Guys with the Dragon Tattoo

Coppélia

文字の大きさ
上 下
44 / 67
7月 Put Your Hands Up

第44話、パッケージされた感謝

しおりを挟む
入口から学堂まで、道の両脇からサークル勧誘の呼び声と喜びの声で満ちる灰色の石畳を、俺は歩いていた。

あの日、シラバスを受け取り、早速、気になった授業を見に行った。そこで問われた「課題」。

◇◇◇202X年7月21日◇◇◇
「3年1組のみなさん

地域活動への参加、いつもありがとうございます!バスケット部の全国大会進出おめでとうございます!また僕たちの学校にもスポーツや勉強を教えに来てください!」

放課後のHRでそんな手紙が読み上げられた初夏のある日。

バスケット部員として北海道で開催されるインターハイに行く、前々日のにわか雨の中、俺は信号無視をした車の前に飛び出した。

スローモーションの視界の中で、小学生を突き飛ばし、暴走した車の進行方向からその子を追い出した。

代わりに、右足は全治4ヶ月。
到底、「夢」には、間に合わなかった。

◇◇◇
「あの時助けてくれたお兄さんへ

助けてくれて、ありがとうございました。お兄さんのおかげでぼくは死なずに済みました。

でも、お兄さんがインターハイにいけなくなってごめんなさい。

ぼくがぐずぐずしてたから、お兄さんが大きなケガをしてしまいました。

ぼくがいなければ、お兄さんがケガをしませんでした。

ほんとにごめんなさい。ごめんなさい。」

あの日は小中高合同の地域清掃活動中だった。あの小学生も、信号を信じてゴミ拾いに夢中だった。

「あの時の君へ

お手紙ありがとう。
君が助かって本当によかったです。

僕は確かにケガをしました。それでインターハイにいけなかったのは、君の言う通りです。

だけど、君を助けることができました。

あの時、もし、君を助けずにいたら、僕はインターハイに行ったとしてもずっと後悔したと思います。

どうか、いなければいいなど、思わないでください。僕にありがとうと思ってくれるなら、これからいっぱい、笑ってください。いっぱい、友達と遊んで、笑ってください。

僕は君を助けたことを、後悔していません」

◇◇◇
「ありがとう。お前の夢の代わりに、ひとりの夢が途切れなかった。ありがとう。ごめんな。俺がきちんと見ていれば、あの子を助けるのは俺で良かったはずなのに、お前に背負わせてしまった」
「先生」
「ごめんな」

先生は泣きながら、ベッドで寝ている俺を抱きしめてくれた。悪いのは車の運転手であって、先生じゃない。

だけど、先生は監督不行き届きとなり、バスケット部の顧問を辞めた。あの日、ボランティア活動をさせた責任を何故か先生が取らされた。

俺は、後悔していない。

みんなとの3年間。どれだけ寒い日も、基礎練で走り回れば汗だくだった。

赤点取ったら補講でバスケができない。試験前の朝練は勉強だった。みんなで集まって、ノート見せ合ったり、先輩や先生に聞きに行った。

俺は、バスケ部の伝統である「基本が出来なければバスケもできない」を守って過ごした高校の3年間、人として、スポーツマンとして幸せだった。

◇◇◇
滑らかな青空が天を覆う。

「私はお節介なんです。君達にテレビで晒しているニュースキャスターとしての私は、ジャーナリストの私で、それは、素顔の私とは違うかも知れません。ですが、私に別の人物になりすますような演技力はありません。もし、途方もない演技力で別の誰かになりすますにしても、人は、その人そのものからは逃げられないと私は思います」。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

地獄三番街

arche
ライト文芸
羽ノ浦市で暮らす中学生・遥人は家族や友人に囲まれ、平凡ながらも穏やかな毎日を過ごしていた。しかし自宅に突如届いた“鈴のついた荷物”をきっかけに、日常はじわじわと崩れていく。そしてある日曜日の夕暮れ、想像を絶する出来事が遥人を襲う。 父が最後に遺した言葉「三番街に向かえ」。理由も分からぬまま逃げ出した遥人が辿り着いたのは“地獄の釜”と呼ばれる歓楽街・千暮新市街だった。そしてそこで出会ったのは、“地獄の番人”を名乗る怪しい男。 突如として裏社会へと足を踏み入れた遥人を待ち受けるものとは──。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...