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第十話 腸括約! 菊門ちゃま!(直球)
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「おっとここだ! ほら、見てみろよ。ここの島のパチンコ台の横にはスポンジが付いてるだろ?」
「本当ですねぇ、触った感じも普通のスポンジですけど……」
二人はスポンジを触ったりしてあーでもないこーでもないと議論を交わしている。何の変哲も無いスポンジが態々パチンコ台に、しかも一台に付き一個と付けられているのだ。二人が不思議がるのも無理は無かった。
「……なぁ二人共、この台を打つのは止めにしないか?」
祐介はそう提案した、無論祐介はスポンジと聞いた時点である程度の予測はしていた。そしてこのスポンジがどのような役割を持っているかも知っている、しかし二人にはそう切り出したのだ。
「なんでだよぉ!? 祐介は気にならないのか? スポンジをぎゅむぎゅむしたくないのか!?」
「祐介さんは反対ですか? あ、もしかして……この台で勝つのは難しい……とかですか?」
二人は両側から祐介を責め立てる、しかし祐介は首を振るばかりである。
「正直な話をするが、台の性能を小冊子で確認したところ、この釘ならまぁ打っても問題ないと思う。というか、打つべきだ。それぐらい回りそうな釘をしている」
「じゃあ何で止めようとすんだよぉ! ねぇ、打とうよぉ! メルちゃんもマオちゃんも頑張るからぁ!」
「はい! 僕も一生懸命打ちます、命懸けますから!」
「懸けなくてもいいから! でもなぁ、これ……打ちたい?」
祐介は不満タラタラといった様子でパチンコ台を指で差した。そのパチンコの名前は『腸括約! 菊門ちゃま!』と書かれている。
「下品過ぎるだろ! キャラクターもデフォルメされているとはいえ、完全にお尻じゃないか! 毛まで生えてるんだぞ!?」
「……これはちょっと憚られますねぇ」
「何でだよ! スポンジが置いてあるのはこの台しか無いんだぞ!? 大体自分がケツを曝すわけじゃあるまいし気にしすぎだっての。それにこの菊門ちゃまってのもよーく見ると……うん、可愛くは無いけれども!」
メルも頭を抱えて悩んでいる様子である。菊門ちゃまと呼ばれているキャラクターはざっくりと表現すると、人が下半身を露出したまま真っ二つになるほど深くお辞儀をして、下半分を隠し、更にそれを裏側から見たのをデフォルメしたキャラクターである。某漫画のケツだけ星人に目と口を足した物と言った方が分かりやすい。
「可愛くは無いけれども! 愛嬌が……無いけれども!」
「全部駄目じゃないか」
「えぇぇー……打ちたい打ちたぁい! 菊門菊門菊門、菊門ちゃま打ちたぁーい!」
「落ち着けって、今メルは相当恥ずかしい事を言ってるぞ!」
「メ、メルしゃん、ききゅもん連呼はちょっと……」
「いいもーん、祐介の打つべきって言質取ったから打っちゃうもーん!」
メルはさっと座って自身の財布から一万円を取り出す。そしてそれをいつも通り左上の機械に差し込もうとするが、ピタッと動きが止まる。
「あれっ? これお札入んないじゃん?」
メルの疑問は尤もである。通常そこにはパチンコ台と同期したサンドと呼ばれる機械があり、対応しているお札なら全て入れる事が出来る。しかしこの台にもサンドはあるものの、お札を入れる場所は見当たらない。代わりに500円と書かれた穴が開いているだけである。
「あれぇ? あれぇ?」
メルの左手は一万円を持ったまま宙を彷徨う。台間サンドとパチンコ台が繋がっていない、つまりこの『腸括約! 菊門ちゃま!』は日本でいうところの現金機なのである。
現金機とはパチンコ初期から中期に掛けて開発されていた規則の物である。厳密に言えば現行でも世に出す事は出来るのだが、昔と比べて現金機で作るメリットは無いので日本ではもう作られないだろう。
「なぁ祐介ぇ、これメルちゃんの一万円が入らないんだけど?」
「これは現金機と呼ばれる種類のパチンコなんだよ。通路脇に両替機があったろ? このパチンコを打つなら先ずはあそこでお金を500円玉に両替してこなきゃな」
