54 / 105
第1章 ファスティアの冒険者
第53話 勝利への切り札
しおりを挟む
「ジェイド!」
ニセルは旧友へ向かって叫ぶ――
しかし、もう彼は、ピクリとも動かない。
やがてジェイドの右腕を取り込んだ〝降魔の杖〟は瘴気の放出を止め――漆黒の〝手〟が、軋むような音と共に巨大化を始めた!
腕に開いていた無数の目玉は一つに集まり――
掌に開いた大きな目玉へと変化する――!
「ォオ……オオオオ……」
杖が発する不気味な音に共鳴し、床の魔法陣が妖しく輝く!
そして、先ほどまでとは逆に――今度は周囲の瘴気を、吸収し始めた!
「ぐッ……次は、何が起きるッてんだよ!?」
エルスは闇に吸い寄せられそうになるのを必死に踏んばり、巨大な目玉を注視する。今は魔物の出現は止まっているようだが、状況が好転したとは考えにくい。
「ルォオオオン……」
再び発せられた、奇妙な音――。
魔法陣からは闇色をした無数の触手が生え、その一本をエルスへと伸ばす――!
「おおっと! 当たるかよッ!」
――エルスは突き出された触手を容易くかわし、剣で斬り払う!
闇色のそれは手応えもなく断ち斬られ――
分断された触手が、オークの姿へと変化した!
「んげッ!? まだ出して来ンのかよッ!?」
慌てて剣を構え直すエルス――
だが、オークの方が先に、彼に向かって棍棒を振り下ろす――!
「はあぁー! せいっ!」
魔物の攻撃が当たる直前!――通路から飛び出したアリサがオークの腕を落とし、その喉元を剣で貫いた――!
「エルスっ。大丈夫……?」
「アリサッ! おまえこそ大丈夫なのかよ……?」
「うん……、さっきよりは……」
アリサは周囲に目を遣る――。
目の前には、不気味な魔法陣から伸びた触手の群れ。突き立った降魔の杖からは、目玉の付いた巨大な手が生えている。
ニセルも無数の触手を相手に苦戦を強いられ、反対側の壁には大量の血の跡がこびりついている。
そして、その真下――。
真っ赤な血溜まりに座し、微動だにもしない――右腕の無いジェイド。
「なんだか、大変なことになっちゃってるね……」
「ああッ、絶望的さッ……!」
状況は絶望的だが、どうにか攻略法を見出さなければならない。闇の触手の合間を縫い、ニセルが目玉にクロスボウを放つ!――だが矢は呆気なく弾かれて床に落ち、次の瞬間には黒い霧となって消滅してしまった。
「ふっ。迂闊に斬りかかることも、できそうにないな」
「クソッ、それなら魔法でッ!」
――エルスは呪文を唱え、敵に向かって手をかざす!
「ミュゼル――ッ!」
水の精霊魔法・ミュゼルが発動し、エルスの頭上に数個の水泡が出現する!
水泡は一直線に〝降魔の杖〟へ降り注ぎ――着弾地点一帯を、魔法の氷で包み込んだ!
「効いたッ?……やったかッ……!?」
エルスは歓喜の声を上げる――が、間もなく目の前の氷に無数のヒビが入り、無惨にも砕け散る。杖は一瞬動きを止めたものの、すぐに戒めから解き放たれてしまった。
さらに、氷の破片に混じって飛び散った〝闇〟が、次々と魔物の姿へと変化する――!
「ルォオオ……損傷……ゥルルルゥ……排除……」
杖は無機質な音を発し、大きな目玉でエルスを捉える!
その眼が「カッ!」と見開かれたかと思うと――
エルスの身体が、大きく後方へ吹き飛ばされた――!
「……うがァッ……! な……なんだ……? こいつは……」
まるで巨大な手で全身を押さえつけられたかのように、エルスは洞窟の壁に磔にされる。攻撃の正体は掴めないが、この目玉に凝視されている間は、一切の身動きが取れなくなってしまうようだ。
「エルスっ!」
アリサは魔物の群れに応戦しながら、彼に向かって叫ぶ――!
ニセルは再度クロスボウを射るが、なしの礫だった。
やがて降魔の杖はエルスから目を離し、再び虚空を見つめる――と、同時にエルスは壁際に落下し、積まれた木箱や樽を盛大に破壊する!
「ぐあッ!……チクショウッ! これじゃジリ貧だぞ……」
下手に攻撃をすると手痛い反撃を受けてしまう――。
だが、杖が発した単語から察するに、ある程度のダメージは与えたようだ。
「魔法なら……」
エルスはガラクタの山から這い出し、なんとか立ち上がる――。
もう体はボロボロだ。魔力も充分とはいえない。
さきほど現れた魔物は二人が倒してくれたが――
ニセルはともかく、アリサは足元がふらついている。
その直後――
アリサはバランスを崩し、その場に倒れかけた!
「アリサッ!」
――エルスは間一髪、彼女を抱きとめる!
「ごめんね……。そろそろ限界かも……」
アリサの顔からは血の気が引いている。
エルスは彼女の体を、優しく抱き上げた。
もう迷っている余裕は無い。
打てる手は、ひとつだけ。
切り札は――すでに、エルスが持っている。
「へッ! 大丈夫さ、俺がなんとかしてやるッ……!」
降魔の杖は触手を伸ばし、次の行動準備に入っている。
やるならば、いましかない――!
