19 / 25
第19話 クライブ
しおりを挟む
二人の所まで早足で急ぐと、男が彼女の腕を掴んだのが目に入った。
「寂しそうにしてると思って声かけてやったのに」
怒りが込み上げ、文官の腕を捩じ上げた。
文官ニコラス・ドミンゲス伯爵令息に、名指しで陛下が規律の乱れを嘆いていたと告げれば、あろうことか『彼女に誘惑された』とほざく。
腕が折れる寸前まで捩じ上げる力を加えてやれば、嫌々ながらやっと彼女に謝罪の言葉を口にした。
この男は賭け事にのめり込み、伯爵に内緒で相当の借金を抱えているうえ、女癖もかなり悪いときている。
婚約者のいる侍女二人に手を出して、問題になったばかりのはずだった。
「伯爵が覚えの無い借金の取り立てに驚いて倒れたと聞いたが」
教えてやれば顔色を悪くして逃げて行った。
彼女を見れば、痛いんだろう。
腕をずっとさすっていた。
もう少し早く来ていれば。
悔やまずにいられなかった。
翌日、側妃様から昨日怪我を負ったルグラン子爵令嬢を離宮から医務室までの護衛の依頼の話がきた。
「ルグラン子爵令嬢って、あの色っぽい侍女だろ。
あ、団長、俺が立候補します」
「お前、狡いぞ」
騎士達の発言に嫌悪感を隠せなかった俺は椅子から立ち上がり、二人に向き合った。
何かするつもりなんて無かったが、急に縮み上がった二人と俺の間に何故か団長が入り込んだ。
結局は俺が護衛につくことになり、騎士達には罰が与えられた。
ドミンゲス伯爵令息といい騎士達といい、ルグラン子爵令嬢に対しての発言には苛立ちを覚えずにいられなかった。
「ノックス副団長、ごきげんよう」
医務室への護衛任務が終わってから、彼女を目にすることはなかった。
だから、図書室で声をかけられた時には驚きを隠せなかった。
ルグラン子爵令嬢は冒険小説を選んでいた俺に、自分もそれを読んだことがあっておすすめです!と目を輝かせて話し始めて、俺は頷きながら彼女の話を聞いた。
図書室は騎士が常駐し安全だが、ここを一歩出ればドミンゲス伯爵や騎士達のような不埒な男が現れる可能性がある。
帰りは女子寮まで彼女を送り、建物に入るまで見届けた。
そんなことが数回続いたある日、団長にルグラン子爵令嬢と婚約してはどうか。
そんな話をされた。
図書室でしか会ってないんだろ。まずは食事に行くと良い。
この時、初めて意識したのかも知れない。
いや、本当はずっと彼女が気になっていた。
ただ、自分が誰かと一緒になるなんて今までは考えもしなかったから、気持ちに気づかないふりをしていた。
食事をとりながら、いつもみたいに小説の話ばかりする彼女から、もっと他の話が聞きたいと思った。
こうやって、テーブル越しに彼女を見つめる唯一の存在で在りたい。
シドニー、名前で呼びたいと。
そして、二度目の食事に花束を抱えて向かった。
花束を渡し、以前から図書室で見かけて、綺麗な女性だと思っていたと。
話すようになってどんどん惹かれていって。
だから、こうして一緒に食事ができて嬉しく思うこと。
目をパチクリさせて、言葉を失っている彼女に話を続けた。
「私との婚約を考えてくれないか?」
「寂しそうにしてると思って声かけてやったのに」
怒りが込み上げ、文官の腕を捩じ上げた。
文官ニコラス・ドミンゲス伯爵令息に、名指しで陛下が規律の乱れを嘆いていたと告げれば、あろうことか『彼女に誘惑された』とほざく。
腕が折れる寸前まで捩じ上げる力を加えてやれば、嫌々ながらやっと彼女に謝罪の言葉を口にした。
この男は賭け事にのめり込み、伯爵に内緒で相当の借金を抱えているうえ、女癖もかなり悪いときている。
婚約者のいる侍女二人に手を出して、問題になったばかりのはずだった。
「伯爵が覚えの無い借金の取り立てに驚いて倒れたと聞いたが」
教えてやれば顔色を悪くして逃げて行った。
彼女を見れば、痛いんだろう。
腕をずっとさすっていた。
もう少し早く来ていれば。
悔やまずにいられなかった。
翌日、側妃様から昨日怪我を負ったルグラン子爵令嬢を離宮から医務室までの護衛の依頼の話がきた。
「ルグラン子爵令嬢って、あの色っぽい侍女だろ。
あ、団長、俺が立候補します」
「お前、狡いぞ」
騎士達の発言に嫌悪感を隠せなかった俺は椅子から立ち上がり、二人に向き合った。
何かするつもりなんて無かったが、急に縮み上がった二人と俺の間に何故か団長が入り込んだ。
結局は俺が護衛につくことになり、騎士達には罰が与えられた。
ドミンゲス伯爵令息といい騎士達といい、ルグラン子爵令嬢に対しての発言には苛立ちを覚えずにいられなかった。
「ノックス副団長、ごきげんよう」
医務室への護衛任務が終わってから、彼女を目にすることはなかった。
だから、図書室で声をかけられた時には驚きを隠せなかった。
ルグラン子爵令嬢は冒険小説を選んでいた俺に、自分もそれを読んだことがあっておすすめです!と目を輝かせて話し始めて、俺は頷きながら彼女の話を聞いた。
図書室は騎士が常駐し安全だが、ここを一歩出ればドミンゲス伯爵や騎士達のような不埒な男が現れる可能性がある。
帰りは女子寮まで彼女を送り、建物に入るまで見届けた。
そんなことが数回続いたある日、団長にルグラン子爵令嬢と婚約してはどうか。
そんな話をされた。
図書室でしか会ってないんだろ。まずは食事に行くと良い。
この時、初めて意識したのかも知れない。
いや、本当はずっと彼女が気になっていた。
ただ、自分が誰かと一緒になるなんて今までは考えもしなかったから、気持ちに気づかないふりをしていた。
食事をとりながら、いつもみたいに小説の話ばかりする彼女から、もっと他の話が聞きたいと思った。
こうやって、テーブル越しに彼女を見つめる唯一の存在で在りたい。
シドニー、名前で呼びたいと。
そして、二度目の食事に花束を抱えて向かった。
花束を渡し、以前から図書室で見かけて、綺麗な女性だと思っていたと。
話すようになってどんどん惹かれていって。
だから、こうして一緒に食事ができて嬉しく思うこと。
目をパチクリさせて、言葉を失っている彼女に話を続けた。
「私との婚約を考えてくれないか?」
268
お気に入りに追加
3,118
あなたにおすすめの小説

あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

君に愛は囁けない
しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。
彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。
愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。
けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。
セシルも彼に愛を囁けない。
だから、セシルは決めた。
*****
※ゆるゆる設定
※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。
※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。

溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。
ふまさ
恋愛
いつものように屋敷まで迎えにきてくれた、幼馴染みであり、婚約者でもある伯爵令息──ミックに、フィオナが微笑む。
「おはよう、ミック。毎朝迎えに来なくても、学園ですぐに会えるのに」
「駄目だよ。もし学園に向かう途中できみに何かあったら、ぼくは悔やんでも悔やみきれない。傍にいれば、いつでも守ってあげられるからね」
ミックがフィオナを抱き締める。それはそれは、愛おしそうに。その様子に、フィオナの両親が見守るように穏やかに笑う。
──対して。
傍に控える使用人たちに、笑顔はなかった。

二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

婚約破棄のその後に
ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。
見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる