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第15話

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マリさんは紙袋の中身が、クッキーか流行りのマカロンだと思っていたらしい。
とにかく、こんな見るからに高級そうなものを貰う理由もなく、ノーマン医師に返すのをマリさんにお願いすることにした。

「任せときな。
ただでさえ人目を引くお嬢さんが、こんな高級品を身につけてそこら辺を歩いてたら目立ってしょうがないよ。
あのボンボンも、もう少し考えればいいものを。
そうそう、手はどうだい?」

手袋を取って左手の甲を見せると、マリさんは強く頷いた。

「うん。順調に良くなってるよ。
良かった良かった。
・・・ん?・・・あれ?・・・・・・ん?」

「どうかしました?」

「いや、さっきから、こう・・・・・・、
なんだろうねぇ」

マリさんは今私達がいる待合室から、ガラス張りになっている入口付近を何度も確認するように目を向けていた。

「患者さんでしょうか」

「うーん、患者っていうよりは護衛・・・・・・?
まぁ、他の会社への客人が間違えたのかも知れない」

そろそろ診療受付時間になりそうなので、私はマリさんにお別れを告げて治療院を出た。

昨夜、あの紙袋を受け取ってからのモヤモヤしていたものが解消され、スッキリとした気分だった。
マリさんの言った通り、火傷の跡も薄くなってきている。

ちょうどお店も開店の時間らしいので、何軒か気になる店舗を覗いていくことにした。

帽子は前回の休みに一つ買ったけれど、これから暑くなるのでストローハットというものも見てみよう。
あとは、部屋の子達と食べるクッキーかマカロンに本屋。

一人での買い物は正直まだ緊張するけれど、今回は男性の店員さんも必要以上に話しかけてこないし、全てがスムーズに進んだ。

ただ、本屋へ入っても、大好きなはずの冒険小説や推理小説は手にすることができなかった。
並んでいる小説を眺めていると、あの人クライブ様を思い出して胸が苦しくなった。

ーー今頃どうしているんだろう。


その日は、本屋では髪型のスタイル集というものを買って、小説は結局手に取ることさえできなかった。




仕事に慣れてきたせいか時間が経つのが早く、あっという間に最後の演目も残すところ一公演となった。
今回のストーリーは、孤児院で育った少女が美しく成長し、王子様と恋に落ちる身分差もの。

騎士も二人の間を邪魔をする婚約者も出てこないので、気持ちが沈むこともなかった。



「この次は南に下ったターナー伯爵領なんだけど、途中に休憩場所も少ないから、ずっと荷馬車に揺られるのよね」

今夜はここマッケンジー公爵領での公演を無事終了したお祝いで、公爵家へ招待されている。
最初聞いた時はドキッとしたけれど、広い庭園での格式ばらない立食パーティで一安心した。

「ターナー伯爵領までは荷馬車で何日かかるんですか?」

「2日よ。実は途中治安の良くない地域があるの」

「良くないって「大丈夫よ」」

役者の子から話を聞いていると、リリアンさんが片手にワイングラスを持って私の言葉を遮った。

「昔は山賊がよく出たらしいの。
でも、ここ7年はほぼ毎年通っているけど、危険な目に遭ったことはないわ。
それに、ここ公爵家からも大勢の護衛騎士がついてくれるの」

「・・・・・・そうですか」

山賊なんて、小説の世界に登場するものだとばかり思っていた。
実際に存在するんだ。

「それに、最近凄腕が一名居るみたいだし」

「・・・・・・凄腕?」

護衛騎士も大勢つくし、リリアンさんが大丈夫だと言うんだから問題ないだろう。

この時は、そう思っていた。





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