ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第2章 ランベルトスの陰謀

第6話 冒険者のパーティ

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 無事、ジニアを港町へと送り届けたエルスたち。
 いっこうは〝霧〟に包まれた街道を引き返し、再びツリアンへと戻っていた。

 「ふぅー、帰ってきたぜ。さすがに歩き疲れちまった!」
 「そうだねぇ。もう真っ暗だし、美味しいものでも食べて休みたいな」

 すでに太陽ソルルナへと姿を変え――天上の暗黒から、柔らかな銀光を降らせている。
 ツリアンには街灯は無く、他の光源といえば、まばらな家々からわずかな明かりが漏れているのみだ。

 「ふふー! 大食いなら任せるのだ! ご主人様の分まで、ミーが喰らい尽くしてやるのだー!」
 「なんでだよッ!――っていうか、その呼び方はやめてくれェ……」

 元気よく手を挙げるミーファに対し、エルスは大きな溜息をつく。
 彼女は自身との激闘を制したエルスを「ご主人様」だと言い張り、そのままいっこうについてきてしまっていた。


 四人は昼間にも訪れた、町長親子が切り盛りする酒場へ入る。
 テーブルに着くとすぐに、給仕きゅうじ姿のロマニーが奥から現れた。

 「いらっしゃいませ!――まぁ、皆さん!? ジニアちゃんは無事に帰れたのね?」

 「おうッ! バッチリ護衛してきたぜ! でも俺たちは港町カルビヨンに入れてもらえなくてさ、一旦戻って来たんだ」
 「なんだか物々しい感じだったねぇ。何があったんだろ?」

 ジニアを見送ったあと――あの門番の男らに事情を尋ねたものの、バツが悪そうに頭をくばかりで、何も教えてもらうことはできなかった。

 「ふっふっふー! 悪の臭いがするのだ! 正義の勘が告げているのだー!」
 「あら? 新しいお仲間さん? それにしても素敵な服ね……」

 ロマニーはミーファの使用人メイド服を、羨ましげに眺める。
 黒と白を基調とした上質な生地で仕立てられ、可愛らしさと気品さが見事に両立されている。所々に施されたしゅうには、守護の魔力も込められているようだ。

 「ミーはご主人様に身も心もボロボロにされ、従順なれいとなったのだ!」
 「なッ……!? おい、違うだろッ! いや、実はさ――」

 エルスはロマニーに、街道でのいきさつを説明する。
 その間にアリサたちは、注文を取りに来た別の店員に料理をオーダーした。昼間と違って夜は客もり、店員として数名の住民らが働いているようだ。

 ミーファは迷惑を掛けたことを詫び、状況を把握したロマニーは優しく微笑む。
 そしてロマニーは丁寧にお辞儀をし、再び調理場へと戻っていった――。


 「そういや、ニセル。なんで、ランベルトスには行かなかったんだ?」
 「ああ、あそこは少々特殊でな。〝ギルド〟という組織が、街の政治もになっているのさ」

 「えっと、〝商人ギルド〟だったっけ? あとは……」
 ――アリサは口元に指を当て、考える仕草をする。

 「あッ、〝盗賊ギルド〟と〝暗殺者ギルド〟かッ!――ってコトは、まさか……」
 「ふっ。そういうことさ。あの街では、絶対に油断しないことだ。この国アルティリアとは、正義も価値観もまるで違う」

 「ふふー! 正義ならミーに任せるのだー! なんでも叩き潰すのだー!」
 「いや……。なんかヤバそうだし、おとなしくしててくれよ? なッ……?」

 勇ましく拳を振り上げるミーファをなだめるように――
 エルスは彼女の頭を優しくでる。

 「わかったのだ! ご主人様の言うことは聞くのだ!」
 「じゃあ、その『ご主人様』って呼び方を別のにさ……」


 四人が談笑をしていると、やがて注文した料理が運ばれてきた。
 名物の鶏肉ニワトリや卵を使った料理の数々がテーブルに並ぶや、彼らはそれぞれに手を伸ばす――。


 「おおー! これは美味いのだ! 正義の味がするのだー!」
 「この〝卵ソース〟をかけると美味しいよ? そういえばミーファちゃんって、どこかの家のメイドさんなの?」

 「ふっふっふー! これは正体を隠すための変装なのだ! お城のメイドたちの服を、ミーのために強化させたのだ!」

 ミーファはフォークを握ったまま、小さな胸を誇らしげに叩く――。

 「へッ? おまえ、城に住んでたのか?」
 「さすがご主人様! よく判ったのだ!」
 「いや、さっき自分で言っただろ……」

 「ほう。ということは、やはりミーファは鉱山王国ドラムダの王族ということか」
 「おー! さすがはニセル、鋭いのだ! その通り、ミーは三番目の王女なのだ!」

 そう言ってミーファは立ち上がり、優雅なお辞儀をしてみせる。
 そしてすぐさま席に着き、再び大皿のカラアゲをむさぼりはじめた。

 「王女って……。こんな所にいていいのかよ? 賞金稼ぎは冒険者の中でも、かなり危険な部類だしさ」
 「問題にゃいのでゃ。ミーは正義のちゃめ立ち上がったにょだー」

 「ミーファちゃんすごいなぁ。わたしも、立ち上がってみようかな?」
 「アリサ、おまえは真似しなくていいから――。ッつか、行儀悪ィから座ってろよ!」

 「ふっ。賑やかになったな」

 ニセルは口元を緩め、ゆっくりとグラスを傾ける。
 彼はエルスたちより一回り年長の、熟練の冒険者だ。いまだ駆け出しのエルスたちにとって、彼の持つ知識や経験は大きな武器となっている――。


 やがて賑やかなばんさんは終わり、各々は宿泊用の客室へと入る。
 ニセルとミーファは一人部屋を、エルスとアリサは二人部屋を用意してもらった。

 共に親を失い、幼い頃から一緒に育てられた二人は、いつも同じ部屋に居るのが当たり前となっている。少し広めの室内には大きな窓があり、両端の壁際には、ベッドが一台ずつ設置されていた。

 「チクショウ。ミーファのヤツ、本当に俺の分まで食いやがった……」
 「っちゃいのにすごいなぁ。今度からわたしの分、わけてあげよっか?」

 「ミーファって見た目は小せェけど、おまえより二つも年上だろうよ」

 エルスは剣や軽鎧ライトメイルを外し、衣装棚の上に乱雑に置く。
 アリサは防具を丁寧に並べ、赤いリボンを解いて髪をかす。

 「まッ、いいよ。なんとかなるからさ!」
 「そっか。でも、ちょっと前まで二人きりだったのに、急に賑やかになったねぇ」

 「だなぁ。父さんたちも六人でパーティを組んでたし、俺らも仲間と世界中を旅できるように頑張ろうぜ!」
 「うん。そうだね。それじゃ、そろそろ寝よっか」

 「おうッ! おやすみ、アリサ」
 「おやすみ、エルス」

 二人は就寝の挨拶を交わし、それぞれのベッドにもぐむ。

 カーテンの隙間からはルナが放つ、強い銀光ひかりが差し込んでいる。エルスは光から目を背けるように寝返りをうち、やがて深い眠りへと堕ちていった――。
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