旦那様は秘書じゃない

鏡野ゆう

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本編

第十三話 結花先生の療養生活初日

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 誰かが頭を撫でているのを感じて目が覚めた。

「なんだかいい匂いがするけど」
「目を覚ました途端にそれか。もっと他に言うことは無いのか?」

 笑い声の混じった霧島さんの声が上から聞こえてきた。

「だって美味しそうな匂いなんだもの」
「俺は君の方が美味しそうな匂いがすると思うが」

 頭を撫でていた手が頬に触れる。目を開けると霧島さんの顔が間近に迫っている。

「キスしてほしいの?」
「キスだけじゃなく色々としてほしいことはある」
「そう。だったらどうして遠慮しているのかしら?」

 腕をのばして彼を引き寄せた。

「それはあっちに君の義姉さんがいるから」

 唇が触れそうになったところで霧島さんの口からそんな言葉が飛び出した。予想外のことにそのまま固まってしまう。

「……誰がいるって?」
「君のお兄さんの奥さん」
「繭子さん?」
「ああ。心配して来てくれたんだ。それと今日は特別に食事を用意してくれるらしい。この匂いはそのせい」
「貴方が作ってくれるって言ってたから楽しみにしていたのに」

 わざわざ来てくれた義姉に文句を言うのは罰当たりなことと分かっていても言わずにはいられなかった。

 そんな文句を言う私の唇を彼は優しくふさぐ。ドアを隔てた向こう側で義姉がキッチンに立っていると言うのに一度触れ合ってしまえば止められない、ベッドの上でもつれ合っているうちに彼の膝が私の足の間に押し込まれスカートがたくし上げられていく。

「これ以上のことをするつもりなら声は我慢してもらわなきゃいけないがどうする、先生?」

 キスの合間に顔を上げた霧島さんは悪戯っぽい声でそう囁いた。

「続けないならそれこそ大声で騒いじゃうわよ?」
「それは大変だ」

 ニッと笑った彼の指が下着の横から忍び込んできてキスをされたことで彼を受け入れる準備を始めていた場所をそっと撫でた。やがて様子を伺うように円を描いて撫でるだけだった指先に力が入り、完全に綻んだ場所にゆっくりと入り込んでいく。

「相変わらず君の中は熱くて素敵だ」
「それだけで満足してしまうおつもり?」

 中をこすられて体を震わせながらもそんな言葉が口から飛び出すのはきっと私が根っからの負けず嫌いだからかもしれない。

「君のことは満足させてあげられると思うが? これ以上のことをさせてくれるのか?」
「だって一週間も一緒に寝泊まりを共にしたのに指一本触れてこないんだもの。もう私には興味ないのかと思っていたわ」
「まさか。君は怪我人だし病院ではお行儀よく我慢していただけだ。君が元気になれば直ぐにでも抱きたかったよ」
「なら遠慮することないわよ? ああ、私がしてあげる」

 彼をベッドに押し倒すとそのまま腰の上に跨る。ベルトを外しズボンのファスナーを下ろすと布地を押し上げている高まりをそっと撫でてからトランクスの中から解放した。

「こんなところ繭子さんに見られたら大変ね」
「そう思うならとっとと始めてくれ」

 霧島さんは腰を浮かせてお尻のポケットから避妊具を取り出した。

「用意周到なわりにせっかちなんだから」
「ゆっくりするのは二人っきりになってからだ」

 彼のものに薄いゴムをかぶせると、膝立ちになって熱くなっているものに手を添えながら自分の濡れた場所へと押し当てた。そして彼と目を合わせたままゆっくりと腰を下ろしていく。

「……っ」

 自分の最奥へと続く道を押し開きながら満たしていく熱い塊に震える息を吐きながら腰を下ろしていく。そして彼の全てを受け入れたところでホッと息を吐いた。そんな私の様子を霧島さんは口元に笑みを浮かべながら見上げ、私の腰を両手でつかんだ。

「なかなかそそられる表情だった」

 そう言って腰を大きく突き上げてきた。一番奥に彼の切っ先が当たり一瞬だけ喘ぎ声が漏れてしまう。その声を聞いた彼の笑みが更に大きなものになる。

「静かにしないと二人ではしゃいでいるのがお義姉さんにばれてしまうぞ?」
「だったら手加減して……!!」
「それがお望みなのか? そうじゃないくせに」

 そして再び力強く突き上げる。声が漏れないようにと手の甲を口元に強く押し当てると霧島さんは何を思ったのかそんな私の両手首を掴んで引き下ろした。そしてそのまま腰を激しく動かし続ける。

「……んっ……ぁんっ……!!」
「静かに」
「そんなこと、あぁ……っ!!」

 容赦なく突き上げられながらも部屋の向こうに義姉がいるのだからと唇を噛んで声を漏らさないように耐えた。

「もうっ……あん……っ……このドS!!」
「褒め言葉と受け取っておこう」

 ベットの軋む音とお互いの荒い呼吸音だけが部屋の中を満たしていく。やがて二人して昇り詰め、私は体を大きく震わせて仰け反り彼は私に体を押し付けながら熱いものを膜越しに吐き出した。

 ぐったりとなって彼の体の上に自分の体を投げ出すと大きな手が頭から頬かけて撫でていく。目を閉じてその手を感じつつ、力強い鼓動の音を聞きながら久し振りに体を包み込む気怠さを楽しんだ。

「主寝室でバスルームがあって良かったな」
「馬鹿ね!!」
「抱かずにはいられないほど魅力的な君が悪い」
「そういうことなら許してあげる」

 短い時間ではあったけれど久し振りに体を重ね合ったことに満足する。だけどそろそろ部屋から出て行かないと義姉が心配してとんでもないことになるかもしれない。

「私、シャワー浴びて着替えないと。服も着替えてないし」
「そうだな、お義姉さんにそう言っておくよ」
「貴方はどうするの? 一緒に浴びる?」
「そんなことになったらどうなるか分かっているくせに誘うのか?」
「一週間我慢できたんだからあと数時間ぐらい我慢できるでしょ?」

 ニッコリと微笑んで彼を見下ろす。

「やれやれ、抜糸さえしていないと言うのに俺の先生は元気なことだ」

 霧島さんが私のことを抱いたまま体を起こした。その拍子に彼のものが奥深く入り込み体に甘い痺れが走った。思わず零れ落ちそうになった喘ぎを何とか堪えると目の前に迫った彼の顔を睨んだ。

「今のわざとでしょ?!」
「俺に忍耐を求めたんだ、君にも同等のことを耐えて貰わないと」

 そう言って彼は私にキスを一つして体を離すと、避妊具の処理を手早く済ませベッドから素早く降りた。私のことを見下ろす顔は普段通りの真面目な表情だ。

「シャワーを浴びるのは構わないが髪を洗うのは我慢してくれ。後で俺が手伝うから」
「何でも屋さんね」
「君の世話をすることが習慣にならなければ良いんだがな」

 そう言って寝室のドアを開けて出て行った。

「鍵、ちゃんと閉めてたのね……」

 ドアを開ける寸前に鍵をあけたのを見てそんなことを呟いてしまった。


+++++


 シャワー浴びてすっきりすると普段は人前では着ないゆったりとしたブラウスとスエットのズボンを選んで身につけた。本当は上に着るのもスエットにしたかったんだけれど頭からかぶるタイプのものは今はちょっと避けた方が無難な気がしたのだ。そして手櫛で髪の毛を整えると部屋を出た。

「結花ちゃん、傷の具合は大丈夫?」

 テーブルにお皿を並べていた義姉の繭子さんが心配そうにこちらを見る。

「お陰様で。繭子さんこそ御免なさいね、今日はわざわざ」
「ううん、いいのよ、そんなこと。ちょうど仕事はお休みだったし、こんなことぐらいでしか役に立ってあげられないから。食欲が戻っていると良いんだけど」
「繭子さんが作ってくれたものは何でも美味しいから食欲も直ぐに戻っちゃうわ。あ、それと、ちゃんと紹介した方が良いわよね」

 そう言いながら霧島さんを手で示した。

「一応は自己紹介していただいたけれど、そうね、結花ちゃんから改めてお願いできる?」
「こちらは霧島冬吾さん。私がお付き合いをさせて頂いている人で、今は警護もしてくれている警護課のSPさん。以前に父のことも警護してくれていたのよ。霧島さん、こちらは私の兄の奥さんで繭子さん。あ、そう言えば繭子さん、幸斗君はともかくお子さん達を放っておいて良かったの?」
「うん。今日からしばらく重光のお父さんのところに滞在するから、今はあちらで幸斗さんも一緒にノンビリしている筈よ」
「そうなの? まだ学校は冬休みじゃないわよね?」

