とあるモブの独り言

幸崎 亮

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16人め/ とある軍曹の独り言

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 「やめろっ! カネなら出す! 命だけは助けてくれ!」
 「あぁ?――断る。俺ぁ、戦争をするために来たんだからよぉ!」

 ファック。チープな命乞いをしやがって。
 俺は、ブザマなデク人形の首を斬り落とす。

 ――途端、真っ赤な液体が噴き出しやがってクセクセぇ。
 なんだこりゃ? 嗅いだこともねぇ臭いだが、まぁ悪くねぇな。

 剣とかいう棒切れを使ったせいで、自分の腕を少し斬っちまった。
 痛みはねぇが、俺の傷口からは白い煙みてぇなモンが出てやがる。

 「まぁいい。こいつのカネでも貰っとくか」

 俺は首なし人形の財布を引っぺがし、中を確かめる――
 おい!――カラじゃねぇかよ。ふざけやがって!

 っこいバッグもブンってみたが一緒だった。
 仕方がねぇ。物として使うしかねぇな。

 ついでに服も頂いとくかと手を伸ばした時、目の前でデク人形がいきなり光り――白い煙みてぇに、消えちまいやがった。

 「ホーリーファック!――なんだ? 今のは?」

 あの野郎は『本当の異世界だ』とか言ってたが――。


 ――ああ、そうだよ。

 俺は別の世界からここへ来た。
 〝異世界転生〟ってやつだ。

 だがよ、着いた所は崩れた遺跡ん中――
 おまけに装備はチンケな〝剣〟と〝布の服〟ときた。
 マスケットすらもェ。あぁ?――ここは原始時代か?

 持ちモンといえば、あの野郎から渡されたダセェ首飾りだけ。

 着いたら、これに名前を刻めとか言ってやがったな。
 ファック――これが俺の〝認識票ドッグタグ〟ってか?


 名前か――
 俺ら人間に、名前なんか有るかよ。

 ID:YT026-AC0F86-TYPE-W29-USNA003129-1A344E-DX
 これが生まれた時に、政府から与えられた番号だ。

 あぁ? 機械みたいってか?
 ――だったら良かったな。
 残念ながら人間だ。機械サマみてぇに偉かねぇ。


 俺たちは生まれた時から、正しい知識とやらを流し込まれる。
 すでに〝外〟は、母なる惑星をファックし続けてやがる植物の世界だ。
 奴らが出す高濃度の酸素で、人間は生身のままじゃ出歩けねぇ。
 
 そうなっちまったのは全部、人間が悪いんだとよ。
 それ以外にも、嫌ってほどに仕込まれる。
 あれは人間が悪い――これも人間が悪い――ってな。

 だがな――

 たまに俺みてぇに頭がバグった、出来の悪い奴が出ちまうんだよ。
 仕込まれた知識を受けつけねぇ奴がよ。

 情報空間には、そんなわりぃ連中の溜まり場もあってな。
 まぁ、あの世界にしては、イイとこだったぜ?


 そこで俺は、色んなモンを観た。
 A.D.時代の映画やら動画やら、そういうモンだ。

 特に戦争モノが大好きでな。当然、修正は入っちゃいるが、それでも熱い〝魂〟みたいなモンは伝わって来るんだよ。やっぱ〝軍曹〟がクールだよな!

 ドンパチ殺し合ってんのに、なんか〝生きてる〟って感じが良いんだ。
 なにせ、俺らみてぇな人間は、ただ機械の中で〝生かされてる〟だけだ。


 長くなっちまうんで省くが〝ある時〟を境に、人間の数が急激に減りはじめた。
 原因は、もちろん〝自殺〟だ。

 死にゃあ、このクソみてぇな世界から解放され――
 素晴らしい〝異世界〟へ行ける。

 そんな噂が、世界中に蔓延してたんだとよ。
 噂を信じて死ぬなんて、イカレてるよなぁ?

