ミストリアンエイジ

幸崎 亮

文字の大きさ
上 下
27 / 69
Cルート:金髪の少年の末路

第27話 ノーゲーム

しおりを挟む
 自由都市ランベルトスを目指し、街道を西へ。

 すでに日は暮れかけてはいたが、いざとなれば飛翔魔法フレイトを使ってしまおう。ただ、さきほどのガルマニア兵の態度から察するに、不用意に目立つ行動はつつしんだ方が良いかもしれない。

 あれほどの剣幕で迫ってくるということは、残念ながらアルティリアとガルマニアの関係は、良好とはいえない状態なのだろう。

 あのリーランドさんが〝皇帝〟となっていることにも驚いたが、それで二国間の情勢が悪化するという部分には、どうにも合点がいかない。僕の知る限り、リーランドさんは〝人徳〟を絵に描いたような、そんな立派な人だった。

 降り立つ平行世界が変われば、こうまで変化してしまうものなのか。しかし、この変化さえ上手く扱えば、滅びの状況をくつがえすことが可能かもしれない。


「あっ、街だ。やっぱり懐かしいな」

 黙々と歩みを進めていると、いつしか目の前には砂レンガの建物が建ち並んだ、ランベルトスの街並みが姿を現していた。少し汗ばむほどの熱気と、どうにも好きにはなれない〝死んだ土〟の放つにおい。

 僕は〝LANBETAS〟と刻まれた巨大な木製ゲートをくぐり、まずは一直線に、宿を目指すことにする。

 ◇ ◇ ◇

 ランベルトスに泊まるのは初めてだったものの、特に苦もなく部屋を確保することができた。しかし商業を主体にした街であるためか、アルティリアよりも割高な値段となっていた。

「お金の〝引き継ぎ〟がなかったら、ここには泊まれなかったな」

 僕は用意された部屋に入り、服に付いたすなぼこりはらい落とす。引き継ぎといえばミルポルから貰った大型剣は、ここへ持ち越すことができなかった。あの時、僕のからだは爆散し、手から離れてしまったためだろう。

「そういえば、あの場所に来ていた人は……」

 前回の〝エンディング〟の時。ヴァルナスさんのはかすがりつき、血と涙を流していた女性が居たことを思い出す。彼女は確かに、自身のことを〝レクシィ〟と呼んでいた。なにより、彼女の言葉や鬼気迫る勢いは、今でも僕の記憶に焼きついている。

「ルゥラン……。エルフの大長老。――そう、ヴァルナスさんが言ってたっけ」

 エルフ族といえば基本的に、神にも等しい知識と寿命を誇るとされる種族だ。事実、脳内に展開した取扱説明書マニュアルにも、そのように記載されている。大長老ルゥランやそうめいなエルフたちならば、なにか知恵を貸してくれるかもしれない。

 そうだ、知識だ。たとえ道具アイテムの引き継ぎができなくても、僕は覚えた呪文や戦いの経験を、戦争というだいたいでも生かすことができた。おそらくは知識こそがこの世界ミストリアスを救うための、最大の〝鍵〟になるだろう。


 しかしエルフたちの住まう本拠地〝しんじゅさと・エンブロシア〟には、どのように向かえばいいのだろう。南の〝砂漠エルフ〟たちにたずねるのは、さすがに自殺行為に等しい。なにせ、あの族長ファランギスは『千年の恨み』とまでごうしていたのだ。

「わからないな。教えてくれそうな知り合いを頼ろうにも……」

 僕の知り合いといえば、エレナにゼニスさん、そしてアレフやリーランドさんか。前回の戦友たちにも会えると良いのだけど、ガルマニアがな以上、そちらへの望みは薄そうだ。

 まずはアルティリアへ向かい、教会のしん使さんを頼ってみようか。それから〝はじまりの遺跡〟に向かい、アレフに話を訊いてみよう。

「――そうしよう。少し遠出すれば、エレナの顔も見られるし」

 彼女に直接会えば、きっと気持ちが抑えられなくなってしまう。今回こそは、遠くからながめるだけにしておこう……。

 なんとなく今後の方針も決まったことで、僕は強烈な眠気に襲われてしまう。そしてそのままベッドに横になり、明日に備えるべく眠りに入った。


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、ミストリアスへの侵入ダイブ・二日目。

 たいようよりも早く目覚めた僕は、宿で軽い朝食をとり、予定どおりアルティリアの街を目指すことに。

 どうにも、この街の〝土の匂い〟は苦手だ。鼻から脳へ匂いが伝達されるたび、僕は現実むこうのことを思い出してしまう。


 宿から街道への道すがら、街の様子へ目をると、早くもテントや屋台などの簡易商店が品物を並べ、商売に精を出していた。

 お金もあることだし、剣でも新調しようかとも思ったが――。

 次への〝引き継ぎ〟も考慮して、無駄遣いはしないに越したことはない。第一、ここの屋台は〝カネに目ざとい〟というか、どうにも怪しげな雰囲気が漂っているのだ。


 自由都市。もとい、商業都市ということか。
 いわゆる資本主義によって成り立っている街だ。

 資本主義か共産主義か。あるいは民主主義か社会主義か。

 僕らの現実世界において、最終的に何方どちらの思想が勝利を収めたのか、それは歴史には記録されていない。ただ一つ確実なのは、それらの往き着いた先は、単一化された管理社会。全体主義の世界だったということだ。

