28 / 34
本編
第二十八話 カノジョの心得
しおりを挟む
「ねえ、お母さん」
「んー? なあに?」
その日、晩ご飯の片づけを手伝いながら、母親に話しかけた。
「私が昨日の夜に帰ってこなかったこと、お父さん、気づいてた?」
「そりゃあ気づいてたわよ。ほなみはまだ帰ってきてないのかって、言ってたから」
「それで? お母さんはなんて言ったの?」
「ほなみだって、たまにはお友達の家でお泊りすることもあるわよって。そしたら黙りこんじゃった」
母親にはちゃんと、但馬さんちでお泊りすると正直に伝えてあった。そのことを、父親にはマイルドに伝えてくれたらしい。ただ、父親はそれだけで察しちゃったみたいだけど。
「うっわー……黙り込んだってことは、それで察しちゃったってことだよね?」
「だと思うわよ。だけど一生懸命なんでもないふりをしているみたいだから、今は気づかないふりをしてあげて」
そう言うと母親は、居間でこたつに足を突っ込んでテレビを見ている父親に視線を向けた。
「もちろんそのつもり。だって気まずすぎるもん」
「ほーちゃん以上に、お父さんは気まずいわよ。私、お母さんで良かった」
娘をもった父親って可哀想よねと呑気につぶやく。そのつぶやきが聞こえたのか聞こえなかったのか、父親はもそもそと動いて、こたつに入ったまま体を横にした。
「お父さん、そんなところで寝たら風邪ひくわよ? 寝るならあっちの部屋で、ちゃんとお布団を敷いて寝てちょうだい」
「わかってる。観たいテレビが始まるまで、体を横にしているだけだ。まだ起きてるよ。お前達も観るんだろ?」
「なら良いんだけど」
こたつの陰に隠れてしまった父親の顔。一体どんな顔をしているんだろう。気まずい思いはあるけれど、ちょっとだけ気になる。
「あ、そうだ。お父さん」
「なんだー?」
「まえに教えてくれた、整体院あったじゃない? 消防署の人が通ってるって言ってたとこ。あそこに但馬さんをつれて行ってあげたの。今のところなんでもないって」
「そうか、それは良かったじゃないか」
精一杯さりげない口調だ。
「パイロットさんは首を痛めることが多いから、それは気をつけなさいって。最初に診てくれた、お爺ちゃん先生が言ってた」
「但馬君がずっとパイロットを続けるつもりなら、なんでもないうちから定期的に、診てもらうようにしておいたほうが良いかもしれないな」
「定期メンテナンス?」
「そんな感じだ」
「なるほど。次に但馬さんと顔を合せたら言っておくね。お父さんがそう言ってたって」
「べつに、お父さんが言っていたなんて、言わんでも良いだろ」
少しだけ父親の口調が、動揺したのがわかった。
「でもきっと喜ぶと思うよ? 自分のカノジョのお父さんが、自分のことを気にかけてくれてるってわかったら」
ゴンッと変な音がして、こたつの上のお湯呑みが少しだけ飛びあがる。どうやら父の足が、こたつの中で飛びはねたらしい。
「ま、まあ、同じ公務員仲間のよしみってやつだ……」
「それも伝えておくね!」
「べつにそれも言わなくて良いんだがな……」
父親がブツブツとつぶやいているのを聞きながら、母親と私は笑いをかみ殺して、お皿洗いを続けた。
「おねーちゃんズが押しかけてきた時は、すっごい余裕な感じで話してたのに。お父さんたら態度が変わりすぎ」
「いざ現実として目の前に突きつけられると、慌てちゃうものなのよ。昨日だって、ほーちゃんがお友達の家に泊まるって言っただけなのに、来るべきものが来た!って顔してたもの」
母親がそう言うと、父親が変な咳をする。
「お姉ちゃん達の時はどうだったの?」
父親の様子に、少しだけ興味がわいた。姉達が押しかけてきた時に聞いた様子では、余裕綽々って感じだったし、特に動揺したようなエピソードはなかった。だけど今の様子からして、二人のときも似たようなことがあったに違いない。
「お姉ちゃん達の時もお父さん、今みたいな感じだったわよ。敷島君と平塚君が正式な挨拶をしにくるまでは、頑張ってなにも起きてないふりをしてたかな」