「そうなの? 何か面倒だなぁ……」
「……それなら止めるか?」
祐介の密かな希望を込めた言葉にメルは舌をペロッと出して「やーめないっ!」と両替機まで走っていく。どうやらもう打つのは決定事項なようである。
「ふぅ……マオ、俺達も両替しに行こうか。とりあえず5千円も崩して置けば大丈夫だろ」
「あ、はーい!」
マオは祐介の後をトコトコと着いてくる。
「それにしても祐介さんはパチンコにお詳しいんですね、僕びっくりしちゃいましたぁ!」
「いやー、下手の横好きというか、これ以外に趣味も無かったからかな。パチンコばかり打っていたからね」
「そうなんですねぇ、僕もよく打つんですけどまだまだ分からない事ばかりで困っちゃいますよぉ!」
「パチンコは種類も多いから覚えるのも大変だよね」
ましてやこの異世界は日本とは違い新旧揃い踏みといった状況である。恐らくこの店に居る客達も全てを理解している人は居ないであろう。勿論祐介自身も全てを理解しているとは言えないのではあるのだが。
三人はさっと両替を済ませて『腸括約! 菊門ちゃま!』の台へと座った。
「……本当に打つのか」
「そんなシケた顔すんなよぉ! さて祐介、早速だけどこの機種の要点を頼むぜ!」
「ん、あぁ。そうだな。先ず一番大事な事を言っておくけど、この台に確変図柄は無い」
「え? 3とか7とかちゃんとあるじゃん! ちょっと待って、確変が無いならなんで3とか7があるの? 意味無くない?」
「全部只の数字なんだよ、絵柄とかも一緒だ。全部一緒!」
信じられないといった表情のメルを置いといて祐介は言葉を続ける。
「ちなみに時短も無い! そして当たれば2400発! 以上だ!」
「言われてみれば電チュー部分がありませんねぇ、これは大当たりだけで増やすタイプのパチンコなんでしょうか」
「マオの言う通り、200分の1で当たるだけ、それがこの台の特徴だ」
「……おいおい祐介ぇ、だけどこの台にはスポンジがある、そうだろ?」
メルはニヤリと笑ってスポンジがある。そう、かつて日本でも『黄門ちゃま』というパチンコ台の横にスポンジが置かれていた時代があった。それを踏まえるとこのスポンジにはここに置かれるべき理由があるのだ。
「このスポンジはな──」
「おっとぉ! その答え合わせにゃまだ早いぜ? まだまだアタシ達は打ち始めたばかりだろ! でもメルちゃんは何に使うかもう分かっちゃったもんね!」
「……それじゃとりあえず打ち始めようか。当たったら出玉共有で回していこう、マオもそれでいいかい?」
「はい! 皆で頑張りましょうね!」
二人は祐介を挟むようにして台に座った。三人の前には十枚ずつの500円玉が重ねてある、三人はそこから一枚を掴むとサンドへと放り込む。するとジャラララと玉が流れる音はすれど、肝心の玉は上皿に現れない。
「玉が出てきませんねぇ……詰まってしまったのでしょうか?」
マオとメルは上皿を覗き込んだりしてみるが、何処にも玉は無い。終いにはメルが台を叩こうとしたので祐介が慌てて止めた。
「すまん、言うのを忘れていたけどこういう現金機はサンドから直接玉を受け取るんだ。こんな感じに」
祐介はサンドの中央から縦に飛び出ている筒に、両手をお椀の様に拡げて下から押し上げる。するとカラカラカラと筒からパチンコ玉が出てきた。
「こうして両手でしっかり受け止めないと溢すから気を付けてね。あ、途中で筒を下げれば玉は止まるから」
「へぇ、何だか面白いですねぇ……おっとっと」
マオの小さい手だと500円玉で借りれる125玉ですら溢れそうであった。
「よいしょ、よいしょ……ふぅ。僕の手では溢してしまいそうです」
「そうだな、マオなら箱を使うかそれともこのカップを使ってもいいかもね」
台に備えられているカップをマオは受け取ると「丁度良いサイズですぅ!」と喜んだ。これで三人の上皿には玉が流され、遂に『腸括約! 菊門ちゃま!』を打つ時が来た。
(……とにかく当てないとまたメルに何か言われそうだ)
祐介の脳裏に嫌味ったらしいメルのにやけ面が思い出された、ここが勝負処である。三人が一斉にハンドルを回して玉を打ち始めるといつものように玉が盤面内を躍りながら落ちていく。パチンコを打ち始めてからはすっかりと見馴れた光景だが、どの一玉が数時間後の自身を運命付けるかは打ってみるまでは分からない。
