ミストリアンクエスト

幸崎 亮

文字の大きさ
上 下
33 / 105
第1章 ファスティアの冒険者

第32話 冒険者の三人

しおりを挟む
 「わりィ、お待たせッ!」

 カダンからの追加の頼みを引き受けた、エルスとアリサ。
 二人は、少し離れた場所で新しい巻き煙草をくわえていたニセルと合流する。

 「ごめんね、ニセルさん。さっきの無駄にさせちゃった」

 アリサはニセルの口元へ視線を送る。どうやら火は点いていないようだ。
 ニセルはふところから小さなケースを取り出し、アリサに中を見せる。

 「平気さ。まだ、たくさんある。吸ってみるかい?」
 「ううん。やめとく」

 「ふっ、その方がいい」

 国や種族ごとにルールの差はあるが、基本的に冒険者として旅立った者には年齢を問わず、成人としての自由が認められている。

 かつては人間族の年齢を基準とした〝法〟が世界全体に適用されていたが、寿命や文化の大きく異なるエルフ族やドワーフ族、またはそれらの混血種族の間から不満が噴出し、次第に現在のかたちへと変更されていった。

 過去には、こうした文化や価値観を巡るあつれきが元となった戦争も多く発生した。

 そう、当然ながら人類の敵は魔物だけではない。
 時には――同じ人類同士で争い、命を奪いあうこともあるのだ。


 農園へ通じる道は大通りのように整備はされておらず、ただ草むらに地肌を露出させただけの農道が続く。荷車が通れる程度の道幅は確保されてはいるが、エルスたち以外に通る者の姿はない。

 「思ったより広いんだなぁ。こんな長閑のどかな場所がファスティアにあるとは、知らなかったぜ」

 エルスは欠伸あくびをしながら大きく伸びをし、大小様々な畑が連なる農地を見わたす。周囲は晴れきっているものの、王都方面には霧が出ているようで、景色がかすんで見える。じきに、こちらも霧に包まれるだろう。

 「わたしも昨日、依頼で来るまで知らなかったなぁ。依頼人さんに教えてもらったけど、ファスティア全体が元々は大きな農園だったんだって」
 「へぇ、そうなのか。俺らの故郷アルティリアって、わりと田舎なんだなぁ」
 「ほう、二人ともアルティリアの出身なのか」

 「おうッ! といっても、俺の家があったのは街外れだけどな! ニセルはどこから来たんだ?」
 「オレかい? ノインディアって所さ。海の向こうの、小さな国だ」

 ニセルは林の方向を指さす。あの林を抜けると街道があり、さらに進むと切り立ったがけの先に海が広がっている。

 「この〝アルディア大陸〟に定期的な用事があってね。ついでに、こっちで少し稼ごうってワケさ」

 「おおッ、なんかカッコイイな!――いいなぁ、俺らも早く世界を飛び回れるような冒険者になりたいぜ!」
 「うんっ。まずは、ちゃんとお金を稼げるようにならなきゃだね」
 「だなッ! 早いとこかねを稼いで、ファスティアから脱出だッ!」

 エルスは自らの手を見つめ、強く握り締める。ぎんが底を尽き、冒険の足止めをされている彼にとって、この街は最初の関門。いまだスタート地点のままといっていいだろう。

 「珍しいな。お前さんは、この街で名を上げたいってワケじゃないのか」

 ファスティアは〝冒険者の街〟と呼ばれるだけのこともあり、ここを拠点に活動し、なかには永住を決める者も多い。ニセルが視線を送るとエルスは立ち止まり、真剣な目で彼の顔を見つめた。

 「ああ。俺の一番の目的は、なんたって魔王を倒すことだからなッ!」

 「ほう、魔王退治か。なるほどな」
 「わッ……笑わないでくれよ?」

 「笑わんさ。お前さんの目を見ればわかる」
 「そうかッ! ニセルって良いヤツだな!」

 「ふっ。さあな、それはわからんぞ?」

 はぐらかすように言い、ニセルはゆっくりと歩を進める。
 それにつられるように、二人も再び歩き始めた。


 「だが、魔王といっても様々だ。お前さんが狙っているのは、どの魔王なんだ?」
 「メルギアスってヤツさ!――俺やアリサの父さんたちを殺した、あの魔王を絶対に倒すッ!」

 「かたきか。だが、メルギアス?――そいつは確か、ロイマンが倒したと聞いているが」
 「ああ、その時に俺はロイマンに助けられた!――でもさ、目が覚めた時に声が聞こえたんだ。『次はキサマだ!』ってさ。きっと、まだどこかで生きてるッ!」

 「ふむ、なるほどな」
 「誰も信じてくれねェけどさ、俺には確かに聞こえたんだよ。今だって、頭にこびり付いてる……」

 エルスの言葉に、ニセルは「ふっ」と息を吐く――
 「――確かに、信じがたいな」

 「だろ? やっぱり……」
 「――かといって、お前さんが嘘を言っているとも思わんよ」

 ニセルはエルスの肩を軽く叩き、優しげに言う――
 「魔王の能力は、未知の領域だ。何を仕掛けてきても不思議ではないさ」
 「うん。エルス、一緒に頑張ろうね?」

 「ああ……。ニセル、アリサ。二人ともありがとうなッ!」

 仲間からの励ましに、エルスは照れ隠しのように駆け――
 二人の方を振り向いた。


 「まずはとにかく、依頼を終わらせねェとな! 今度こそ完璧に成功させてやるぜ!」
 「ああ。霧が出る前にここを抜けよう。細道をれて、畑に突っ込んでもかなわん」
 「確か、もうちょっと進むと家があったはずだよ」

 「じゃあ――とりあえずは、その家を目指すか!――よしッ、行こうぜッ!」

 長閑のどかあぜみちに、エルスの元気な声が響く。
 この日、三人の冒険者が――最初の目標に向かって、共に歩み始めた!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...