当時のことを思い出したのか、母親がおかしそうに笑った。こたつの向こうから、再び父親の変な咳ばらいが聞こえてくる。余計なことを話すなと、言いたいのだろう。母親もきっと、そんな父親の意図には気づいているはず。だけどおかまいなしだ。
「そうなんだー……」
「そりゃあもう、ソワソワしてたわ。お姉ちゃん達とは、結婚相手が同じ消防署内のお父さんの後輩じゃなくて良かったわねって、よく話したものよ。もしそうだったら、絶対に一悶着おきてたと思うわ」
「わあ……そーなーんーだー……」
私がそうつぶやきながら振り返ると、私の視線をどこかに感じたのか、ピタッと咳ばらいがとまった。
「ま、それでも世の中の娘を持つお父さん達よりは、理解があったんじゃないかしらね。ねえ、お父さん?」
「なんだ? なにか言ったか?」
〝聞こえてたくせに〟と母親が声を出さずに、口パクで言った。
「もちろん、なにもないふりをしてるからって、無関心てわけじゃないのよ?」
母親はお皿を食器棚に片づけながら、話を続ける。
「お父さんなりに、いろいろと心配はしていると思うの。お姉ちゃん達の時もだけど今回は特にね。だって但馬君はパイロットなんでしょ?」
「うん」
「ニュースになるような命にかかわる事故もあるし、そういう意味では私も心配してる。もちろん、ほーちゃんが但馬さんとお付き合いをすることに、反対してるってわけじゃないけどね」
かすかに背中のほうで、父親の変な声が聞こえたような気がしたけど、それは気のせいだと思っておこう。
+++
「まあ、なんだ……」
三人でテレビを見ていたところで、父親がいきなり話し始めた。
「なに?」
「心がまえは大事だな」
「なに、急に」
「なにか起きた時、普通だと家族のもとに戻ろうとするだろ? だが、但馬君は違う」
いきなりどうしたんだろうと父親の顔を見た。だけど父親は、テレビ画面に目を向けたままだ。
「父さんもそうだったが、なにか有事がおきた際、彼等は自分の家族のことを二の次にして、行動しなければならなくなる」
「それって台風で被害が出たり、地震が起きた時ってこと?」
災害派遣で陸自の人達やレスキューの人達が、日本全国の被災地に向かうニュースを思い浮かべる。
「まあ、それだけではないがそんなところだ。だからほなみも、但馬君が自衛官だからと言って、いざという時に守ってもらおうとは考えないことだ。自分の身は自分で守る。最低限それができるようになっておかないとな。父さんだって、台風の時には出かけてたろ?」
小さいころはあまり意識していなかったけれど、台風が通過した後の救助作業で、何日も自宅に帰ってこないことが今までに何度もあった。
「父さんは、お母さんがお前達と家を守ってくれているから、安心して行くことができた。だからお前が但馬君と付き合っていくのなら、そういう覚悟も持っておかないといけないという話だ。これは、お姉ちゃん達にも言って聞かせたことだが」
「お姉ちゃん達にも?」
「刑事ともなれば、災害だけではなく、事件の捜査で何日も帰ってこないこともあるだろう?」
父親の言葉に母親がうなづく。
「もちろんこれは男女問わずの話よ。今は、女性の刑事さんも消防士さんも自衛官さんもいるんだから。それに家庭を持ったら、自分だけじゃなく、子供達のことも守らなきゃいけないものね」
とたんに父親の目が泳いだ。
「いや、その、ほなみはまだ、但馬君とそういうことになるとは決まってないだろうが、まあ、自衛官と付き合っていくうえでの心得として、頭のどこかに入れておいてくれれば良いかなと、父さんは思うわけだ……うん」
なぜか、しどろもどろな口調になっている。
「前にも言ったと思うが、但馬君の仕事がどういうものか、理解してあげないとな」
「そこが大切なんだってことはわかってる。だから知らないなりに理解しようとは思ってるの。ただ、但馬さんはあまり自分の仕事のことは話さないからさ。なにがどう大変なのかって想像するしかなくて」
「それも前に言ったろ? 話したくても話せないってやつだ。そこを含めての理解ってやつだな」
「それって難しいことだよね」
そこでやっと、父親が私のほうに顔を向けた。
