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本編
第二十七話 秋の夜長は睡魔に勝てない
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たかはし葵さん作【Blue Mallowへようこそ】とのコラボエピソードです。
++++++++++
暑かった夏が終わって夜は随分と過ごしやすくなってきたから、こういう時こそ普段はなかなか出来ない夜更かしして途中読みになっている読書の続きを……と思っているのに現実の私は夜更かしどころか昼間も超眠い状態。最近は食欲よりも睡魔の方が深刻なのでとうてつさんに寄らずに自宅に直行することも多くて、そういう時は嗣治さんが帰ってくるのさえ気が付かない時もあったりする。
出産経験のある先輩曰く吐き気がともなう悪阻に比べれば随分とマシよってことらしい。だけど嗣治さんからしたら私がちゃんと夕飯を食べているのかどうかってのが心配らしくて、今まで以上にあれこれ煩く言うようになった。いわゆる尋問生活再びってやつね。ちゃんと食べてるよ~~と言ってもなかなか信用してくれないのはきっと嗣治さんと出会った頃の私の食生活が酷かったせいなんだと思う。
事と次第によっては産休・育休の後に嘱託職員になる可能性もあるので御迷惑をおかけしますって所長に報告したら、モモニャンがとうとうお母さんになるのかあと感慨深げに呟いて体を大事にしないとねと言ってくれた。この前、自分のせいで私が泣いたわけじゃないってことが分かってホッとしていたらしいというのは、ここ暫く所長と一緒に残業をしている澤山君からの報告だ。
お昼、仕事も一息ついたのでいつものように嗣治さんが持たせてくれたお弁当をのんびり食べているとメールが来た。こんな時間に誰だろうって画面を確認すると璃青さんだ。そう言えば肩こり談義、あれからしてないなあ……と思い至る。
『桃香さん、ご無沙汰です! お仕事どうですか? 涼しくなってきたことですし第二回肩こり会合を林整骨院でしませんか? ちなみに私は秋の新作を作りすぎて肩が岩みたいです』
今回は肩こりを解消しながらのお喋りしませんかってことですね、璃青さん。って言うか岩みたいってどうなんだろう、璃青さんも根つめすぎなんじゃ?と心配になってしまう。手作りのアクセサリーが人気なのは分かるしオーダーメイドも受けているってのは七海ちゃんから聞いて知っているけど、璃青さんの手は二本しかないんだからほどほどにしないと……。とは言えあまり人のこと言えないか、私も。
「林さんかあ……」
せっかく澄ママから紹介されていたのに結局のところ未だ行けてないんだよね、林整骨院。そう言えば桜木茶舗の御隠居さんも何度か腰痛でお世話になっているとか言ってたっけ。……えっと、返事をしなきゃ。確か今度のお休みは……と頭の中にカレンダーを思い浮かべる。
『こちらこそなかなか連絡出来なくてごめんなさい。次の休みは璃青さんのお店の定休日と重なってます。平日だから林さんもやっていると思いますがどうでしょう? 何か予定は入ってますか?』
送信すると直ぐに返事のメールが返ってきた。
『私は嬉しいですけど良いんですか? 旦那様とお出かけの予定とかは?』
『旦那さんは普通にお仕事なので大丈夫ですよ~』
『じゃあ、お昼からの予約、入れておきますね♪ 行く前にランチでも御一緒にどうですか?』
『はい、是非に! 楽しみにしてますね^^』
おお、あっという間に二回目の会合の日にちと場所が決まってしまった。
「……」
「桃香ちゃん、なに笑ってるの?」
「え、笑ってました?」
「うん。それも何だかちょっと黒さが混じってた」
「え、そうですかあ?」
まあ菅原さんのその指摘は当たらずも遠からずってやつかな。夏の花火大会の時にユキ君と璃青さんが歩いているのを見かけてからずっと気になっていたんだよね、あの二人のこと。私って日中は仕事でいないし夜も遅いからなかなか二人の様子を窺い知ることが出来ないんだけれど、篠宮の御主人の話とか七海ちゃんが何気なく話す内容からして、二人の仲が進展しているようなしていないようなという微妙な状態だってことだけは何となく理解できた。
だから!!
