ミストリアンクエスト

幸崎 亮

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第1章 ファスティアの冒険者

第6話 ライバルとの対決

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 エルスとロイマンの前に現れた、ラァテルと名乗る男。
 彼はエルスには一切目をくれることなく、ロイマンへ視線を向け続けている。

「おい、おまえッ! いきなり出てきて何だよッ!? 俺が先にロイマンに……」

 抗議の声を上げるエルスだが、ラァテルは微動だにしない。

「おいッ! 無視するんじゃねェ!」
「ロイマンに用がある。貴様との会話は時間の無駄だ」
「なッ!? なんだとォ――ッ!」

 まるで大切な宝物を横取りされた子供のように。
 エルスはラァテルに対し、激しい怒りをあらわにする。

 しかし、ラァテルは彼をいちべつしたのみで、すぐにロイマンへ視線を戻した。
 エルスはどうにか理性を保ちながら、ラァテルの横顔をにらみ続けている。


 そんな二人の様子を静観していたロイマンだったが、やがて「フッ」と息をらし、ゆっくりと立ちあがった。

「フッフッ、ハッハッハッハッハッ!」

 立ち上がるや、いきなり大笑いを始めたロイマンの様子に、周囲の客らは騒然となる。今や彼の一挙一動に、誰もが注目しているのだ。

「いいぞ! こいつぁ面白い! ここの連中は腰抜けばかりだと思っていたが、この俺に話しかける度胸のある奴が、二人も居るとはな!」

 言いながらロイマンは壁際へ向かい、壁掛けの内装品から二本の剣を手に取る。
 そして真っ直ぐに、二人の前へときびすを返した。


「まあいい。新しい仲間を探しているのは事実だ。少しは見所のあるお前らに、チャンスをやろう」
「チャンス?」
「ふん。なるほどな」
「――なんだよッ? どういう意味だ?」

 勇者の意図がつかめず、エルスは間の抜けた表情でラァテルの顔をのぞむ。
 しかし黒いフードにさえぎられ、彼の表情をうかがうことはできない。

「察しろ。時間の無駄だ」
「ぐッ……! ラァテル! イチイチ腹立つ野郎だなッ!」
「――そこまでだ」

 じゃう二人の目の前で、ロイマンは腕を振り下ろす。
 すると大きな炸裂音と共に、二本の剣が木製の床へと突き立った!


「エルスにラァテルと言ったな?――その剣そいつで勝負しろ。たたかいぶり次第で、勝った方を仲間にしてやる」
「おッ! なんだ、そういうことか!――よしッ、勝負だラァテル!」

 興味がないと言わんばかりに目をじるラァテルに対し、エルスは剣を引き抜いてものの感触を確かめる。

 剣の造りはしっかりしており、先端は鋭利であるが刃自体は止められている。
 完全に調度品として造られた、模造刀レプリカのようだ。


「どうせ貴様では勝てん。やるだけ時間の無駄だ」
「おい、青二才。一つ教えてやる。俺の仲間になるってことは、俺の指示に従うって意味だ。解るか?」
「……良いだろう。承知した」

 ラァテルも剣を引き抜いたのを確認し、ロイマンは背後のだいたいを指さす。

「ここでれ。刺突と魔法は禁止。剣を落とした方が負けだ。いいな?」
「なんだよ、なんか細けぇルールが多いな」
「ルールの無い闘いは、ただの殺し合いだ。理解したか? 行け」
「ヘッ! わかったよ! 望むところだ――ッ!」


 大舞台でたいする二人の緊張感をよそに、酒場の空気は次第に熱を帯びてゆく。

 気合い充分に剣を構えるエルスに対し、ただ剣をぶら下げて突っ立っているだけのラァテル。だが、フードの奥から覗く真紅の眼光は殺気を帯び――それは今や、エルスのみを鋭くとらえている。

「よし、始めろ!」

 ロイマンの掛け声により、周囲からは大きな歓声が巻き起こった――!



「速攻で決めてやる! いくぜ!」
「さっさと来い。時間の無駄だ」
「――無駄無駄うるせェ野郎だ! 戦闘ォ――開始ッ!」

 エルスは床を蹴り、一気に相手との間合いを詰める!
 対するラァテルは――いまだ、微動だにしない。


「でやぁぁぁぁッ!」

 エルスの剣がラァテルを捉え、振り下ろされる!
 しかし、捉えたはずの一撃は紙一重でかわされ、むなしく空を斬った!

 だが、避けられることはエルスも想定していたのか、間髪入れずにそのままよこぎに斬り払う――!

「ふん……」

 それもお見通しとばかりに。ラァテルは上体をらし、斬撃を難なくかわす。
 そして、体勢を戻しつつ放たれた蹴りの一撃が、エルスの脇腹に炸裂した――!


「……うおぉッ!」

 不意に繰り出された攻撃に、大きく吹き飛ばされるエルス。
 幸い、防具で直接的な打撃は受け流せたことで、受けたダメージ自体は少ない。


 周囲の観客からは歓声が上がり、ジャラジャラとチップをやり取りする音が鳴り響く。二人の勝負が、早くも賭けの対象になっているようだ。


「チッ……。クソッ! そういう戦い方かよッ!」

 エルスは立ち上がり、素早く剣を構え直す。
 まだ剣を落としてはいない。闘いは続いている。


「無駄な動きが多いな。無駄口も多い」
「おまえはイチイチ無駄無駄うるせェ―ッての! おい、今度はそっちから来いよ!」

 回避からのカウンター戦法を取るラァテルに、攻め込むのは不利と判断したエルス。彼はあおるように、手招きをしてみせる。


 そんなエルスの挑発を「ふん」と鼻でわらい、静かにラァテルが動く。

 一歩、二歩。まだ距離はある。

 ――だが次の瞬間!
 エルスの目の前に、とつじょラァテルが出現した!

「な――ッ!?」

 エルスは思わず驚きの声をげる!
 ラァテルの動きに観客らもどよめく!

 すかさず繰り出されたラァテルの斬撃を、エルスはかろうじて剣で弾く。
 大きな金属音と共に、エルスの腕にしびれるほどの衝撃が伝わった。

 調度品インテリア用の剣とはいえ、硬い金属板であることに変わりはない。
 それに速度もさることながら、ラァテルの一撃は見た目以上に鋭く、そして重かった。


「なんだよ今のは……、全ッ然見えねェ……ッ!」

 エルスも負けじと剣を振るうが、ラァテルの体術により軽々と避けられてしまう。
 間合いを調整しようとするも、息つく間もなく繰り出される強烈な蹴りがそれを許さない!

「……うぐッ!」

 エルスはどうにか、ラァテルの足による一撃を剣の腹で受け止める。
 しかし、身体全体に伝わった衝撃により、大きく体勢を崩されてしまった!


「おお――ッと! まだまだァッ!」

 エルスは重心を低くし、とにかく倒れまいと踏み留まる!
 そこへ――さらに身体のひねりを加えて放たれたラァテルの剣が、正確に彼の腕を捉えた!

「しまッ……!? ぐあァ――ッ!」

 エルスの右腕に強い衝撃と鋭い痛みが走る。
 ――そして、乾いた金属音が辺りに鳴り響いた!

 ついに、エルスは剣を落としてしまったのだ。


 ラァテルのれいな連撃に、観客たちは思わず息を呑み、酒場内はせいじゃくに包まれる。


「――よし! そこまでだ!」

 ロイマンの一声で、一瞬の静寂は大きな歓声へと変化した――!
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