「たしかに。だから、制服がかっこいいとかパイロットがかっこいいとか、但馬君の表面上のことだけを見て付き合おうとしているなら、やめておいたほう良いと思うぞ。お互いのためにもな」
「私は制服とかパイロットとかそんなのどうでもよくて、但馬さんのスマイルが一番好きなの」
「!」
父親が目を丸くする。
「できることなら但馬さんには、いつもあのスマイルを浮かべていてほしいなって思うの。但馬さんのお仕事のことはまだちゃんと理解できてないから、まずは……肩こり治療からかな……頭痛に関しても、やっぱり肩こりと関係あると思う?」
父親の横で、母親がクスクスと笑いだした。
「あらあら、お父さん。どうしましょ、私達、ほーちゃんの惚気を聞かされちゃったわ」
「私、けっこう真剣に悩んでるんだけどな。頭痛と肩こりと、戦闘機パイロットとの因果関係……」
但馬さんと顔を合わせるたびに、最初に気になるのはそこだし。
「ほなみ、栄養士になるのはあきらめて、整体師にでもなるつもりか?」
「別に整体師になるつもりはないけどさ。ちょっと勉強はしたくなってきたかも」
但馬さんのためにも。
「ほーちゃんにとって、人生を左右しちゃうぐらいの存在なのね、但馬さんて。これは一大事よ、お父さん」
「……よく考えろよ、ほなみ」
「だから整体師になるつもりはないって。私が気になるのは、但馬さんのスマイルを曇らせる肩こりと頭痛なの!」
「あらあらあら。お父さん、気をしっかりね?」
「お、おう……」
憮然としている父親の横で呑気に笑っている母親だったけど、そんな母親の覚悟の強さを知るのは、それから数年後のことだった。だけどそれはまた別の話。
「んー? なあに?」
その日、晩ご飯の片づけを手伝いながら、母親に話しかけた。
「私が昨日の夜に帰ってこなかったこと、お父さん、気づいてた?」
「そりゃあ気づいてたわよ。ほなみはまだ帰ってきてないのかって、言ってたから」
「それで? お母さんはなんて言ったの?」
「ほなみだって、たまにはお友達の家でお泊りすることもあるわよって。そしたら黙りこんじゃった」
母親にはちゃんと、但馬さんちでお泊りすると正直に伝えてあった。そのことを、父親にはマイルドに伝えてくれたらしい。ただ、父親はそれだけで察しちゃったみたいだけど。
「うっわー……黙り込んだってことは、それで察しちゃったってことだよね?」
「だと思うわよ。だけど一生懸命なんでもないふりをしているみたいだから、今は気づかないふりをしてあげて」
そう言うと母親は、居間でこたつに足を突っ込んでテレビを見ている父親に視線を向けた。
「もちろんそのつもり。だって気まずすぎるもん」
「ほーちゃん以上に、お父さんは気まずいわよ。私、お母さんで良かった」
娘をもった父親って可哀想よねと呑気につぶやく。そのつぶやきが聞こえたのか聞こえなかったのか、父親はもそもそと動いて、こたつに入ったまま体を横にした。
「お父さん、そんなところで寝たら風邪ひくわよ? 寝るならあっちの部屋で、ちゃんとお布団を敷いて寝てちょうだい」
「わかってる。観たいテレビが始まるまで、体を横にしているだけだ。まだ起きてるよ。お前達も観るんだろ?」
「なら良いんだけど」
こたつの陰に隠れてしまった父親の顔。一体どんな顔をしているんだろう。気まずい思いはあるけれど、ちょっとだけ気になる。
「あ、そうだ。お父さん」
「なんだー?」
「まえに教えてくれた、整体院あったじゃない? 消防署の人が通ってるって言ってたとこ。あそこに但馬さんをつれて行ってあげたの。今のところなんでもないって」
「そうか、それは良かったじゃないか」
精一杯さりげない口調だ。
「パイロットさんは首を痛めることが多いから、それは気をつけなさいって。最初に診てくれた、お爺ちゃん先生が言ってた」
「但馬君がずっとパイロットを続けるつもりなら、なんでもないうちから定期的に、診てもらうようにしておいたほうが良いかもしれないな」
「定期メンテナンス?」
「そんな感じだ」
「なるほど。次に但馬さんと顔を合せたら言っておくね。お父さんがそう言ってたって」