次に璃青さんと会う時には絶対に聞いてみたいと思っていたんだ、璃青さんとユキ君がどうなっているのか。もちろん無理に聞き出すつもりはないし聞かされたことを誰かに話すつもりはないけれど、せっかくできた同世代のお友達だしそういう話もしてみたいなって思う訳。ただ、今の私の状態だともしかしたら話している途中で寝ちゃうかもしれないってのが唯一の心配事ではあるかな。
「あ、ってことは……」
璃青さんにも赤ちゃんができたこと話しても良いのかな。あ、それと林さんって妊婦さんでも大丈夫なのかな? 行く前に聞いてみた方が良いかな? 菅原さんが隣で何やらクスクスと笑っている。
「どうしたんです?」
「なんだか桃香ちゃんが百面相しているからおかしくて」
「え……」
そんなコロコロと表情を変えてた?
「なんだか楽しそうだなって。旦那さんとお付き合いを始めたって聞いた時にも感じていたんだけど、桃香ちゃん、最初にここに来た時よりずっと表情が豊かになったしね。きっと新しい彼氏さんやお友達が出来て充実した生活を送れているんだなって思ったのよ」
「入って来た時とそれほど変わったとは思わないですけど……」
「一番変わったのはこれよね」
そう言って食べかけのお弁当を指でさされた。
「確かに食生活は段違いに充実してます」
「よね。最初の頃なんてモニターみながらチョコレートを齧ったりしていたもの。この子、大丈夫かしらって心配していたのよ?」
「そうなんですか?」
「今は旦那さんがきちんとしてくれているから安心よね」
「なんだか世間様からしたら真逆なんですけどね……」
「旦那さんがそれで満足しているんだから世間がどうかなんて関係ないわよ」
「そりゃそうなのかもですけど」
+++++
「モモ」
肩を揺すられて慌てて目を開けて起き上がる。嗣治さんがこちらを覗き込んでいた。
「お帰りなさい、嗣治さん」
「こんなところで寝ていたら風邪をひくぞ。寝るならベッドで寝ろ」
「今日こそ起きて待ってようって思って頑張ってたんだよ」
「待たなくても良いって言ってるだろ? 今のモモは普通の体じゃないんだから眠いのに無理して起きてることないんだぞ」
「でも、そんなことしたらますます嗣治さんと話したりする時間が少なくなっちゃうじゃない」
「ずっと続くわけじゃないって言われてるんだから少しの辛抱じゃないか。それとも今日は何か話したいことでも?」
嗣治さんは私の隣に座るとこちらに体を向けてきた。
「えっとね、次のお休みの日、璃青さんと会うことになったの。ランチも一緒にどうですかって」
「璃青さん……ああ、Blue Marrowの」
「うん。それで黒猫さんの上にある林整骨院さんに一緒に行くつもりなんだ」
「……医者?」
「ほら、二人とも肩こりが酷いでしょ? 澄ママが一度あそこでマッサージしてもらったらどうだって勧めてくれていたから二人で一緒に行ってみようってことで」
「なるほど。そういうのって妊娠していても大丈夫なのか?」
「うん。それは帰ってきてから問い合わせしてみたんだ。ちゃんとそれ専門の施術があるから施術前に言ったら問題ないですよって」
「なるほど、だったら安心だな」
私も気になって職場でパソコンを使ってこっそり調べてみたんだけど、そういう質問をしている人って既に八か月になっていたりしてお腹の大きな人が殆どで結局のところ妊娠初期だとどうなの?って良く分からなかった。だったら直接聞いてみたら良いじゃないってことで林さんに電話してみたんだよね。
「念のために言っておくとね、多分、私の施術は女の人がしてくれると思うよ」
「俺は何も言ってないだろ?」
「何ていうか、一応言っておいた方が良いかなって思えた」
「……」
「ほら、安心したって顔してる」
私に指摘されて嗣治さんがちょっとムッとした表情をした。あ、やっぱり図星だったんじゃない。
「うるさい。風呂は入ったのか?」
「まだだよ」
「だったら一緒に入るぞ」
「えー」
「えーじゃない、風呂に入らず今まで寝ていたのはモモだろ」
「無理して起きてなくて良いってさっき言ったじゃない」
「それとこれとは話は別。ほら」
