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6人め/ とある戦士の独り言
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ぼくは冒険がしたかった。
でも、ちょっとでも遅く帰るとママが怒るの。
この前なんて――ゆう君と一緒に近所のノラ猫を退治したら、すごく怒られた。
ママが「猫は嫌い」って言ってたから退治してあげたのに。
……良いことしたのに、怒られてばっかり。
きっと、ぼくは生まれて来る世界を間違えたんだ。
そう思ったのは、お兄ちゃんの部屋にあったマンガを見せてもらったから。
マンガの子は、ぼくみたいに何をやっても怒られたり殴られたりしててかわいそうだった。
でも、その子は『異世界』っていう別の世界に行って、たくさん冒険したり皆に褒められたりして人気者になってた。
だから、ぼくもきっと異世界って所に行けば楽しいことがいっぱい出来るって思ったんだ。
ぼくは異世界に行くことにした。
――ちゃんと手紙も残してきたよ?
『い世かいに行ってきます。ばいばい』って。
道路に飛び出しちゃダメって言われてたし、怖かったけど――
勇気を出して飛び込んだ。
お兄ちゃんに言われた通り、願いごとも言ったよ。
『異世界に行きたいです。剣で戦うかっこいい人になりたいです』って。
魔法使いと迷ったし、ほんとは両方使いたかったけど謙虚じゃないと駄目なんだって。
「なんて意味?」って訊いたら、「欲張らないこと」って。だから剣だけにした。
帰ったら、ゆう君にも教えないとだ。
いつの間にか、ぼくは戦士のオジサンになってた。
ヒゲが生えてて、筋肉ムキムキでカッコイイ。
確かに、子供のままだとママに怒られるもんね。
でも、お酒は苦くてマズイのに毎日飲まないといけないし、時々女の人の汚い所を触らされたりする。
それが嫌だったけど、オジサンになったからしょうがないのかな。
「大人は嫌なことをたくさん我慢しなきゃいけない」って、パパが言ってたし。
ぼくは外で、モンスターをやっつけるのがお仕事みたい。
青いスライムを剣で斬ったら青い汁がブシューって出て面白い。
でも、ぬるぬるしてるのが嫌だ。
女の人にもスライムが入ってるの? そうだったら嫌だな。
ゴブリンっていう小さいのを斬ったら、紫色の汁がいっぱい出て面白かった。
変な鳴き声を出すから、スライムより面白い。
ぼくは、色んな鳴き声を出すように斬り方を工夫して、たくさん斬って遊んだ。
夕方になったら町に帰って、お酒を飲まなきゃいけない。
戦いは楽しいのに、それだけが嫌だった。
今日は女の人は来ませんように。
――あと今日ね、外で金髪の男の子が走ってるのを見たんだ。
『本当のぼく』と同じくらいの子。
友達になりたかったけど――ぼくは今、オジサンだからダメかなぁ?
その子はピカピカ光る剣を持ってた。
いいなぁ。ぼくも、ああいうのが良かった。
今度来る時は『男の子がいいです』ってお願いしようかな。
次は、ゆう君も連れて来るんだ。ぼくの仲間なんだよ?
ゆう君だから勇者がいいかなぁ。
お兄ちゃんも魔法使いとかで来て欲しい。冒険したいもん。
でも、どうやって帰るんだろ?
朝起きたら夢みたいに戻るのかと思ったけど、ずっとオジサンのままだった。
モンスターをやっつけて、お酒を飲んで、嫌なことをしないといけないオジサン。
――嫌だな。
ここには道路もトラックも無いし、どうしたらいいんだろ?