 世界統一政府。人類の世界を終わらせた張本人たち。
 しかし彼らの台頭は、まぎれもなく人類の望みの結果だったのだ。

 もはや責める相手など居やしない。
 おそらくは、はじめから〝良い〟も〝悪い〟も無かったのだろう。


「……はやく、アルティリアへ向かおう」

 僕は土煙を吸い込まないようにためいきをつき、そそくさとランベルトスの街を離れる。北へ向かう街道沿いには〝ランベルベリー〟の耕作地があることで、いくぶんさわやかな風が流れている。

 ◇ ◇ ◇

 早朝とはいえ、すでに街道には商人や荷馬車の往来ができている。僕は周囲にひとがない場所まで移動し、アレフがやっていたように両の手で印を刻む。

「えっと、呪文は……。エフエルアイ――」

 発動のイメージを頭に浮かべ、ゆっくりと正確に呪文を唱える。直後、僕のからだから〝なにか〟が急激に失われてゆくような感覚が、軽い疲労感をともなっておそってくる。

「フレイト――ッ!」

 風の魔法・フレイトが発動し、僕の周囲に風圧の膜が形成される。
 その〝風の結界〟を身にまとい、僕は上空高くまで飛びあがった!


「わわっ! これじゃ高すぎる……!」

 落ち着いて制御しなければ、このままついらくしてしまう。どうにか体勢を整えながら、僕はどうにか高度を下げる。そしてゆっくりと確実に、アルティリアを目指して飛行しはじめた。

 正直なところ、こんなどんそくで向かうのならば、馬車を利用した方が賢明だったか。しかし何事も経験だ。いざという時にならないためにも、訓練を積んでおく必要がある。

 飛行中、ふと〝エレナの農園〟が気になったけれど……。

 余計なことを考えていては、術を暴走させてしまう。
 僕は全神経を集中させ、アルティリアの街を真っ直ぐに目指した――。

 ◇ ◇ ◇

 初めての飛翔魔法フレイトは成功し、どうにか目的地に到着できた。僕は城門の外側の、ひとのない広場に降り立ち、まずはゆっくりと深呼吸する。

「ふぅ……。すごく疲れた」

 慌てずとも、まだ今回は二十九日も残っている。とはいえ、僕は昨日の侵入ダイブを逃してしまったのだ。いつ〝世界の終了〟が決定されるのかがわからない以上、なるべくじんそくな行動を心がけたい。

「これじゃ早くもダウンしてしまいそうだ。少し落ち着こう」

 とてものどかわいてしまった。情報収集も兼ね、酒場で飲み物を注文しよう。僕はヨロヨロと歩を進め、酒場のじゅうこうな扉を開いた。

 ◇ ◇ ◇

 まだ朝だというのに、酒場の中は大勢の客で賑わっていた。心なしか、剣や槍などで武装した、傭兵や戦士らしき男たちの姿が目立つ。

 まずは飲み物を。ふと店主マスターそばへ目をると、やはり地下への階段が出現している。今回も〝あの地下酒場〟にて、誰かと知り合えるだろうか。

 真っ直ぐにカウンターを目指して進んでいると――。
 不意に左側のテーブル席から、気になる会話が流れてきた。

「聞いたか? 向こうのちいせえ農園がよ、魔物どもに襲われちまったらしいぜ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

真世界へと駆け抜ける風

幸崎 亮
ファンタジー
突如として〝終了〟を宣告された異世界・ミストリアス。 これはそんな終わりゆく世界の、最後の戦いの記憶。 <全5話・1万字(ルビ符号除く)> 【登場人物紹介】 アクセル・マークスター: 相棒グリードと共に盗賊稼業を行なっていた男。 最低限の礼儀は弁えており、風の魔法を得意とする。 グリード: 口が悪く、風の魔法に並々ならぬ執着を持つお調子者。 相棒アクセルと共に、変な名前の盗賊団を率いていた。 レクシィ: 魔王ヴァルナスを討つべく、討伐隊に加わった美しいエルフ族の女性。 ヴァルナスとは恋人関係にあったようだ。 ヴァルナス: 魔王として知られる男。恐るべき魔王軍を率いている。 世界消滅の危機に際してもなお他国を制圧すべく、各地へ侵攻を開始した。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...