 ちらりと霧島さんの方に視線を向けると彼は微かに頷いた。

「私達のせいだったら御免なさいね」
「気にしない気にしない。子供達はお爺ちゃんとお婆ちゃんに会えて喜んでいるから」

 今回のことが自分と父親だけの問題ではなく家族全員に関わってくる事件の可能性があることに考えが及んで改めて怒りを感じた。そしてこの件を政治的に利用できると言い放った平城山先生に対しても。

「大丈夫? 怖い顔してるわよ? もしかして傷口が痛むの? お薬は飲んだ?」
「ああ、御免なさい。ちょっと思い出してムカついただけだから」
「また変な先生に言い掛かりでもつけられた? ほんと、馬鹿馬鹿しい嫉妬ほど醜いものはないわね。さ、座って。そういう時は美味しいものを食べて忘れるのが一番よ。霧島さんもどうぞ」

 いつもと変わらない朗らかな繭子さんの言葉に気持ちがほぐれるのを感じつつ椅子に座った。テーブルには美味しそうなお料理がいくつも並んでいる。

「ほんと、繭子さんって会うたびにお料理の腕が上がってるわよね、羨ましいなあ……私が繭子さんをお嫁さんに貰えば良かった」
「またまたそんなこと言っちゃって。大丈夫よ、結花ちゃんだってその気になればあっと言う間だから。だけどお料理よりも大事なことがあるでしょ? 世の中には適材適所っていう言葉があるの。ああ、静養している間は霧島さんがご飯を作るって張り切っているみたいだから、帰ったら簡単に出来るレシピを色々と送ってあげるね。元気が出たらそれを一緒に作れば良いじゃない?」

 ちょっとした新婚さんみたいねと笑いながら繭子さんは私の前にご飯の入ったお茶碗を置いた。

 夕飯を三人で食べ、後片付けをし終ったタイミングでインターホンが鳴った。モニターを見れば兄の幸斗君だった。どうやら繭子さんを迎えに来たらしい。繭子さんが帰り支度兼キッチンで霧島さんに対する申し渡しが終わるのを待つ間、幸斗君と私とリビングで話すことにした。

「もしかして一人で来たの?」
「いや、下で警備会社の人が待っててくれているんだ。だから俺と繭子の心配しなくても良いよ」
「ごめんね、色々と」

 キッチンから流れてくる繭子さんの声を聞きながら幸斗君に謝罪する。幸斗君一家は実家から離れた郊外に居を構えていて、幸斗君はその地域の医者として繭子さんはそこにある市の出張所の職員として働いていた。二人が揃ってこっちに来ているということは仕事も休んでいるということだ。

「結花が謝ることじゃないだろ? それに僕達家族に危険が及ぶことは無いだろうというのが警察の見方だ。だけど俺達のことはともかく子供達のことを母さんが心配してね。だからこっちに来たのは母さんを安心させる為なんだよ」
「だったら良いんだけれど」
「こっちのことは心配せずに結花は自分の怪我を治すことに専念しなさい、それが医者としての命令だ」
「分かってる」

 繭子さんの申し渡しが終わったようで二人がリビングに戻ってきた。

「終わったかい?」
「ええ。霧島さんは貴方よりも物覚えがよくて助かるわ」
「酷いな、僕だって一生懸命に覚える努力をしているのに」
「適材適所っていうのは正しいってことね。まあそういう意味で言うと霧島さんはSPよりも執事が似合っているかも」
「おいおい、そんな失礼なことをいうもんじゃないよ」

 幸斗君は笑いながら繭子さんのバッグを手にした。そして霧島さんのことを見た。

「親父だけではなく妹まで霧島さんの世話になるとは思ってなかったよ。結花のこと、頼みます」
「分かっている」
「結花、我が儘を言って霧島を困らせるんじゃないぞ?」

 幸斗君は父親と同じことを私に言い渡すと繭子さんと仲良く帰っていった。

 だけど……。

「なんで誰も彼もが私が我が儘を言うと思ってるのかしら、失礼ね」
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