癒力を大幅に高める力、リラックス効果。
そして、私が回復薬を作る時に願ったことが反映されている、らしい。
そんなこと言われても、ただ普通に作ってるだけのような。
「それが有り得なくもない話なの。
グレイ男爵家では以前にもアリソンのような薬師が存在したのよ。
だから、あなたは先祖返りっていうのかしら」
先祖返り・・・・・・。
おまじないにも似ているこの能力は、どうやら無意識のうちに使っているらしい。
今回の研究所で調べた結果、体の調子がいまいち優れない者、不眠症の者、風邪を引きやすい者など、何かしら体に問題を抱えたすべての者がたった一度の回復薬の使用で調子が良くなったとのことだった。
「はぁ」
「アリソン、そんな顔しないで。
別に、何かが変わる訳でもないんだし。
それと、今日辺境伯にお会いしたけど、この話を知らないようだったわ。
あなた、まだ話してないのね」
「・・・・・・・・・」
何も言えないでいると、お母様は少し心配そうに眉を寄せ、私の手を優しく握った。
お母様は、マリアさんのことを知っているんだろう。
あれだけルークと一緒に居れば噂にだってなる。
でも、私は口を開くことができなかった。
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