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5月 Menuet k.1
第14話、もうひとりのつばさ
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会社から俺に許された時間は2年。
俺はもうすぐ帰国する。
彼もオーナーから輸入関係の方を本格的に任せたいと言われていた。
オーナーの片腕として、共同経営者にならないか、というお誘いだった。
だけど、2人とも、なんとなく、今が居心地よくて、どこかで2人、お店をやっていきたい、そんな感じのことを話し合っていた。
そんな、別れまであとひと月という休みの日に、彼が久しぶりにパンケーキを焼いてくれた。
「すまない。こんなことになるなんて」
久しぶりに彼が作る料理だけあって、案の定、上手く焼けなかったんだが、問題は俺が休みだからと形見の指輪を身につけていたことだった。
事件は、彼が皿を出そうと斜め後ろにいた俺に気が付かず、フライパンからの油はねを避けようと、俺にぶつかりフライパンを彼自身に向けて手を離してしまった時に起こった。
「あぶない!」
俺は咄嗟に指輪を付けていた手の甲で熱したフライパンを弾いてしまい、手に火傷を負った。
事件そのものは、彼の神々しい顔への火傷が阻止できたし、それに俺は料理人だ。火傷は職業病だと思う。
ただ、熱されたフライパンにより指輪は歪み、指に絡みついた。
慌てて冷やしたけど、火傷の時に金属の指輪を無理に外すと、皮ごとずりむける。
病院で外してもらったが、歪んだ指輪から現れた傷跡、それはドラゴンが絡みついたように見えた。
彼は言う。彼の方が痛いという顔だった。
「これは約束、だな。この傷が癒える前にお前を迎えに行く」
なんて顔をさせてしまったのだろう。俺は密かにショックを受け、なんとなくぎこちないまま、時は過ぎ、期限が来て彼と別れ、俺は日本に戻り、元の職場で働いていた。
次は自分のお店が持てたらいいな、と毎日の仕事と週末の食べ歩きに力を入れていた。
そんなある日、会社から新規店のシェフを打診された。
シェフはお店の責任者であり、俺のような若手に来る話ではないと思う。
よく聞けば、それは輸入食材店の紹介兼ねたショーケースなお店へのシェフとしての、出向だった。
「良い建物だろ?俺とお前の約束の場所、だな」
相変わらず神々しく美しい彼と、少し変わった建物の中で笑いあっている。
今回の出向は彼が俺を指名したのだと、彼から聞かされた。あれから1年。彼は俺と再び出会う運命を引き寄せた。
「もう一度、会えて嬉しい」
彼は正面の暖炉がお気に入りのようで、建物に入る前から暖炉を使った料理やお酒などを2人で話し合っていた。
「なあ、本当に俺でよかったのか?」
「それなら、俺はここにいないよ。さあ、オープンだ」
温もりを感じる建物の暖炉は、今日も火を灯す。温かな食事で「誰か」を幸せにするために。
俺はもうすぐ帰国する。
彼もオーナーから輸入関係の方を本格的に任せたいと言われていた。
オーナーの片腕として、共同経営者にならないか、というお誘いだった。
だけど、2人とも、なんとなく、今が居心地よくて、どこかで2人、お店をやっていきたい、そんな感じのことを話し合っていた。
そんな、別れまであとひと月という休みの日に、彼が久しぶりにパンケーキを焼いてくれた。
「すまない。こんなことになるなんて」
久しぶりに彼が作る料理だけあって、案の定、上手く焼けなかったんだが、問題は俺が休みだからと形見の指輪を身につけていたことだった。
事件は、彼が皿を出そうと斜め後ろにいた俺に気が付かず、フライパンからの油はねを避けようと、俺にぶつかりフライパンを彼自身に向けて手を離してしまった時に起こった。
「あぶない!」
俺は咄嗟に指輪を付けていた手の甲で熱したフライパンを弾いてしまい、手に火傷を負った。
事件そのものは、彼の神々しい顔への火傷が阻止できたし、それに俺は料理人だ。火傷は職業病だと思う。
ただ、熱されたフライパンにより指輪は歪み、指に絡みついた。
慌てて冷やしたけど、火傷の時に金属の指輪を無理に外すと、皮ごとずりむける。
病院で外してもらったが、歪んだ指輪から現れた傷跡、それはドラゴンが絡みついたように見えた。
彼は言う。彼の方が痛いという顔だった。
「これは約束、だな。この傷が癒える前にお前を迎えに行く」
なんて顔をさせてしまったのだろう。俺は密かにショックを受け、なんとなくぎこちないまま、時は過ぎ、期限が来て彼と別れ、俺は日本に戻り、元の職場で働いていた。
次は自分のお店が持てたらいいな、と毎日の仕事と週末の食べ歩きに力を入れていた。
そんなある日、会社から新規店のシェフを打診された。
シェフはお店の責任者であり、俺のような若手に来る話ではないと思う。
よく聞けば、それは輸入食材店の紹介兼ねたショーケースなお店へのシェフとしての、出向だった。
「良い建物だろ?俺とお前の約束の場所、だな」
相変わらず神々しく美しい彼と、少し変わった建物の中で笑いあっている。
今回の出向は彼が俺を指名したのだと、彼から聞かされた。あれから1年。彼は俺と再び出会う運命を引き寄せた。
「もう一度、会えて嬉しい」
彼は正面の暖炉がお気に入りのようで、建物に入る前から暖炉を使った料理やお酒などを2人で話し合っていた。
「なあ、本当に俺でよかったのか?」
「それなら、俺はここにいないよ。さあ、オープンだ」
温もりを感じる建物の暖炉は、今日も火を灯す。温かな食事で「誰か」を幸せにするために。
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