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12話

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2ヶ月と決めたのには、私なりに理由があった。 



ハリーの行動に違和感を感じるようになって、どうして急に。と最初は思った。
そして、違和感は無くなるどころかどんどん大きくなっていき、私を不安にさせた。

でも考えてみると、それは以前からすでに始まっていたのかもしれなかった。

決して頻繁ではないけれど、ハリーは約束をキャンセルすることがあった。
それはいつも決まって、騎士団の休日の前夜だった。
そして、翌日の休日も約束はしていなかった。
ハリーの都合によって。

考え過ぎかもしれないけれど、思い起こすとどんどん疑心が募っていった。

本当なら信頼出来なくなってきている段階で、ハリーと別れるべきかもしれない。
ハリーを問い詰めて話してもらえなければ、魔法を使って女性の存在だって暴き出すことは出来る。

でも、私には今すぐにそれを行動に移す勇気が無かった。



ハリーは恋人で、そして私が10歳の時にできた大切な友達だから。

まだ10歳だった私は父母と離れ田舎街から王都へ来て、とても不安で寂しかった。
そんな時、公園でハリーに出会って友達になって、たくさん話してたくさん遊んだ。
会えない期間はずっと手紙のやり取りを続けて、それは字の練習でもあったけれど、私の一番の楽しみでもあった。

成長して恋人になって関係性は変わったけれど、それでもハリーはいつも私の隣にいるかけがえのないたった1人の存在だから、簡単には失いたくなかった。

だから、期間を設けることにした。

2ヶ月に決めたのは、以前私がハリーの家名を知らないことに悩んでいた時、解決できたのが2ヶ月後だったから。

あの時私は不在にしていたし、今と状況も違う。

でも、この2ヶ月で私なりにハリーと向き合って、その結果をしっかり受け入れようと決めた。

 

だから、私との約束をキャンセルして、他の女性と出かけても、私はハリーに会うために騎士団の公開訓練の見学に来た。
サンドイッチを持参して。

ハリーは私を見ると申し訳なさそうにして、でも私が普通にしているので、サンドイッチを完食していつものように寝そべった。

「ルル、そーいえばずっと遠乗りしてないな。今度行くか」

「そーだね」


でも、私達が遠乗りすることは叶わなかった。

私がハリーと話したのは、この公開訓練が最後になったから。


「ルルさん、3日後から学園の魔法科の特別講師を1ヶ月間勤めて下さい」

エヴァンさんに言われ、私は学園へと向かった。

ハリーには、魔法で手紙を送った。
(2ヶ月、緊急任務がはいった) と。


学園での講師の仕事は楽しいものだった。
生徒は魔法を覚えることに熱心で、奇想天外な質問がたくさん飛んでくるので、毎日があっという間に過ぎて行った。

1ヶ月の講師の仕事が終わろうとする頃学園内で、騎士団の公開訓練でハリーに囁いていた、あの年上に見える色っぽい黒髪の女性に会った。

「あら?あなた、もしかして」

私を覚えていたことに驚いた。
話があるみたいなので、聞くことにした。

学園には離れて暮らす弟に会いに来た。と言い、その後ハリーの話になった。

前回のハリーの遠征先の近くの町で飲食店を経営していて、そこにハリーが行ったらしい。

「私のね、元子爵令嬢の従妹と仲良くなって、何度も枕を交わしてるの。
だからこの前、『従姉妹のマーガレットが待ってるわよ』って、教えてあげたの」

と、満足の笑みを浮かべて去って行った。



ああ・・・
そうだったんだ。

あの遠征から戻ってきて、様子がおかしかったのは・・・・・・

回復魔法を掛けても、効かなかったのは
・・・・・・



学園での1ヶ月の仕事が終わり、私は伯爵邸へ帰った。

エルドウッド様には学園での仕事へ行く前に、辺境へ行くことを決めたと話していた。

「向こうは、いつでも歓迎だよ。
ルルの準備ができたらね」



伯爵邸で数日過ごして、ちょうど2ヶ月が経った。



私は騎士団の公開訓練の見学に、かなり足を運んだ。
見学では、たくさんの女性がお喋りを楽しんでいる。

私には色々な話が聞こえていた。


(男爵令嬢がハリーに夢中で、デートをした)