「本当ですねぇ、触った感じも普通のスポンジですけど……」
二人はスポンジを触ったりしてあーでもないこーでもないと議論を交わしている。何の変哲も無いスポンジが態々パチンコ台に、しかも一台に付き一個と付けられているのだ。二人が不思議がるのも無理は無かった。
「……なぁ二人共、この台を打つのは止めにしないか?」
祐介はそう提案した、無論祐介はスポンジと聞いた時点である程度の予測はしていた。そしてこのスポンジがどのような役割を持っているかも知っている、しかし二人にはそう切り出したのだ。
「なんでだよぉ!? 祐介は気にならないのか? スポンジをぎゅむぎゅむしたくないのか!?」
「祐介さんは反対ですか? あ、もしかして……この台で勝つのは難しい……とかですか?」
二人は両側から祐介を責め立てる、しかし祐介は首を振るばかりである。
「正直な話をするが、台の性能を小冊子で確認したところ、この釘ならまぁ打っても問題ないと思う。というか、打つべきだ。それぐらい回りそうな釘をしている」
「じゃあ何で止めようとすんだよぉ! ねぇ、打とうよぉ! メルちゃんもマオちゃんも頑張るからぁ!」
「はい! 僕も一生懸命打ちます、命懸けますから!」
「懸けなくてもいいから! でもなぁ、これ……打ちたい?」
祐介は不満タラタラといった様子でパチンコ台を指で差した。そのパチンコの名前は『腸括約! 菊門ちゃま!』と書かれている。
「下品過ぎるだろ! キャラクターもデフォルメされているとはいえ、完全にお尻じゃないか! 毛まで生えてるんだぞ!?」
「……これはちょっと憚られますねぇ」
「何でだよ! スポンジが置いてあるのはこの台しか無いんだぞ!? 大体自分がケツを曝すわけじゃあるまいし気にしすぎだっての。それにこの菊門ちゃまってのもよーく見ると……うん、可愛くは無いけれども!」
メルも頭を抱えて悩んでいる様子である。菊門ちゃまと呼ばれているキャラクターはざっくりと表現すると、人が下半身を露出したまま真っ二つになるほど深くお辞儀をして、下半分を隠し、更にそれを裏側から見たのをデフォルメしたキャラクターである。某漫画のケツだけ星人に目と口を足した物と言った方が分かりやすい。
「可愛くは無いけれども! 愛嬌が……無いけれども!」
「全部駄目じゃないか」
「えぇぇー……打ちたい打ちたぁい! 菊門菊門菊門、菊門ちゃま打ちたぁーい!」
「落ち着けって、今メルは相当恥ずかしい事を言ってるぞ!」
「メ、メルしゃん、ききゅもん連呼はちょっと……」
「いいもーん、祐介の打つべきって言質取ったから打っちゃうもーん!」
メルはさっと座って自身の財布から一万円を取り出す。そしてそれをいつも通り左上の機械に差し込もうとするが、ピタッと動きが止まる。
「あれっ? これお札入んないじゃん?」
メルの疑問は尤もである。通常そこにはパチンコ台と同期したサンドと呼ばれる機械があり、対応しているお札なら全て入れる事が出来る。しかしこの台にもサンドはあるものの、お札を入れる場所は見当たらない。代わりに500円と書かれた穴が開いているだけである。
「あれぇ? あれぇ?」
メルの左手は一万円を持ったまま宙を彷徨う。台間サンドとパチンコ台が繋がっていない、つまりこの『腸括約! 菊門ちゃま!』は日本でいうところの現金機なのである。
現金機とはパチンコ初期から中期に掛けて開発されていた規則の物である。厳密に言えば現行でも世に出す事は出来るのだが、昔と比べて現金機で作るメリットは無いので日本ではもう作られないだろう。
「なぁ祐介ぇ、これメルちゃんの一万円が入らないんだけど?」
「これは現金機と呼ばれる種類のパチンコなんだよ。通路脇に両替機があったろ? このパチンコを打つなら先ずはあそこでお金を500円玉に両替してこなきゃな」
「そうなの? 何か面倒だなぁ……」
「……それなら止めるか?」
祐介の密かな希望を込めた言葉にメルは舌をペロッと出して「やーめないっ!」と両替機まで走っていく。どうやらもう打つのは決定事項なようである。