 要するに、俺らが生まれちまった世界が――
 噂にすらすがりたくなるような、聖なる腐りきった世界だってことさ。


 まっ、このままじゃ人間は絶滅しちまうってんで、世界統一政府は〝機械〟に人間の管理を任せやがった。そんで〝機械〟は、クソみてぇな世界を変えることよりも、人間の自殺を徹底的に阻止する手段に出たわけだ。

 死を望んだ奴の意識を探知し、異世界を模した情報の檻に収監する。
 ――要するに、テメェらの魂をファックし続ける牢獄だ。

 そこに入れられた奴は、永遠に同じ地獄を味わう羽目になる。
 そんで、そいつらの様子を〝教育〟として真面目な人間に見せる。

 『異世界転生すると、こうなるぞ』ってな。

 アンタラも見たことあんだろ?
 金色の悪魔が出て来る〝アレ〟だよ。

 まぁ、俺も異世界に興味が無かったと言えば嘘になる。
 誰だって、あんな〝現実世界〟は嫌なもんさ。
 特に、俺らみてぇに出来のわりぃ連中にはな――。


 そう、俺たちの思考が探知され――
 ついに〝溜まり場〟が見つかっちまった。
 たむろってた仲間は、みんな政府に捕まった。

 奴らに見つかったら終わり。しらばっくれても無駄さ。
 記憶を直接ファックされて、洗いざらいロードされちまう。

 だから、俺は他の仲間が襲われてる間に必死に逃げた――
 思えば、あの時が一番〝生きてる〟って感じがしたな!


 俺は情報空間を逃げ回り、違法エリアで何日も過ごした。
 当然、見つかりゃ即座にBANバン――地獄行き決定だ。

 そんな時に、あの野郎に出会ったんだ――。

 まぁ、正確には色々あって俺から会いに行ったんだけどよ。
 奴は車椅子に乗った、さんくせぇジジイだった。

 そいつは言った――

 『ここは異世界との境界。好きなだけ居るといい。それに、望むならば君を〝本当の異世界〟へ送ることも出来る』

 そこは真っ白な空間でな。
 ジジイ以外にも、何人かの人間が居た。

 本当の異世界だぁ?
 当然、頭がイカレてんだろうと思ったさ。

 でもな、ちょうど俺の前に、女が一人――
 その異世界とやらに、旅立って行きやがった。

 なぜだかわからねぇが、その瞬間〝本物だ〟って思ったね。
 こいつは、嘘は言ってぇ。

 思い立ったら行動だ。
 二度と戻れねぇらしいが、むしろ戻される方が地獄だ。
 俺はジジイに色々と質問し、異世界に行くことを決めた。

 『その異世界とやらで、戦争をおっぱじめてもイイんだよなぁ?』
 『どう行動するかは、君の自由だ。あの世界では、君は何にでもなれる』

 ジジイは俺に、例のダセェ首飾りを渡した。
 〝死んでもだけは外すな〟とよ。
 あとは〝霧が出る前に名前を刻め〟とか、他にも色々と細けぇことだ。


 俺は、白い空間を真っ直ぐに歩く。

 真っ直ぐ――真っ直ぐ――

 ――んで、気づいたらさっきの場所ってワケだ。


 「あぁ? 霧って、コレのことか?」

 あの遺跡から西に歩いて――なんかデケぇテントのある、原始人の街みてぇのが見えた辺りで、視界がうっすらと白くなった。

 ついでに、妙な〝声〟も聞こえて来やがる――。

 シィッ――! これは〝警告〟だ!
 俺は急いで剣の先っちょを握り、首飾りに〝DX〟と名前を彫った!

 その途端、声は聞こえなくなった――
 ふぅ、間に合ったみてぇだな。また手を切っちまった。


 あぁ? 名前の意味だと?
 知るかよ。俺の番号に付いてた文字をとっに刻んだだけだ。
 意味なんて知らされてねぇし、知りたくもねぇな。

 ともかく、俺は無事に異世界デビューってワケだ。
 名前も刻んだ。二度と番号で呼ばれる〝モブ〟になってたまるか。
 さっきの声は気になるが、あのファッキンワールドよりはマシだ。

 まずは何とかして、銃を手に入れる。
 そんで、俺は〝軍曹〟になってやる。
 棒切れで戦争とか、原始時代かよ!――ってな!

 幸い、銃の仕組みは記憶に残ってるんで、作っちまえばいい。
 イイねぇ、考えただけで楽しくなっちまうぜ!

 ハロー! アナザーワールド!
 これから思う存分、楽しませてもらうぜ――!
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