ミストリアンエイジ

幸崎 亮

文字の大きさ
上 下
23 / 69
Mルート:金髪の少年の戦い

第23話 突き立てられし墓

しおりを挟む
 戦友・ヴァルナスをうしなってしまった。
 残された僕らは武器を構え、砂漠エルフの大族長・ファランギスとたいする。

「クハハァ! わしを倒すだと? 面白い。それでは、まとめてかかってくるがよい」

 ファランギスはこちらを挑発するように、右手で〝来い〟のジェスチャをする。
 彼の左手は相も変わらず、黄金こがねいろの球体にかざされたままだ。

「どうした? 口先だけか? どもめ」

 未知の技を操るファランギスに僕らが攻めあぐねていると、彼は僕らをべつするように、再び挑発の言葉を発する。すると一向にどうだにしないファランギスを見て、カイゼルが静かに口を開いた。


「ふっ、なるほどな。貴公の目的は我々の隔離。そして、このすなあらしを維持するためには、そのじゅつコアぼうだい魔力素マナを送り続けなければならない」

「ああ。加えて先ほどのこうじゅつとやらも、さほどの射程リーチは無いとみえる」

「そぅいやテメェ、ちぃとずつ顔色が悪くなってねぇかぁ? まさかこのままながめてりゃ、勝手にブッ倒れたりしてな!」

 カイゼルに続き、リーランドとドレッドも冷静に状況を分析する。さらにドレッドは大笑いしながら、自身の尻をおおに叩きはじめた。

 そんな彼の態度を見て、ファランギスはいまいましげにまゆを寄せる。

「おのれ、王族ともあろう者が……。ていぞくなアルミスタめ」

「はっはー! 俺の気品に気づいちまったかぁ? ほぉれ、握手してしんぜよう!」

 ドレッドはからかうように言い、太く短い腕を振ってみせる。
 どうやら彼の金髪は、ドワーフの王族特有のものであるらしい。

 ファランギスは苦虫を噛み潰したような表情のまま、じっと左手をかざし続けている。そんな彼の額からは、いつしか汗が流れはじめていた。

 相手は僕らが仲間を喪い、ぼうになることを期待したようだが。意外にもみんなは冷静だった。

 ヴァルナスが命と引き換えにのこしてくれた情報を生かし、なんとしても勝利する。それが共に戦った戦友に対しての、最大のとむらいとなるだろう。

 ◇ ◇ ◇

 この不思議なにらみ合いはしばらく続き――。
 ついにしびれを切らしたのか、ファランギスが大きく動いた。

「……よかろう。そうまで望むのであれば、直接相手をしてやろう」

「おっ? いよいよかぁ? 退屈すぎて、酒盛りでも始めるとこだったぜ!」

「ふざけおって。我が千年の恨みをって、貴様らを粉砕してくれる!」

 ファランギスはじゅつコアから手を離し、ゆっくりとの背後にまわる。そして自らの両腕を大きく広げ、解読不能な呪文を唱えた。

「今こそじょうじゅの時、いたり! を我らの新たなる楽園に! そして貴様らの、死のオアシスに変えてやろう!」

 ――その瞬間。

 大地が大きく振動し、ファランギスの肉体が激しい光を放つ。危険を察し、退避を指示するリーランドに従い、僕らはいちもくさんに後方へ走る。

 背後からはバキバキという、とても聞き慣れた音が響いてくる。
 そう。これは植物の根が成長し、人間ぼくらを捕食する際の音だ――。

 ◇ ◇ ◇

「うげぇっ……!? なんだぁ!? この馬鹿でけぇたいぼくは!」

 ドレッドの声に振り返ると、僕の想像通りのた。大人が十数人で囲わんとするほどの、そびえ立った巨大な樹木。

 さらには現実世界のものと同様に、生きた枝葉を腕のように大きくらしている。

コアを取り込み、じょうじゅしたのか? 自ら命を捨てるとは」

 周囲にはぜんとして、激しい砂嵐が吹き荒れている。ファランギスは自身の肉体を〝樹木の壁〟とすることで、あのじゅつコアを維持し続けているようだ。

 するととつじょ、地中から伸び出た根が、リーランドへとおそかってきた。彼は鋭利な根による刺突を軽々とかわすも、今度は別の根から放たれた波動によって、大きく砂地に叩きつけられてしまった。

