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5人め/ とある犬の独り言
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俺は犬だ。
少し前までは比喩だったが、今は本物の犬になった。
異世界転生なんて信じちゃいなかったが、やってみるもんだな。
社会の犬・会社の犬・犬犬犬……。
こっちは必死に生きてきたってのに、みんな好き勝手に犬だのなんだの言いやがる。
――まあ、どうせ犬扱いされるなら、いっそ犬になってやれってワケさ。
『異世界に行けるなら、犬になって犬らしく謙虚に生きたい』ってね。
犬になってみての生活だが、意外と快適だ。
鎖で繋がれちゃいるが、現実世界でも似たようなもんだったしな。
最初こそ抵抗があったが、犬のエサも案外美味い。
――何より、飼い主のネェちゃんが美人でな。
じゃれるフリをして、いつもスカートに頭を突っ込ませて貰ってる。
結構悪くない反応だし、そろそろ美味いバターにありつけるかもしれないな。
まぁ、たまにやって来る金髪の悪ガキが居てな。
そいつが俺にちょっかい掛けてくることだけがウザイっちゃウザイが。
この前なんかチョコチップ入りのクッキーを食わそうとしてきやがった。
とんでもねぇ悪ガキだ。俺が元・人間じゃなきゃ今頃天国だぜ。
チョコは好きだったんで、ちょっと味見してみても良かったかもしれないがな。
ああ、そうそう。メス犬の彼女も出来たぜ。
――と言っても、俺は繋がれたままなんで、向こうが会いに来るまでは『待て』だがな。
『何が』って?――そりゃ、人も犬もやることは一つしかねぇだろうよ。
犬になれば犬語が解るかと思ったが、駄目だった。
相手はアンアン鳴いてるだけだ。
犬になったあとも、人間連中の言葉はわかるみたいなんだがな。
「ねぇ!」
「わんわん! わんわんわん!」
また来やがった。いつもの金髪のガキだ。
ニコニコ笑いながら俺の前にしゃがみ込んでやがる。
手には食い物らしき袋を持ってるが、匂いはまだしないな。
俺がガキをじっと見つめていると、そいつは嬉しそうに袋の中身を俺の前にブチ撒けやがった!
――おい! これはタマネギチップスじゃねぇか!
なんで毎回犬が食えねぇモンばっか持って来るんだ、こいつ!
金髪のガキはニコニコしながら俺の前にチップスを差し出す!
誰が食うか! こっちは、中身が人間様なんだよッ!
「ねぇ!」
「わんわん! わんわんわん!」
だから食わねぇって言ってるだろ!
――いや、言ってもわからねぇのか。犬だもんな、俺。
そいつはチップスを俺の鼻の上に置く。
誰がおまえの為に芸なんかするかッ!――つか、食わねぇって!
ずっとニコニコしやがって!
悪魔の子かよ、こいつは!
俺が無視し続けていると、そいつは諦めて帰って行きやがった。
とりあえず町の中で剣を抜いて走るのはやめろ!
……マジに怖ぇんだよ。
俺の周りにはガキがばら撒いていったタマネギの匂いが立ちこめてやがる。
クソッ、自分で自分の鼻をつまむことも出来やしねぇ。
早く誰か、掃除してくれよ。
――そういえば俺、タマネギも好きだったんだよな。
炒めても美味いし、スープでもサラダでも美味い。
天ぷらにしたヤツが一番好きだった。
食っちゃいけねぇのに涎がダラダラ垂れてきやがる。
社員食堂の安メシが懐かしいぜ。
――俺は、まだ犬になりきれてねぇってことなのかな。
あーあ。さっきのガキ、また来んのかな。
また俺の好物だったモンを持って。
また犬が食えねぇヤツをピンポイントで選んでさ。
今思うと人間も悪くなかったよな。
――まぁ、今さらだ。
もし元の世界に戻れるって言われても、どうせすぐに犬に戻りたくなるに決まってる。
そういや、この世界で死んだらどうなんのかな?
元に戻れんのか? それとも、この世界でやり直しか?
そもそも、ちゃんと俺は死ねるのか?
よく考えたら、俺って死んだことがあるのに、死ねてねぇんだもんな。
――まさか、異世界だからって永遠に生きるってことはねぇよな……?
