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第16話
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「ジーナもふかふかのクッション買ったのね」
「ええ、王都からここへ来る時で懲りたから」
あの日、茶髪のウィッグを被って離宮から劇団へ向かうと私の持ち物が少ないことに驚かれた。
出発まではまだ時間があったので、マッケンジー公爵領までに必要な着替えなどを近くの店舗で買うことにした。
『荷馬車でお尻に敷くクッションを買ったらいいわよ』
そんなことを言われたけれど、正直のところ意味が分からなかった。
私は馬車と荷馬車に違いをよく理解していなかったから。
いつも乗っている馬車より多少狭いくらいだろう。
だから、着替えのみを買い、荷馬車を目の当たりにして驚いた。
それは幌馬車というもので座席はただの板張りで。
そこで初めてクッションの意味を理解したけれど時すでに遅し。
苦し紛れに着替えをお尻に敷くものの、体は悲鳴を上げていた。
でも、今回は違う。
ふかふかのクッションを座席に敷いて、買っておいたクッキーやフルーツを食べながら、私達は次の目的地ターナー伯爵領に向かっていた。
途中小さな町で1泊して、朝早くに出発する。
そこから先は人が住むような場所はなく、ひたすら荒野が続き、夜にターナー伯爵領の町に到着予定だ。
「大丈夫かなぁ」
公爵家の立食パーティーで不安を見せていた役者の子が呟いた。
「大丈夫よ」
10名もの公爵家の護衛騎士がついている。
リリアンさんも7年何事も無いと言っていた。
隣の席の子達が、あの護衛騎士がかっこいいと騎士の話題で盛り上がっているので、私達も話に参加した。
もう半分以上進んだはず。
少しうとうとしていていたのか、目を開ければ外は少し薄暗くなっているようだった。
みんなはまだ眠っている。
私は後ろに進み、そっと幌を開けて外をの様子を覗いた。
その時だった。
ドッドッドッ! ドドッ! ドドドッ!!
左右からものすごい音と勢いで馬が近づいて、馬上には武器を持った男性が目に入った。
「女が居たぞ!!」
これは・・・・・・
慌てて座席戻ろうとするも、急に馬車のスピードが上がり倒れ込んでしまった。
外からは怒鳴り声や唸り声、剣の音がして、恐怖で体が震え出す。
眠っていたみんなも目を開けて、外で起こっている出来事に怯えていた。
ガタン!!
「うっ・・・・・・」
前方の御者台からうめき声が聞こえたと同時に、大きな音が鳴り馬車が停車した。
胸が激しく音を立て、動こうにも恐怖で体が膝をついた状態から動かない。
ダメかもしれない・・・・・・。
馬が近づいて、すぐ近く止まった音が聞こえた。
「確かに女を見たんだな」
「ああ、上玉だった」
「追ってが来るとマズイから、3人攫ってずらがるぞ。
急げ!」
・・・クライブ様・・・・・・。
次の瞬間、幌が開かれて、立ち上がろうとするところを馬車に乗り込んで来た人物に腕を掴まれて、よろめきながら馬車から降ろされた。
「こりゃ、すげぇ上玉だ!」
もう、頭が働かなかった。
ただ、護衛騎士と男達が剣で戦っているのが、スローモーションのようにゆっくりと動いてた。
馬に乗っている男に、手を強く引かれた次の瞬間、
「シドニー!!」
ここに居るはずのない人の声が聞こえて、大きな背中がいつの間にか私の目の前にあった。
「シドニー、目を閉じて」
夢かもしれない。
願望が、見えているだけかもしれない。
でも、
私は目を閉じた。
「ええ、王都からここへ来る時で懲りたから」
あの日、茶髪のウィッグを被って離宮から劇団へ向かうと私の持ち物が少ないことに驚かれた。
出発まではまだ時間があったので、マッケンジー公爵領までに必要な着替えなどを近くの店舗で買うことにした。
『荷馬車でお尻に敷くクッションを買ったらいいわよ』
そんなことを言われたけれど、正直のところ意味が分からなかった。
私は馬車と荷馬車に違いをよく理解していなかったから。
いつも乗っている馬車より多少狭いくらいだろう。
だから、着替えのみを買い、荷馬車を目の当たりにして驚いた。
それは幌馬車というもので座席はただの板張りで。
そこで初めてクッションの意味を理解したけれど時すでに遅し。
苦し紛れに着替えをお尻に敷くものの、体は悲鳴を上げていた。
でも、今回は違う。
ふかふかのクッションを座席に敷いて、買っておいたクッキーやフルーツを食べながら、私達は次の目的地ターナー伯爵領に向かっていた。
途中小さな町で1泊して、朝早くに出発する。
そこから先は人が住むような場所はなく、ひたすら荒野が続き、夜にターナー伯爵領の町に到着予定だ。
「大丈夫かなぁ」
公爵家の立食パーティーで不安を見せていた役者の子が呟いた。
「大丈夫よ」
10名もの公爵家の護衛騎士がついている。
リリアンさんも7年何事も無いと言っていた。
隣の席の子達が、あの護衛騎士がかっこいいと騎士の話題で盛り上がっているので、私達も話に参加した。
もう半分以上進んだはず。
少しうとうとしていていたのか、目を開ければ外は少し薄暗くなっているようだった。
みんなはまだ眠っている。
私は後ろに進み、そっと幌を開けて外をの様子を覗いた。
その時だった。
ドッドッドッ! ドドッ! ドドドッ!!
左右からものすごい音と勢いで馬が近づいて、馬上には武器を持った男性が目に入った。
「女が居たぞ!!」
これは・・・・・・
慌てて座席戻ろうとするも、急に馬車のスピードが上がり倒れ込んでしまった。
外からは怒鳴り声や唸り声、剣の音がして、恐怖で体が震え出す。
眠っていたみんなも目を開けて、外で起こっている出来事に怯えていた。
ガタン!!
「うっ・・・・・・」
前方の御者台からうめき声が聞こえたと同時に、大きな音が鳴り馬車が停車した。
胸が激しく音を立て、動こうにも恐怖で体が膝をついた状態から動かない。
ダメかもしれない・・・・・・。
馬が近づいて、すぐ近く止まった音が聞こえた。
「確かに女を見たんだな」
「ああ、上玉だった」
「追ってが来るとマズイから、3人攫ってずらがるぞ。
急げ!」
・・・クライブ様・・・・・・。
次の瞬間、幌が開かれて、立ち上がろうとするところを馬車に乗り込んで来た人物に腕を掴まれて、よろめきながら馬車から降ろされた。
「こりゃ、すげぇ上玉だ!」
もう、頭が働かなかった。
ただ、護衛騎士と男達が剣で戦っているのが、スローモーションのようにゆっくりと動いてた。
馬に乗っている男に、手を強く引かれた次の瞬間、
「シドニー!!」
ここに居るはずのない人の声が聞こえて、大きな背中がいつの間にか私の目の前にあった。
「シドニー、目を閉じて」
夢かもしれない。
願望が、見えているだけかもしれない。
でも、
私は目を閉じた。
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