「く……! これは気功術か!?」

 リーランドは起き上がり、即座に両手で剣を構える。気づけば周囲の砂地からはおびただしい数の根が生え伸び、周囲の獲物を探している。


「クハハァ! どうした? わしを倒すのではなかったのか? それとも、死するまで踊り続けてみるか!?」

 砂嵐の空間内に、ファランギスの勝ち誇ったような笑い声が響く。
 どうやら樹木と化した後も、意識を保っているらしい。

もっとも――貴様らがどうこうと、いくさじきに決するであろう! むろん、我らの勝利でな!」

 その高らかな宣言と共に、砂嵐の一部に窓のようなすきが開く。そこからは大量の魔物と〝根〟にほんろうされる、友軍らの姿がかいえた。

「ここのごみどもをちくし、手始めにアルティリアまであしを伸ばすとしよう! そして住民どもの魔力素マナを喰らい尽くし、我らの楽園オアシスとしてくれる!」

「ちぃ! きょうしやがって! このっ! どぉーん!」

「あのじゅつコアさえ破壊できれば。――ぬぅん!」

 地面からは太い根が、頭上からは鋭利な枝の矢が、絶え間なく僕らに襲い掛かってくる。ドレッドとカイゼルは魔法を宿した武器で、それらを次々とはらう。

 僕もミルポルの剣に炎の魔法剣レイフォルスを掛け、リーランドと共に〝根〟に応戦する。どうにか攻撃を押し留めていると、再びファランギスの声が響いた。


コアを破壊できるものならば、破壊してみよ! 自らの命と引き換えになぁ!」

「なんだとぉ?」

「すでにコアは、我が生命と同化した! あれを破壊せし者には、我が千年に渡る恨みが、正義の刃と化して襲い掛かるであろう!」

 絶望的な状況に、リーランドらの表情にも悔しさがにじむ。このまま力尽きるまで戦い続けるか、誰かを犠牲に状況をするか。

 ――ならば、選択肢は一つしかない。

「では、僕が破壊します。リーランドさん、援護を頼みます」

「なに? 犠牲になるならば、隊長である私が」

「僕は旅人です。死んだとしても、元の世界に戻されるだけです。それに……」

 僕の脳裏に、アルティリアの農園とエレナの姿が浮かぶ。今回の世界ループでは絆を結ぶことはできなかったが、彼女が大切な存在であることに変わりはない。

「アルティリアには、守りたい人が居るんです。ここを脱出し、本隊と王子のもとへ。――この戦争に勝利を。よろしくお願いします」

「わかった……。戦友のため、我が剣と誇りに誓って約束しよう」

 リーランドは僕に敬礼し、カイゼルとドレッドに援護を指示する。二人は一瞬の戸惑いをみせたものの、僕の決意を感じるや、力強くうなずいてみせた。

 ◇ ◇ ◇

「よぉし! この俺の斧で、でけぇ大穴をこじ開けてやる! カイゼル! うざってぇえだどもの迎撃を頼んだぜ!」

「任せておけ。――アインス、おそらくコアの位置は変わっていない。このまま真っ直ぐに突き進め!」

「わかりました!」

 カイゼルが飛来する枝の矢を斬り払い、リーランドが根に炎の雨を降らせ、ドレッドの斧が巨大なみきを着実に削り取ってゆく。

 勝利への作戦が決定したことで、僕らは〝突撃部隊〟としての勢いを、完全に取り戻すことができたのだ。


「はっはー! こいつぁ、ドラムダ式でも持ってくるべきだったかぁ?――とぉりゃ! どぉーん!」

 大人ひとり分ほどの穴を穿けながら、僕とドレッドは脈動する大木の中を突き進む。すると前方のもくへきに、見覚えのある光が透けはじめた。

「あれはコア? そろそろですね。ドレッドさん、ここからは僕ひとりで」

「おぅ、大丈夫なのかぁ?」

「はい。こう見えて、植物の相手は慣れてますから」

「おし! 頼んだぜ、戦友」

 僕と最後のハイタッチを交わし、ドレッドは速やかに木道から脱出する。彼の背中を見送った僕は、炎を帯びた剣を構え、何度も木壁へ振り下ろした。


「貴様ァ! やめろ……っ! 命が惜しくはないのか!?」

「惜しいですけど。やらなきゃいけないから、やるだけです」

「おのれぇ……! 我が積年の恨みが、こんなことで……!」

 響くえんの声を無視し、僕は無心でたいぼくの内部を掘り進める。こうして植物を相手にしていると、嫌でも現実むこうのことを思い出してしまう。

 地表での生存競争に敗北し、地中へ追いやられた人間ぼくらにとって、すでに植物との戦いは無意味に等しい。それでもとして生き続けたければ、こうして戦い続けるしかない。

 生きたい。そして何より、大切な人に生きてほしい。
 それが僕の見つけた、戦いの意味だ。

 ◇ ◇ ◇

 やがて前方の壁面が砕け散り、こうこうと輝くじゅつコアが姿をみせた。僕はミルポルの大型剣を逆手に構え、両手でしっかりと狙いを定める。

 周囲には割れんばかりのどうこくが響いているが、僕の心はまされたかのように穏やかだ。たとえからだは消し飛ぼうとも、ここに突き立てられた剣だけが、僕の〝生きた証〟となる。

「これで、ゲームオーバー! さよなら――!」

 ぜんしんぜんれいを両手にめて、僕は剣を振り下ろす。

 その瞬間、凄まじい衝撃と共に視界が真っ赤に染まり――僕の意識はまでも広大な、白の世界へとちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

怖がりの少年

火吹き石
ファンタジー
・ある村の少年組の、ささやかな日常の話

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

真世界へと駆け抜ける風

幸崎 亮
ファンタジー
突如として〝終了〟を宣告された異世界・ミストリアス。 これはそんな終わりゆく世界の、最後の戦いの記憶。 <全5話・1万字(ルビ符号除く)> 【登場人物紹介】 アクセル・マークスター: 相棒グリードと共に盗賊稼業を行なっていた男。 最低限の礼儀は弁えており、風の魔法を得意とする。 グリード: 口が悪く、風の魔法に並々ならぬ執着を持つお調子者。 相棒アクセルと共に、変な名前の盗賊団を率いていた。 レクシィ: 魔王ヴァルナスを討つべく、討伐隊に加わった美しいエルフ族の女性。 ヴァルナスとは恋人関係にあったようだ。 ヴァルナス: 魔王として知られる男。恐るべき魔王軍を率いている。 世界消滅の危機に際してもなお他国を制圧すべく、各地へ侵攻を開始した。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...