試しに、このタマネギチップス、食ってみるか――?
少し前までは比喩だったが、今は本物の犬になった。
異世界転生なんて信じちゃいなかったが、やってみるもんだな。
社会の犬・会社の犬・犬犬犬……。
こっちは必死に生きてきたってのに、みんな好き勝手に犬だのなんだの言いやがる。
――まあ、どうせ犬扱いされるなら、いっそ犬になってやれってワケさ。
『異世界に行けるなら、犬になって犬らしく謙虚に生きたい』ってね。
犬になってみての生活だが、意外と快適だ。
鎖で繋がれちゃいるが、現実世界でも似たようなもんだったしな。
最初こそ抵抗があったが、犬のエサも案外美味い。
――何より、飼い主のネェちゃんが美人でな。
じゃれるフリをして、いつもスカートに頭を突っ込ませて貰ってる。
結構悪くない反応だし、そろそろ美味いバターにありつけるかもしれないな。
まぁ、たまにやって来る金髪の悪ガキが居てな。
そいつが俺にちょっかい掛けてくることだけがウザイっちゃウザイが。
この前なんかチョコチップ入りのクッキーを食わそうとしてきやがった。
とんでもねぇ悪ガキだ。俺が元・人間じゃなきゃ今頃天国だぜ。
チョコは好きだったんで、ちょっと味見してみても良かったかもしれないがな。
ああ、そうそう。メス犬の彼女も出来たぜ。
――と言っても、俺は繋がれたままなんで、向こうが会いに来るまでは『待て』だがな。
『何が』って?――そりゃ、人も犬もやることは一つしかねぇだろうよ。
犬になれば犬語が解るかと思ったが、駄目だった。
相手はアンアン鳴いてるだけだ。
犬になったあとも、人間連中の言葉はわかるみたいなんだがな。
「ねぇ!」
「わんわん! わんわんわん!」
また来やがった。いつもの金髪のガキだ。
ニコニコ笑いながら俺の前にしゃがみ込んでやがる。
手には食い物らしき袋を持ってるが、匂いはまだしないな。
俺がガキをじっと見つめていると、そいつは嬉しそうに袋の中身を俺の前にブチ撒けやがった!
――おい! これはタマネギチップスじゃねぇか!
なんで毎回犬が食えねぇモンばっか持って来るんだ、こいつ!
金髪のガキはニコニコしながら俺の前にチップスを差し出す!
誰が食うか! こっちは、中身が人間様なんだよッ!
「ねぇ!」
「わんわん! わんわんわん!」
だから食わねぇって言ってるだろ!
――いや、言ってもわからねぇのか。犬だもんな、俺。
そいつはチップスを俺の鼻の上に置く。
誰がおまえの為に芸なんかするかッ!――つか、食わねぇって!
ずっとニコニコしやがって!
悪魔の子かよ、こいつは!
俺が無視し続けていると、そいつは諦めて帰って行きやがった。
とりあえず町の中で剣を抜いて走るのはやめろ!
……マジに怖ぇんだよ。
俺の周りにはガキがばら撒いていったタマネギの匂いが立ちこめてやがる。
クソッ、自分で自分の鼻をつまむことも出来やしねぇ。
早く誰か、掃除してくれよ。
――そういえば俺、タマネギも好きだったんだよな。
炒めても美味いし、スープでもサラダでも美味い。
天ぷらにしたヤツが一番好きだった。
食っちゃいけねぇのに涎がダラダラ垂れてきやがる。
社員食堂の安メシが懐かしいぜ。
――俺は、まだ犬になりきれてねぇってことなのかな。
あーあ。さっきのガキ、また来んのかな。
また俺の好物だったモンを持って。
また犬が食えねぇヤツをピンポイントで選んでさ。
今思うと人間も悪くなかったよな。
――まぁ、今さらだ。
もし元の世界に戻れるって言われても、どうせすぐに犬に戻りたくなるに決まってる。
そういや、この世界で死んだらどうなんのかな?
元に戻れんのか? それとも、この世界でやり直しか?
そもそも、ちゃんと俺は死ねるのか?
よく考えたら、俺って死んだことがあるのに、死ねてねぇんだもんな。
――まさか、異世界だからって永遠に生きるってことはねぇよな……?
試しに、このタマネギチップス、食ってみるか――?
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