(騎士団の飲み会では、ゲームをして、その日だけ恋人になれるチャンスがある)

(騎士団の飲み会で、酔って、キスした)

(騎士団の休日の前夜は飲み会がある)


この話が本当かは、わからない。
でも、今日は騎士団の飲み会の日。



私はローブのフードを深く被って、転移した。


騒ついた店内に入り、認識阻害魔法を掛ける。
これで、私のことは気にならないはず。


空いている椅子に座り、辺りを見渡す。




ああ・・・・・・

いて欲しくない人が、座っていた。



私は2ヶ月間の仕事だと、ハリーに伝えていた。
試したかったから。

でも、隣にピンク色の髪の女性がいる。
劇場でエスコートしていた人。
やっぱり、そういう関係なんだ・・・


しばらくすると、
ピンク色の髪の女性がハリーに近づき、見つめて何か言っている。

ハリーも女性の肩に手をかけた。


私は立ち上がり、認識阻害魔法を解除する。

途端に、ローブのフードがずれて、茶色から白金色に変化した髪が靡く。

マズイ!

目も熱くなってきた。
たぶん、瞳の色も変わった。

前線で魔獣と戦った時にも起こった魔力暴走の一種だ。
見た目も変わり、攻撃的な人格になる。


大丈夫
大丈夫

コントロールは覚えている。

落ち着いている、もう1人の自分が必死に魔力を抑え込む。

怪我人は出せない。



強気な私はどんどん足を進める。



前兆は、色々とあった。
ありすぎたくらいに。
『また女性と距離が近すぎることがあれば後は無いから!』と、釘もさしていた。

信じたかったけれど、いつかこんな日が来るんじゃないかと予感はあった。


私の前方で、恋人であるハリーが他の女性の肩を抱きキスしている。
しかも、濃厚なヤツを。
女性はハリーの胸元に手をおいて、ノリノリ間を隠しきれていず、いや、むしろ女性の方が推し気味に見えなくもないけど、そんなこと今はどうでもいい。

驚くべきは、ここが騎士団の飲み会の場ということ。
まぁ、周りにわんさかと人が居る。
飲んで酔ったノリなのか、ゲームなのか、それとも本気のヤツなのか。

周りも酔っぱらいが多く、キスしている2人を囃し立てているように見える。
だけど今はそんなことはどうでもいい。
どうでもいいのだ。

私は、今キッパリ、サッパリ、スッキリとハリーとお別れしなくてはいけない。


一歩一歩進みながら、自分の体に、特に右腕中心に強化魔法をかけてていく。
酔っていたと思われる騎士達が、ヤベェと言わんばかりの表情で道を開け、ハリーと女に向かって口々に何か言っている。
今頃何か言うなら、もっと早くに言ってやって欲しかった。
もう遅いけど。

ハリーは、やっと私に気づいたようで、慌てて隣にいる女を引き離し、私に何か言っている。

目の前で足を止めた私に、ハリーは青ざめた表情でこちらを見る。

「ルル・・・・・・」

久しぶりに見たハリー。これが最後かと思うと、今までの出来事が頭の中を駆け巡る。
鼻がツンとして、目に涙が浮ぶ。

泣かない 泣かない

私は深呼吸し、右手に握りしめてハリーの左頬へと強力パンチをお見舞いする。

物凄いぶっ飛んだ音がする。

私は振り返らず歩き出す。
歩きながら転移魔法をを発動させる。
キラキラと光が溢れて視界が霞む。

「さようなら。ハリー」

そっと呟いた。






























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