「ふぅ……マオ、俺達も両替しに行こうか。とりあえず5千円も崩して置けば大丈夫だろ」
「あ、はーい!」
マオは祐介の後をトコトコと着いてくる。
「それにしても祐介さんはパチンコにお詳しいんですね、僕びっくりしちゃいましたぁ!」
「いやー、下手の横好きというか、これ以外に趣味も無かったからかな。パチンコばかり打っていたからね」
「そうなんですねぇ、僕もよく打つんですけどまだまだ分からない事ばかりで困っちゃいますよぉ!」
「パチンコは種類も多いから覚えるのも大変だよね」
ましてやこの異世界は日本とは違い新旧揃い踏みといった状況である。恐らくこの店に居る客達も全てを理解している人は居ないであろう。勿論祐介自身も全てを理解しているとは言えないのではあるのだが。
三人はさっと両替を済ませて『腸括約! 菊門ちゃま!』の台へと座った。
「……本当に打つのか」
「そんなシケた顔すんなよぉ! さて祐介、早速だけどこの機種の要点を頼むぜ!」
「ん、あぁ。そうだな。先ず一番大事な事を言っておくけど、この台に確変図柄は無い」
「え? 3とか7とかちゃんとあるじゃん! ちょっと待って、確変が無いならなんで3とか7があるの? 意味無くない?」
「全部只の数字なんだよ、絵柄とかも一緒だ。全部一緒!」
信じられないといった表情のメルを置いといて祐介は言葉を続ける。
「ちなみに時短も無い! そして当たれば2400発! 以上だ!」
「言われてみれば電チュー部分がありませんねぇ、これは大当たりだけで増やすタイプのパチンコなんでしょうか」
「マオの言う通り、200分の1で当たるだけ、それがこの台の特徴だ」
「……おいおい祐介ぇ、だけどこの台にはスポンジがある、そうだろ?」
メルはニヤリと笑ってスポンジがある。そう、かつて日本でも『黄門ちゃま』というパチンコ台の横にスポンジが置かれていた時代があった。それを踏まえるとこのスポンジにはここに置かれるべき理由があるのだ。
「このスポンジはな──」
「おっとぉ! その答え合わせにゃまだ早いぜ? まだまだアタシ達は打ち始めたばかりだろ! でもメルちゃんは何に使うかもう分かっちゃったもんね!」
「……それじゃとりあえず打ち始めようか。当たったら出玉共有で回していこう、マオもそれでいいかい?」
「はい! 皆で頑張りましょうね!」
二人は祐介を挟むようにして台に座った。三人の前には十枚ずつの500円玉が重ねてある、三人はそこから一枚を掴むとサンドへと放り込む。するとジャラララと玉が流れる音はすれど、肝心の玉は上皿に現れない。
「玉が出てきませんねぇ……詰まってしまったのでしょうか?」
マオとメルは上皿を覗き込んだりしてみるが、何処にも玉は無い。終いにはメルが台を叩こうとしたので祐介が慌てて止めた。
「すまん、言うのを忘れていたけどこういう現金機はサンドから直接玉を受け取るんだ。こんな感じに」
祐介はサンドの中央から縦に飛び出ている筒に、両手をお椀の様に拡げて下から押し上げる。するとカラカラカラと筒からパチンコ玉が出てきた。
「こうして両手でしっかり受け止めないと溢すから気を付けてね。あ、途中で筒を下げれば玉は止まるから」
「へぇ、何だか面白いですねぇ……おっとっと」
マオの小さい手だと500円玉で借りれる125玉ですら溢れそうであった。
「よいしょ、よいしょ……ふぅ。僕の手では溢してしまいそうです」
「そうだな、マオなら箱を使うかそれともこのカップを使ってもいいかもね」
台に備えられているカップをマオは受け取ると「丁度良いサイズですぅ!」と喜んだ。これで三人の上皿には玉が流され、遂に『腸括約! 菊門ちゃま!』を打つ時が来た。
(……とにかく当てないとまたメルに何か言われそうだ)
祐介の脳裏に嫌味ったらしいメルのにやけ面が思い出された、ここが勝負処である。三人が一斉にハンドルを回して玉を打ち始めるといつものように玉が盤面内を躍りながら落ちていく。パチンコを打ち始めてからはすっかりと見馴れた光景だが、どの一玉が数時間後の自身を運命付けるかは打ってみるまでは分からない。
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