「べつに、お父さんが言っていたなんて、言わんでも良いだろ」
少しだけ父親の口調が、動揺したのがわかった。
「でもきっと喜ぶと思うよ? 自分のカノジョのお父さんが、自分のことを気にかけてくれてるってわかったら」
ゴンッと変な音がして、こたつの上のお湯呑みが少しだけ飛びあがる。どうやら父の足が、こたつの中で飛びはねたらしい。
「ま、まあ、同じ公務員仲間のよしみってやつだ……」
「それも伝えておくね!」
「べつにそれも言わなくて良いんだがな……」
父親がブツブツとつぶやいているのを聞きながら、母親と私は笑いをかみ殺して、お皿洗いを続けた。
「おねーちゃんズが押しかけてきた時は、すっごい余裕な感じで話してたのに。お父さんたら態度が変わりすぎ」
「いざ現実として目の前に突きつけられると、慌てちゃうものなのよ。昨日だって、ほーちゃんがお友達の家に泊まるって言っただけなのに、来るべきものが来た!って顔してたもの」
母親がそう言うと、父親が変な咳をする。
「お姉ちゃん達の時はどうだったの?」
父親の様子に、少しだけ興味がわいた。姉達が押しかけてきた時に聞いた様子では、余裕綽々って感じだったし、特に動揺したようなエピソードはなかった。だけど今の様子からして、二人のときも似たようなことがあったに違いない。
「お姉ちゃん達の時もお父さん、今みたいな感じだったわよ。敷島君と平塚君が正式な挨拶をしにくるまでは、頑張ってなにも起きてないふりをしてたかな」
当時のことを思い出したのか、母親がおかしそうに笑った。こたつの向こうから、再び父親の変な咳ばらいが聞こえてくる。余計なことを話すなと、言いたいのだろう。母親もきっと、そんな父親の意図には気づいているはず。だけどおかまいなしだ。
「そうなんだー……」
「そりゃあもう、ソワソワしてたわ。お姉ちゃん達とは、結婚相手が同じ消防署内のお父さんの後輩じゃなくて良かったわねって、よく話したものよ。もしそうだったら、絶対に一悶着おきてたと思うわ」
「わあ……そーなーんーだー……」
私がそうつぶやきながら振り返ると、私の視線をどこかに感じたのか、ピタッと咳ばらいがとまった。
「ま、それでも世の中の娘を持つお父さん達よりは、理解があったんじゃないかしらね。ねえ、お父さん?」
「なんだ? なにか言ったか?」
〝聞こえてたくせに〟と母親が声を出さずに、口パクで言った。
「もちろん、なにもないふりをしてるからって、無関心てわけじゃないのよ?」
母親はお皿を食器棚に片づけながら、話を続ける。
「お父さんなりに、いろいろと心配はしていると思うの。お姉ちゃん達の時もだけど今回は特にね。だって但馬君はパイロットなんでしょ?」
「うん」
「ニュースになるような命にかかわる事故もあるし、そういう意味では私も心配してる。もちろん、ほーちゃんが但馬さんとお付き合いをすることに、反対してるってわけじゃないけどね」
かすかに背中のほうで、父親の変な声が聞こえたような気がしたけど、それは気のせいだと思っておこう。
+++
「まあ、なんだ……」
三人でテレビを見ていたところで、父親がいきなり話し始めた。
「なに?」
「心がまえは大事だな」
「なに、急に」
「なにか起きた時、普通だと家族のもとに戻ろうとするだろ? だが、但馬君は違う」
いきなりどうしたんだろうと父親の顔を見た。だけど父親は、テレビ画面に目を向けたままだ。
「父さんもそうだったが、なにか有事がおきた際、彼等は自分の家族のことを二の次にして、行動しなければならなくなる」
「それって台風で被害が出たり、地震が起きた時ってこと?」
災害派遣で陸自の人達やレスキューの人達が、日本全国の被災地に向かうニュースを思い浮かべる。
「まあ、それだけではないがそんなところだ。だからほなみも、但馬君が自衛官だからと言って、いざという時に守ってもらおうとは考えないことだ。自分の身は自分で守る。最低限それができるようになっておかないとな。父さんだって、台風の時には出かけてたろ?」