そう言って嗣治さんは私をお風呂場に連行した。別に何かしようって思っている訳じゃないのは分かってるんだけどね。ただ私がなんとなく恥ずかしいってだけで。
今週は璃青さんとの肩こり談義! カレンダーの約束の日に大きく赤丸をつけてちょっと満足。
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暑かった夏が終わって夜は随分と過ごしやすくなってきたから、こういう時こそ普段はなかなか出来ない夜更かしして途中読みになっている読書の続きを……と思っているのに現実の私は夜更かしどころか昼間も超眠い状態。最近は食欲よりも睡魔の方が深刻なのでとうてつさんに寄らずに自宅に直行することも多くて、そういう時は嗣治さんが帰ってくるのさえ気が付かない時もあったりする。
出産経験のある先輩曰く吐き気がともなう悪阻に比べれば随分とマシよってことらしい。だけど嗣治さんからしたら私がちゃんと夕飯を食べているのかどうかってのが心配らしくて、今まで以上にあれこれ煩く言うようになった。いわゆる尋問生活再びってやつね。ちゃんと食べてるよ~~と言ってもなかなか信用してくれないのはきっと嗣治さんと出会った頃の私の食生活が酷かったせいなんだと思う。
事と次第によっては産休・育休の後に嘱託職員になる可能性もあるので御迷惑をおかけしますって所長に報告したら、モモニャンがとうとうお母さんになるのかあと感慨深げに呟いて体を大事にしないとねと言ってくれた。この前、自分のせいで私が泣いたわけじゃないってことが分かってホッとしていたらしいというのは、ここ暫く所長と一緒に残業をしている澤山君からの報告だ。
お昼、仕事も一息ついたのでいつものように嗣治さんが持たせてくれたお弁当をのんびり食べているとメールが来た。こんな時間に誰だろうって画面を確認すると璃青さんだ。そう言えば肩こり談義、あれからしてないなあ……と思い至る。
『桃香さん、ご無沙汰です! お仕事どうですか? 涼しくなってきたことですし第二回肩こり会合を林整骨院でしませんか? ちなみに私は秋の新作を作りすぎて肩が岩みたいです』
今回は肩こりを解消しながらのお喋りしませんかってことですね、璃青さん。って言うか岩みたいってどうなんだろう、璃青さんも根つめすぎなんじゃ?と心配になってしまう。手作りのアクセサリーが人気なのは分かるしオーダーメイドも受けているってのは七海ちゃんから聞いて知っているけど、璃青さんの手は二本しかないんだからほどほどにしないと……。とは言えあまり人のこと言えないか、私も。
「林さんかあ……」
せっかく澄ママから紹介されていたのに結局のところ未だ行けてないんだよね、林整骨院。そう言えば桜木茶舗の御隠居さんも何度か腰痛でお世話になっているとか言ってたっけ。……えっと、返事をしなきゃ。確か今度のお休みは……と頭の中にカレンダーを思い浮かべる。
『こちらこそなかなか連絡出来なくてごめんなさい。次の休みは璃青さんのお店の定休日と重なってます。平日だから林さんもやっていると思いますがどうでしょう? 何か予定は入ってますか?』
送信すると直ぐに返事のメールが返ってきた。
『私は嬉しいですけど良いんですか? 旦那様とお出かけの予定とかは?』
『旦那さんは普通にお仕事なので大丈夫ですよ~』
『じゃあ、お昼からの予約、入れておきますね♪ 行く前にランチでも御一緒にどうですか?』
『はい、是非に! 楽しみにしてますね^^』
おお、あっという間に二回目の会合の日にちと場所が決まってしまった。
「……」
「桃香ちゃん、なに笑ってるの?」
「え、笑ってました?」
「うん。それも何だかちょっと黒さが混じってた」
「え、そうですかあ?」
まあ菅原さんのその指摘は当たらずも遠からずってやつかな。夏の花火大会の時にユキ君と璃青さんが歩いているのを見かけてからずっと気になっていたんだよね、あの二人のこと。私って日中は仕事でいないし夜も遅いからなかなか二人の様子を窺い知ることが出来ないんだけれど、篠宮の御主人の話とか七海ちゃんが何気なく話す内容からして、二人の仲が進展しているようなしていないようなという微妙な状態だってことだけは何となく理解できた。
だから!!
次に璃青さんと会う時には絶対に聞いてみたいと思っていたんだ、璃青さんとユキ君がどうなっているのか。もちろん無理に聞き出すつもりはないし聞かされたことを誰かに話すつもりはないけれど、せっかくできた同世代のお友達だしそういう話もしてみたいなって思う訳。ただ、今の私の状態だともしかしたら話している途中で寝ちゃうかもしれないってのが唯一の心配事ではあるかな。
「あ、ってことは……」
璃青さんにも赤ちゃんができたこと話しても良いのかな。あ、それと林さんって妊婦さんでも大丈夫なのかな? 行く前に聞いてみた方が良いかな? 菅原さんが隣で何やらクスクスと笑っている。
「どうしたんです?」
「なんだか桃香ちゃんが百面相しているからおかしくて」
「え……」
そんなコロコロと表情を変えてた?
「なんだか楽しそうだなって。旦那さんとお付き合いを始めたって聞いた時にも感じていたんだけど、桃香ちゃん、最初にここに来た時よりずっと表情が豊かになったしね。きっと新しい彼氏さんやお友達が出来て充実した生活を送れているんだなって思ったのよ」
「入って来た時とそれほど変わったとは思わないですけど……」
「一番変わったのはこれよね」
そう言って食べかけのお弁当を指でさされた。
「確かに食生活は段違いに充実してます」
「よね。最初の頃なんてモニターみながらチョコレートを齧ったりしていたもの。この子、大丈夫かしらって心配していたのよ?」
「そうなんですか?」
「今は旦那さんがきちんとしてくれているから安心よね」
「なんだか世間様からしたら真逆なんですけどね……」
「旦那さんがそれで満足しているんだから世間がどうかなんて関係ないわよ」
「そりゃそうなのかもですけど」
+++++
「モモ」
肩を揺すられて慌てて目を開けて起き上がる。嗣治さんがこちらを覗き込んでいた。
「お帰りなさい、嗣治さん」
「こんなところで寝ていたら風邪をひくぞ。寝るならベッドで寝ろ」
「今日こそ起きて待ってようって思って頑張ってたんだよ」
「待たなくても良いって言ってるだろ? 今のモモは普通の体じゃないんだから眠いのに無理して起きてることないんだぞ」
「でも、そんなことしたらますます嗣治さんと話したりする時間が少なくなっちゃうじゃない」
「ずっと続くわけじゃないって言われてるんだから少しの辛抱じゃないか。それとも今日は何か話したいことでも?」
嗣治さんは私の隣に座るとこちらに体を向けてきた。
「えっとね、次のお休みの日、璃青さんと会うことになったの。ランチも一緒にどうですかって」
「璃青さん……ああ、Blue Marrowの」
「うん。それで黒猫さんの上にある林整骨院さんに一緒に行くつもりなんだ」
「……医者?」
「ほら、二人とも肩こりが酷いでしょ? 澄ママが一度あそこでマッサージしてもらったらどうだって勧めてくれていたから二人で一緒に行ってみようってことで」
「なるほど。そういうのって妊娠していても大丈夫なのか?」
「うん。それは帰ってきてから問い合わせしてみたんだ。ちゃんとそれ専門の施術があるから施術前に言ったら問題ないですよって」
「なるほど、だったら安心だな」
私も気になって職場でパソコンを使ってこっそり調べてみたんだけど、そういう質問をしている人って既に八か月になっていたりしてお腹の大きな人が殆どで結局のところ妊娠初期だとどうなの?って良く分からなかった。だったら直接聞いてみたら良いじゃないってことで林さんに電話してみたんだよね。
「念のために言っておくとね、多分、私の施術は女の人がしてくれると思うよ」
「俺は何も言ってないだろ?」
「何ていうか、一応言っておいた方が良いかなって思えた」
「……」
「ほら、安心したって顔してる」
私に指摘されて嗣治さんがちょっとムッとした表情をした。あ、やっぱり図星だったんじゃない。
「うるさい。風呂は入ったのか?」
「まだだよ」
「だったら一緒に入るぞ」
「えー」
「えーじゃない、風呂に入らず今まで寝ていたのはモモだろ」
「無理して起きてなくて良いってさっき言ったじゃない」
「それとこれとは話は別。ほら」
そう言って嗣治さんは私をお風呂場に連行した。別に何かしようって思っている訳じゃないのは分かってるんだけどね。ただ私がなんとなく恥ずかしいってだけで。
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