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A Midsummer Night's Dream
守るより破ったほうがいいものもある
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咄嗟に、何も言えなかった。
そう言われてしまえば、普段は別に愛想笑いなぞもしないし愚痴しか吐かない客だったんだな、と苦笑いしかできない。はっきりと嫌な客だな、俺。
ふと、言葉が突いて出た。
「いつもありがとうございます」。
施術後に当然礼は言う。サービスを受けた以上、対価と礼は礼儀だとわかる程度には歳を取っている。ただこの時、何故か感謝の言葉ってやつが口から漏れた。
俺は仕事上、必要であると判断すれば、頭下げることもお世辞をいうことも、相手を持ち上げることも、感謝を口にすることも嘘をつくことも平気でやる。それが交渉であれば尚更。
ただプライベートでは世辞も社交辞令も嘘をつくことも矜持を曲げることも全部、大嫌いだ。
そうだ。俺は俺の中だけで完結している。
にも関わらず、俺はこれから俺らしくないことをしようとしている。苦しい。
自覚している。単なる苦し紛れだと。それでも、思っていた以上に、俺が考えるよりもずっと、いつもと違ったらしい。
だからこそ、なのか「ついていけば、何を貰えますか?」という問いかけを思い出したのは。
そして、神の子ですら「世が改まって、人の子がその栄光の座につく時には、わたしに従ってきたあなたがたもまた、十二の位に座してイスラエルの十二の部族をさばくであろう」と、相手の虚栄心を満たす言葉で返していることを思い出したのは。
なんだ、結局、人は人であることをやめられないのではないか。
どれだけ「偉くても」。
これから俺は「空っぽ」な心を満たしに行くのか、それとも俺自身が神様とやらに導かれて変わるのか。
何かしらの期待と後悔と答えなきまま、気持ちはまぜこぜのまま、雨の中を進んでいく。
そう言われてしまえば、普段は別に愛想笑いなぞもしないし愚痴しか吐かない客だったんだな、と苦笑いしかできない。はっきりと嫌な客だな、俺。
ふと、言葉が突いて出た。
「いつもありがとうございます」。
施術後に当然礼は言う。サービスを受けた以上、対価と礼は礼儀だとわかる程度には歳を取っている。ただこの時、何故か感謝の言葉ってやつが口から漏れた。
俺は仕事上、必要であると判断すれば、頭下げることもお世辞をいうことも、相手を持ち上げることも、感謝を口にすることも嘘をつくことも平気でやる。それが交渉であれば尚更。
ただプライベートでは世辞も社交辞令も嘘をつくことも矜持を曲げることも全部、大嫌いだ。
そうだ。俺は俺の中だけで完結している。
にも関わらず、俺はこれから俺らしくないことをしようとしている。苦しい。
自覚している。単なる苦し紛れだと。それでも、思っていた以上に、俺が考えるよりもずっと、いつもと違ったらしい。
だからこそ、なのか「ついていけば、何を貰えますか?」という問いかけを思い出したのは。
そして、神の子ですら「世が改まって、人の子がその栄光の座につく時には、わたしに従ってきたあなたがたもまた、十二の位に座してイスラエルの十二の部族をさばくであろう」と、相手の虚栄心を満たす言葉で返していることを思い出したのは。
なんだ、結局、人は人であることをやめられないのではないか。
どれだけ「偉くても」。
これから俺は「空っぽ」な心を満たしに行くのか、それとも俺自身が神様とやらに導かれて変わるのか。
何かしらの期待と後悔と答えなきまま、気持ちはまぜこぜのまま、雨の中を進んでいく。
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