小さいころはあまり意識していなかったけれど、台風が通過した後の救助作業で、何日も自宅に帰ってこないことが今までに何度もあった。
「父さんは、お母さんがお前達と家を守ってくれているから、安心して行くことができた。だからお前が但馬君と付き合っていくのなら、そういう覚悟も持っておかないといけないという話だ。これは、お姉ちゃん達にも言って聞かせたことだが」
「お姉ちゃん達にも?」
「刑事ともなれば、災害だけではなく、事件の捜査で何日も帰ってこないこともあるだろう?」
父親の言葉に母親がうなづく。
「もちろんこれは男女問わずの話よ。今は、女性の刑事さんも消防士さんも自衛官さんもいるんだから。それに家庭を持ったら、自分だけじゃなく、子供達のことも守らなきゃいけないものね」
とたんに父親の目が泳いだ。
「いや、その、ほなみはまだ、但馬君とそういうことになるとは決まってないだろうが、まあ、自衛官と付き合っていくうえでの心得として、頭のどこかに入れておいてくれれば良いかなと、父さんは思うわけだ……うん」
なぜか、しどろもどろな口調になっている。
「前にも言ったと思うが、但馬君の仕事がどういうものか、理解してあげないとな」
「そこが大切なんだってことはわかってる。だから知らないなりに理解しようとは思ってるの。ただ、但馬さんはあまり自分の仕事のことは話さないからさ。なにがどう大変なのかって想像するしかなくて」
「それも前に言ったろ? 話したくても話せないってやつだ。そこを含めての理解ってやつだな」
「それって難しいことだよね」
そこでやっと、父親が私のほうに顔を向けた。
「たしかに。だから、制服がかっこいいとかパイロットがかっこいいとか、但馬君の表面上のことだけを見て付き合おうとしているなら、やめておいたほう良いと思うぞ。お互いのためにもな」
「私は制服とかパイロットとかそんなのどうでもよくて、但馬さんのスマイルが一番好きなの」
「!」
父親が目を丸くする。
「できることなら但馬さんには、いつもあのスマイルを浮かべていてほしいなって思うの。但馬さんのお仕事のことはまだちゃんと理解できてないから、まずは……肩こり治療からかな……頭痛に関しても、やっぱり肩こりと関係あると思う?」
父親の横で、母親がクスクスと笑いだした。
「あらあら、お父さん。どうしましょ、私達、ほーちゃんの惚気を聞かされちゃったわ」
「私、けっこう真剣に悩んでるんだけどな。頭痛と肩こりと、戦闘機パイロットとの因果関係……」
但馬さんと顔を合わせるたびに、最初に気になるのはそこだし。
「ほなみ、栄養士になるのはあきらめて、整体師にでもなるつもりか?」
「別に整体師になるつもりはないけどさ。ちょっと勉強はしたくなってきたかも」
但馬さんのためにも。
「ほーちゃんにとって、人生を左右しちゃうぐらいの存在なのね、但馬さんて。これは一大事よ、お父さん」
「……よく考えろよ、ほなみ」
「だから整体師になるつもりはないって。私が気になるのは、但馬さんのスマイルを曇らせる肩こりと頭痛なの!」
「あらあらあら。お父さん、気をしっかりね?」
「お、おう……」
憮然としている父親の横で呑気に笑っている母親だったけど、そんな母親の覚悟の強さを知るのは、それから数年後のことだった。だけどそれはまた別の話。
36
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
八年間の恋を捨てて結婚します
abang
恋愛
八年間愛した婚約者との婚約解消の書類を紛れ込ませた。
無関心な彼はサインしたことにも気づかなかった。
そして、アルベルトはずっと婚約者だった筈のルージュの婚約パーティーの記事で気付く。
彼女がアルベルトの元を去ったことをーー。
八年もの間ずっと自分だけを盲目的に愛していたはずのルージュ。
なのに彼女はもうすぐ別の男と婚約する。
正式な結婚の日取りまで記された記事にアルベルトは憤る。
「今度はそうやって気を引くつもりか!?」
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる