ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第2章 ランベルトスの陰謀

第11話 霧の中の勇者たち

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 アルティリア北部の岩山にて――。
 手際よくキャンプの準備を進める、勇者ロイマンの仲間たち。

 「ドリャアァ! ウリェイィ!」

 背中に背負っていた大型剣を抜き、ゲルセイルは手近な岩をやすやすと斬り裂いてゆく! 彼のものは剣と呼ぶにかっこうな形状をしているが、強度と斬れ味は充分なようだ。

 「――ほいよット。テーブルとイスはこんなモンでいいカ。やっぱ、力仕事といえば俺っちだヨナ!」

 ゲルセイルは切り出した岩に足を載せ、アイエルの方をる。
 彼女は岩壁の付近で、獲物の岩ジカを狙っていた。

 「いたいた! いいなぁ、こういうの! ザ・サバイバルって感じ!」

 アイエルは嬉しそうに言い、冒険バッグから小型の弓を取り出す。
 腰に剣を差してはいるが、狩猟にはこちらが有利と判断したようだ。

 「悪いけどお肉になってね!――それっ!」

 狙いを定め、矢を放つ!――だが、放たれた矢は岩ジカの全身を覆う岩の鱗によって、あっさりと弾かれてしまった!

 「あっ、あれっ? うー、これじゃ駄目かぁ……」

 警戒心が無いのか、自らの防御に自信があるのか。
 攻撃を受けた獲物は、何事も無かったかのように草をんでいる。

 「もうっ! こうなったら本気でやっちゃうから――!」
 ――アイエルは弓に手をかざし、小さく呪文を唱える!

 「レイヴィスト――!」

 風の精霊魔法レイヴィストの魔力を帯びた弓で、再び狙いをつけ――矢を放つ!
 旋風をまとった矢は今度こそ、岩ジカの胴体に大きな風穴を開けた――!

 「どうだっ! 必殺・トルネードアロー!……なんてねっ!」
 「オイ、アイエル! 相手は魔物じゃねぇんダ、食えるまで吹き飛ばすんじゃねぇゾ!」

 「あっ、ごめーん!――っていうか、見てるんなら手伝ってよね!」
 「チッ、しゃあねぇナ! そんなに俺っちが必要なら手伝ってやるヨ!」

 「うんっ、必要必要! その馬鹿力、ねっ!」

 二人が狩りにいそしんでいる間、ラァテルとハツネは薬味に使えそうな薬草を採取していた。岩肌の目立つ高山だが、まだよくなアルティリア王都近辺であるためか、動植物の資源は豊富のようだ。

 その時――彼らを頭上を突如として、黒く巨大な影が覆った――!

 「むっ、コイツは……! 二人とも、すぐに下がれ!」

 異変を察知し、ロイマンが素早く二人の元へと駆けつける!
 彼の手には魔王の剣・魔剣ヴェルブレイズが握られている!

 「承知した」

 ボスの指示に従い、二人はロイマンの後方へ回る。
 頭上では、鱗と巨大な翼を持った大型の生物が、三人をかくするかのように大口を開けていた!

 「これは……。ワイバーンかしら?」
 「いや、飛びトカゲだ。魔物じゃねぇが、下手な連中より手強いぞ?」

 「問題ない」
 ――ラァテルは上空に手をかざし、気を放つ!

 「ハァァ……! ショウ――!」

 ラァテルのてのひらから放たれた波動にさらされ、飛びトカゲが動きを止めた!――羽ばたきを奪われた哀れな獲物は、なす術もなく落下し始める!

 「フン!――ヴェルブレイズよ!」

 主の声に応え、魔剣にあかい炎が宿る! ロイマンはほむらの剣と共にちょうやくし、落下する獲物の首に燃え盛る一撃を振り下ろした!

 「エンザン――ッ!」

 魔剣の一撃によって頭を斬り飛ばされ――
 空からの襲撃者は断末魔を上げることも無く、巨大な食料と化した!


 「ボス! 大丈夫ですかイ?」
 「うわっ!――何これ? ドラゴン!?」

 「いや、ただのトカゲだ。フッ、ぇぞ?」
 ――ロイマンは言いながら、よだれぬぐう仕草をする。

 「げっ!? これ食べちゃうの……?」

 「オゥ、スゲェそうダナ!――よしラァテル、さばくの手伝えヨ!」
 「ああ、いいだろう」

 盛り上がる男連中に対し、アイエルだけはまゆひそめている。
 そんな彼女の肩に、ハツネはそっと手を置いた。

 「大丈夫よ。こう見えて美味しいんだから。宮廷でのばんさんにも出されるくらい」
 「えっ、本当に!? じゃあ食べる食べる!――ちょっと二人とも! あたしに一番美味しいとこ頂戴よね!」

 アイエルも加わり、あいあいと獲物を解体する三人の若者たち。
 そんな彼らを見つめるハツネの元へ、ロイマンが近寄ってゆく――。

 「お前、初めて獲物アレを見たんじゃねぇのか? よく嘘が言えたモンだ」
 「ふふっ、そうよ。でも、私たちが巻き込まれた〝嘘〟に比べれば――多少は、ね?」

 「フッ、まあな」

 ロイマンは鼻を鳴らし、ニヤリと口元を上げる。
 やがて彼らの周囲に、白い霧が漂いはじめた。霧の中、勇者のパーティは仲良く炎を囲み、豪華な食事にしたつづみを打つのだった――。
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