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A Midsummer Night's Dream
タイモンの憂鬱
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The life of Tymon of Athensのように。
あの欠落した戯曲のように。
そして、Tymonの墓銘碑のように。
人は与えられるものを、さも当然のように受け取るが、誰かに与えることは渋るように。
何故か、俺のこの手にはチケットが一枚。
チケットを見る度に、吐き気がする。
くだらない。何故、今、誰かの手に操られるように自分が突き動かされているのかと。
俺は世界を呪っている。欠落したまま、動かない。狂気に蝕まれるのさえ拒否している。
気に入らない。限りなく、気に入らない。
俺はもう、本当は何もしたくないのに。ただ、眠っていたいだけなのに。どうして、それすら許されないのか。
該当する公演日は明後日。
もし、本気で有休を取るなら明日には申請が必要だった。
手続きは、仕事は、常に、優先、されるべきなのに。
しかし、肝心の行く決心が付かない。
戸惑う。
売り払うか、行かないという選択肢も当然あった。迷っている。俺が?、そう迷っている。決められないと、幼子のように迷っていた。
相変わらず、眠れない夜。
夢と現実の狭間だろうか。母が電話予約開始時間を待っていた思い出を、俺はぼんやり見ていた。
母が欲しかったチケット相手ではなかったと思うが。叔母に頼まれたのかな?
まあ、その当時、チケットは電話予約で繋がるかどうかなんて運でしかなかった頃の話。
誰かのチケットなんて、プラチナチケットどころではなかった頃。
夢と現実の境目。もし、あの頃に戻れたら、母は、今の俺を見て何を思うのだろうか。
その日の夜の眠れない夢は、疫病が流行る前年の大雪の日に亡くなったというか、自殺した母のことだった。
随分久しぶりに思い出した。死ぬ時を自分で選んだ。あまりにままならない人生で、たった一つ、絶対に譲れなかったのだろう。
何よりの「自由」を手にした人だ。羨ましい限りだ。まあ、俺なら晴れた日に死にたいが。
ああ、クソッタレな毎日に、噛み砕けない、飲み干せない、行き場のない感情に、振り回され続けるよりは気分転換も悪くない。行きたくなければ会場に行かなければいいんだ。
俺は自分でもわからないままに、何故か木曜日の午後の有休を申請した。
言い訳を重ねただけだと知りながら。
自分が納得できる理由をなんとか探してる自覚はあった。口悔しいが、多分行くんだろう、という直感がした。それが、何より嫌だった。
あの夢も、占い師も運命論者も要らない職業だとしか思えない俺を、ただ、納得させたいだけだったのかもしれない。
苦い。苦しい。されど。
それでも、何故か、巡り巡って手元に来たこのチケットを手放すことができなかった。
あの欠落した戯曲のように。
そして、Tymonの墓銘碑のように。
人は与えられるものを、さも当然のように受け取るが、誰かに与えることは渋るように。
何故か、俺のこの手にはチケットが一枚。
チケットを見る度に、吐き気がする。
くだらない。何故、今、誰かの手に操られるように自分が突き動かされているのかと。
俺は世界を呪っている。欠落したまま、動かない。狂気に蝕まれるのさえ拒否している。
気に入らない。限りなく、気に入らない。
俺はもう、本当は何もしたくないのに。ただ、眠っていたいだけなのに。どうして、それすら許されないのか。
該当する公演日は明後日。
もし、本気で有休を取るなら明日には申請が必要だった。
手続きは、仕事は、常に、優先、されるべきなのに。
しかし、肝心の行く決心が付かない。
戸惑う。
売り払うか、行かないという選択肢も当然あった。迷っている。俺が?、そう迷っている。決められないと、幼子のように迷っていた。
相変わらず、眠れない夜。
夢と現実の狭間だろうか。母が電話予約開始時間を待っていた思い出を、俺はぼんやり見ていた。
母が欲しかったチケット相手ではなかったと思うが。叔母に頼まれたのかな?
まあ、その当時、チケットは電話予約で繋がるかどうかなんて運でしかなかった頃の話。
誰かのチケットなんて、プラチナチケットどころではなかった頃。
夢と現実の境目。もし、あの頃に戻れたら、母は、今の俺を見て何を思うのだろうか。
その日の夜の眠れない夢は、疫病が流行る前年の大雪の日に亡くなったというか、自殺した母のことだった。
随分久しぶりに思い出した。死ぬ時を自分で選んだ。あまりにままならない人生で、たった一つ、絶対に譲れなかったのだろう。
何よりの「自由」を手にした人だ。羨ましい限りだ。まあ、俺なら晴れた日に死にたいが。
ああ、クソッタレな毎日に、噛み砕けない、飲み干せない、行き場のない感情に、振り回され続けるよりは気分転換も悪くない。行きたくなければ会場に行かなければいいんだ。
俺は自分でもわからないままに、何故か木曜日の午後の有休を申請した。
言い訳を重ねただけだと知りながら。
自分が納得できる理由をなんとか探してる自覚はあった。口悔しいが、多分行くんだろう、という直感がした。それが、何より嫌だった。
あの夢も、占い師も運命論者も要らない職業だとしか思えない俺を、ただ、納得させたいだけだったのかもしれない。
苦い。苦しい。されど。
それでも、何故か、巡り巡って手元に来たこのチケットを手放すことができなかった。
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