お兄ちゃんに訊いてくるの忘れちゃったな。
ゆう君と遊ぶ約束もしてたのに、「約束破った」って絶交されたら嫌だな。
お母さんの料理も食べたい。
ここの料理はあんまり美味しくないし、お酒はもっと美味しくない。
――――嫌だな。
今日は行きたくない……。
でもオジサンが勝手に動くから行かなきゃいけない。
嫌だ。帰りたい。もう嫌だ……。
もう行きたくない。嫌だ。いきたくない。嫌だ……。
もう……いきたく……ないよ――。
でも、ちょっとでも遅く帰るとママが怒るの。
この前なんて――ゆう君と一緒に近所のノラ猫を退治したら、すごく怒られた。
ママが「猫は嫌い」って言ってたから退治してあげたのに。
……良いことしたのに、怒られてばっかり。
きっと、ぼくは生まれて来る世界を間違えたんだ。
そう思ったのは、お兄ちゃんの部屋にあったマンガを見せてもらったから。
マンガの子は、ぼくみたいに何をやっても怒られたり殴られたりしててかわいそうだった。
でも、その子は『異世界』っていう別の世界に行って、たくさん冒険したり皆に褒められたりして人気者になってた。
だから、ぼくもきっと異世界って所に行けば楽しいことがいっぱい出来るって思ったんだ。
ぼくは異世界に行くことにした。
――ちゃんと手紙も残してきたよ?
『い世かいに行ってきます。ばいばい』って。
道路に飛び出しちゃダメって言われてたし、怖かったけど――
勇気を出して飛び込んだ。
お兄ちゃんに言われた通り、願いごとも言ったよ。
『異世界に行きたいです。剣で戦うかっこいい人になりたいです』って。
魔法使いと迷ったし、ほんとは両方使いたかったけど謙虚じゃないと駄目なんだって。
「なんて意味?」って訊いたら、「欲張らないこと」って。だから剣だけにした。
帰ったら、ゆう君にも教えないとだ。
いつの間にか、ぼくは戦士のオジサンになってた。
ヒゲが生えてて、筋肉ムキムキでカッコイイ。
確かに、子供のままだとママに怒られるもんね。
でも、お酒は苦くてマズイのに毎日飲まないといけないし、時々女の人の汚い所を触らされたりする。
それが嫌だったけど、オジサンになったからしょうがないのかな。
「大人は嫌なことをたくさん我慢しなきゃいけない」って、パパが言ってたし。
ぼくは外で、モンスターをやっつけるのがお仕事みたい。
青いスライムを剣で斬ったら青い汁がブシューって出て面白い。
でも、ぬるぬるしてるのが嫌だ。
女の人にもスライムが入ってるの? そうだったら嫌だな。
ゴブリンっていう小さいのを斬ったら、紫色の汁がいっぱい出て面白かった。
変な鳴き声を出すから、スライムより面白い。
ぼくは、色んな鳴き声を出すように斬り方を工夫して、たくさん斬って遊んだ。
夕方になったら町に帰って、お酒を飲まなきゃいけない。
戦いは楽しいのに、それだけが嫌だった。
今日は女の人は来ませんように。
――あと今日ね、外で金髪の男の子が走ってるのを見たんだ。
『本当のぼく』と同じくらいの子。
友達になりたかったけど――ぼくは今、オジサンだからダメかなぁ?
その子はピカピカ光る剣を持ってた。
いいなぁ。ぼくも、ああいうのが良かった。
今度来る時は『男の子がいいです』ってお願いしようかな。
次は、ゆう君も連れて来るんだ。ぼくの仲間なんだよ?
ゆう君だから勇者がいいかなぁ。
お兄ちゃんも魔法使いとかで来て欲しい。冒険したいもん。
でも、どうやって帰るんだろ?
朝起きたら夢みたいに戻るのかと思ったけど、ずっとオジサンのままだった。
モンスターをやっつけて、お酒を飲んで、嫌なことをしないといけないオジサン。
――嫌だな。
ここには道路もトラックも無いし、どうしたらいいんだろ?
お兄ちゃんに訊いてくるの忘れちゃったな。
ゆう君と遊ぶ約束もしてたのに、「約束破った」って絶交されたら嫌だな。
お母さんの料理も食べたい。
ここの料理はあんまり美味しくないし、お酒はもっと美味しくない。
――――嫌だな。
今日は行きたくない……。
でもオジサンが勝手に動くから行かなきゃいけない。
嫌だ。帰りたい。もう嫌だ……。
もう行きたくない。嫌だ。いきたくない。嫌だ……。
もう……いきたく……ないよ――。
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