「ニセルッ!」
エルスの声に気づき、ニセルは二人の元へと急ぐ。
ニセルはアリサの顔を覗きこみ、僅かに口元を歪める。
「これは……。かなりマズイな……」
「なぁ、ニセル。頼みてェことがあるんだ」
エルスは、覚悟を決めた――。
ニセルは旧友へ向かって叫ぶ――
しかし、もう彼は、ピクリとも動かない。
やがてジェイドの右腕を取り込んだ〝降魔の杖〟は瘴気の放出を止め――漆黒の〝手〟が、軋むような音と共に巨大化を始めた!
腕に開いていた無数の目玉は一つに集まり――
掌に開いた大きな目玉へと変化する――!
「ォオ……オオオオ……」
杖が発する不気味な音に共鳴し、床の魔法陣が妖しく輝く!
そして、先ほどまでとは逆に――今度は周囲の瘴気を、吸収し始めた!
「ぐッ……次は、何が起きるッてんだよ!?」
エルスは闇に吸い寄せられそうになるのを必死に踏んばり、巨大な目玉を注視する。今は魔物の出現は止まっているようだが、状況が好転したとは考えにくい。
「ルォオオオン……」
再び発せられた、奇妙な音――。
魔法陣からは闇色をした無数の触手が生え、その一本をエルスへと伸ばす――!
「おおっと! 当たるかよッ!」
――エルスは突き出された触手を容易くかわし、剣で斬り払う!
闇色のそれは手応えもなく断ち斬られ――
分断された触手が、オークの姿へと変化した!
「んげッ!? まだ出して来ンのかよッ!?」
慌てて剣を構え直すエルス――
だが、オークの方が先に、彼に向かって棍棒を振り下ろす――!
「はあぁー! せいっ!」
魔物の攻撃が当たる直前!――通路から飛び出したアリサがオークの腕を落とし、その喉元を剣で貫いた――!
「エルスっ。大丈夫……?」
「アリサッ! おまえこそ大丈夫なのかよ……?」
「うん……、さっきよりは……」
アリサは周囲に目を遣る――。
目の前には、不気味な魔法陣から伸びた触手の群れ。突き立った降魔の杖からは、目玉の付いた巨大な手が生えている。
ニセルも無数の触手を相手に苦戦を強いられ、反対側の壁には大量の血の跡がこびりついている。
そして、その真下――。
真っ赤な血溜まりに座し、微動だにもしない――右腕の無いジェイド。
「なんだか、大変なことになっちゃってるね……」
「ああッ、絶望的さッ……!」
状況は絶望的だが、どうにか攻略法を見出さなければならない。闇の触手の合間を縫い、ニセルが目玉にクロスボウを放つ!――だが矢は呆気なく弾かれて床に落ち、次の瞬間には黒い霧となって消滅してしまった。
「ふっ。迂闊に斬りかかることも、できそうにないな」
「クソッ、それなら魔法でッ!」
――エルスは呪文を唱え、敵に向かって手をかざす!
「ミュゼル――ッ!」
水の精霊魔法・ミュゼルが発動し、エルスの頭上に数個の水泡が出現する!
水泡は一直線に〝降魔の杖〟へ降り注ぎ――着弾地点一帯を、魔法の氷で包み込んだ!
「効いたッ?……やったかッ……!?」
エルスは歓喜の声を上げる――が、間もなく目の前の氷に無数のヒビが入り、無惨にも砕け散る。杖は一瞬動きを止めたものの、すぐに戒めから解き放たれてしまった。
さらに、氷の破片に混じって飛び散った〝闇〟が、次々と魔物の姿へと変化する――!
「ルォオオ……損傷……ゥルルルゥ……排除……」
杖は無機質な音を発し、大きな目玉でエルスを捉える!
その眼が「カッ!」と見開かれたかと思うと――
エルスの身体が、大きく後方へ吹き飛ばされた――!
「……うがァッ……! な……なんだ……? こいつは……」
まるで巨大な手で全身を押さえつけられたかのように、エルスは洞窟の壁に磔にされる。攻撃の正体は掴めないが、この目玉に凝視されている間は、一切の身動きが取れなくなってしまうようだ。
「エルスっ!」
アリサは魔物の群れに応戦しながら、彼に向かって叫ぶ――!
ニセルは再度クロスボウを射るが、なしの礫だった。
やがて降魔の杖はエルスから目を離し、再び虚空を見つめる――と、同時にエルスは壁際に落下し、積まれた木箱や樽を盛大に破壊する!
「ぐあッ!……チクショウッ! これじゃジリ貧だぞ……」
下手に攻撃をすると手痛い反撃を受けてしまう――。
だが、杖が発した単語から察するに、ある程度のダメージは与えたようだ。
「魔法なら……」
エルスはガラクタの山から這い出し、なんとか立ち上がる――。
もう体はボロボロだ。魔力も充分とはいえない。
さきほど現れた魔物は二人が倒してくれたが――
ニセルはともかく、アリサは足元がふらついている。
その直後――
アリサはバランスを崩し、その場に倒れかけた!
「アリサッ!」
――エルスは間一髪、彼女を抱きとめる!
「ごめんね……。そろそろ限界かも……」
アリサの顔からは血の気が引いている。
エルスは彼女の体を、優しく抱き上げた。
もう迷っている余裕は無い。
打てる手は、ひとつだけ。
切り札は――すでに、エルスが持っている。
「へッ! 大丈夫さ、俺がなんとかしてやるッ……!」
降魔の杖は触手を伸ばし、次の行動準備に入っている。
やるならば、いましかない――!
「ニセルッ!」
エルスの声に気づき、ニセルは二人の元へと急ぐ。
ニセルはアリサの顔を覗きこみ、僅かに口元を歪める。
「これは……。かなりマズイな……」
「なぁ、ニセル。頼みてェことがあるんだ」
エルスは、覚悟を決めた――。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる