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第三十一話 帰ってきた神様
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「今日の周回分は、今ので最後です」
「今日もお疲れ様だったね~」
車に乗り込んでから端末のリストにチェックを入れた。この情報は、八百万ハロワを統括する、厚労省の専門部署に送られることになっている。
「もっとドタバタが起きると思ってたんですけど、意外と静かですね」
「もともとここは霊的な守りが特化している地域だし、よほどのことがない限り、大きな騒ぎは起きないと言われているんだよ」
「古い都ですもんね」
「先人達の知恵には感謝しないとね」
神様達の会議が始まって半月以上。神様の不在が長くなっていくと、あちらこちらで小さな問題が起きていた。とは言え居残りをしている神様達もいるし、こうやって浜岡さん達のような特殊技能持ちの職員が周回をしているので、今のところ特に大きな騒ぎになる気配はない。
「全国的に見ても、今年は穏やかな十月みたいだよ。少し人出を増やしたのが功を奏しているのかも」
浜岡さんいわく、今年はハロワ職員だけではなく、その手の能力を持った人達が国の要請を受け、全国で展開しているらしい。そういうこともあり、神様の就職後の問題解決で走り回っている時よりヒマらしい。
「けど、年に一度で一ヶ月もやる神様会議って、なにを話し合うんでしょうね」
十月が終わるまで、あと一週間とちょっと。研修ならともかく、一ヶ月も毎日のように会議が続いたら、絶対に飽きてくるだろうなと思う。
「そう言えば聞いたことないな」
私の疑問に浜岡さんも首をかしげた。
「いわゆる社外秘なんですかね」
「神様の企業秘密か。そういう可能性はあるね」
神様が帰ってきたら質問してみよう。答えてくれるかどうかはわからないが。
+++++
そして十月が終わるまであと一週間。午前の業務が終わる直前に、宅配業者の人が大きな箱をかかえてやってきた。
「宅配便で~す。羽倉さんはいらっしゃいますか~?」
「はい、私ですー」
名前を呼ばれて手をあげた。
「ただいまなのじゃ!」
「え、神様?!」
宅配便のお兄さんの頭の上で手を振っているのは、間違いなくパソコンの神様だ。
「帰ってくるのは、来週の月曜日の予定だったのでは?」
「もう大した話も残っていなかったのでな。あっちにいるのも飽きてきたから、一足先に戻ってきたのじゃ。おみやもこの通り、いっぱいあるぞい。ああ、お疲れさんじゃった、助かったわい」
神様はお兄さんに声をかけ、箱の上に移動する。
「いえいえ。お役に立てて光栄です」
「え、宅配さん、神様が見えてるんですか?!」
「ああ、僕、神様担当なので」
驚いて声をあげた私に、お兄さんはほほ笑んだ。そんなお兄さんの背後で、なにかフサフサした茶色い物体が揺れている。どう見てもシッポだ、しかもキツネの。
「……キツネの配達員さん、なんですか?」
「はい。僕はキツネですけど、ここで働いているのはキツネだけじゃないですよ。大きな荷物担当のゴリラとか、超特急便担当のチーターとか、いろいろいます」
「へえ……」
「深夜の高速などでは、たまに我が社の特別便が目撃されることがありますね。ゾウとかカメとか」
「へえ…………」
あまりのことに「へえ」しか出なかった。キツネはお稲荷様とつながりがあるのだとしても、他の動物達はどういう経緯で神様便を担当しているのだろう。やはり動物園の神様責任者からの紹介なんだろうか。
「この者らは神ではなく使い魔なんじゃよ」
私の疑問を察したのか、神様が言った。
「えーと、つまり宅配便の会社に神様担当の神様がいて、その神様がキツネさん達を使役しているということですか?」
「正解じゃ」
再び「へえ」が口から出る。
「そんなところです。神様の荷物は人間には運べないので」
「なるほど。じゃあ、前にお菓子を届けてくれたお兄さんも、そうだったんですね」
「そういうことじゃな」
ここで働くようになってそれなりになるが、まだまだ知らないことはたくさんありそうだ。宅配便のお兄さんは、帽子のツバに手をやって元気に挨拶をすると、事務所から出ていった。どこから見ても人間のお兄さんで感心する。
「さあ、おみや開封の儀なのじゃ」
「え、今からお昼ご飯なんですが」
「どうせ十月はヒマじゃろ」
ヒマでも活動していればお腹はすくものだ。現に私のお腹は今、早くご飯を食べたいとグーグー鳴っている。
「ヒマですけど、やってくる神様がまったくいないわけじゃないですし」
「しかたがないのう」
「あ、そうだ。デザートに柿を持ってきたんですけど、食べますか?」
「おお、良いのう」
神様はうれしそうに私の肩に飛び乗ってきた。
「ところで神様、気になっていたんですけど」
「なんじゃ」
「神様の会議ってどんなことを話し合うんですか? しかも一ヶ月も」
気になっていたことを質問してみる。
「一年の間に起きた、その地方であったことの報告かのう」
「全都道府県のですか」
「そうじゃ」
これまでの神様達の様子を見ていたら察せられる。あっちこっちに話が脱線して簡単には終わらないだろう。それなら報告だけで一ヶ月かかるのも納得だ。
「大きな企業の全国支店長会議みたいなものですね。そりゃ一ヶ月かかるか」
「そもそも目的はそこではないからの」
「え?」
「神様会議とは人間達が勝手に言っているだけで、わしらは特に会議をしているわけではないんじゃ」
「そうなんですか?! でも委任状は出すんですよね?」
しかも委任状を出す方が面倒だという話だったはず。
「会議というより報告会じゃの。それと一年間の慰労会じゃ」
「それ、どっちがメインなんですか? 報告会と慰労会」
「さて、どっちじゃろうな。大きい神からしたら報告は重要じゃろうが、わしらのような小さい神は、飲んで騒いでをしている時間のほうが長いからのう」
「えええ……」
それはもう、報告会というより一ヶ月耐久の宴会では。
「酒蔵の神が持ち寄った酒を飲むのが楽しいぞい。最近はカラオケをすることも増えてのう。ますます人間の宴会に近くなった印象はあるのう」
「近いというか宴会そのものでは?」
ま、まあ人間と神様では価値観が違うというのもあるし、宴会と言っても我々が想像しているものとは違うのかもしれない……と思っておくことにしよう。
「今日もお疲れ様だったね~」
車に乗り込んでから端末のリストにチェックを入れた。この情報は、八百万ハロワを統括する、厚労省の専門部署に送られることになっている。
「もっとドタバタが起きると思ってたんですけど、意外と静かですね」
「もともとここは霊的な守りが特化している地域だし、よほどのことがない限り、大きな騒ぎは起きないと言われているんだよ」
「古い都ですもんね」
「先人達の知恵には感謝しないとね」
神様達の会議が始まって半月以上。神様の不在が長くなっていくと、あちらこちらで小さな問題が起きていた。とは言え居残りをしている神様達もいるし、こうやって浜岡さん達のような特殊技能持ちの職員が周回をしているので、今のところ特に大きな騒ぎになる気配はない。
「全国的に見ても、今年は穏やかな十月みたいだよ。少し人出を増やしたのが功を奏しているのかも」
浜岡さんいわく、今年はハロワ職員だけではなく、その手の能力を持った人達が国の要請を受け、全国で展開しているらしい。そういうこともあり、神様の就職後の問題解決で走り回っている時よりヒマらしい。
「けど、年に一度で一ヶ月もやる神様会議って、なにを話し合うんでしょうね」
十月が終わるまで、あと一週間とちょっと。研修ならともかく、一ヶ月も毎日のように会議が続いたら、絶対に飽きてくるだろうなと思う。
「そう言えば聞いたことないな」
私の疑問に浜岡さんも首をかしげた。
「いわゆる社外秘なんですかね」
「神様の企業秘密か。そういう可能性はあるね」
神様が帰ってきたら質問してみよう。答えてくれるかどうかはわからないが。
+++++
そして十月が終わるまであと一週間。午前の業務が終わる直前に、宅配業者の人が大きな箱をかかえてやってきた。
「宅配便で~す。羽倉さんはいらっしゃいますか~?」
「はい、私ですー」
名前を呼ばれて手をあげた。
「ただいまなのじゃ!」
「え、神様?!」
宅配便のお兄さんの頭の上で手を振っているのは、間違いなくパソコンの神様だ。
「帰ってくるのは、来週の月曜日の予定だったのでは?」
「もう大した話も残っていなかったのでな。あっちにいるのも飽きてきたから、一足先に戻ってきたのじゃ。おみやもこの通り、いっぱいあるぞい。ああ、お疲れさんじゃった、助かったわい」
神様はお兄さんに声をかけ、箱の上に移動する。
「いえいえ。お役に立てて光栄です」
「え、宅配さん、神様が見えてるんですか?!」
「ああ、僕、神様担当なので」
驚いて声をあげた私に、お兄さんはほほ笑んだ。そんなお兄さんの背後で、なにかフサフサした茶色い物体が揺れている。どう見てもシッポだ、しかもキツネの。
「……キツネの配達員さん、なんですか?」
「はい。僕はキツネですけど、ここで働いているのはキツネだけじゃないですよ。大きな荷物担当のゴリラとか、超特急便担当のチーターとか、いろいろいます」
「へえ……」
「深夜の高速などでは、たまに我が社の特別便が目撃されることがありますね。ゾウとかカメとか」
「へえ…………」
あまりのことに「へえ」しか出なかった。キツネはお稲荷様とつながりがあるのだとしても、他の動物達はどういう経緯で神様便を担当しているのだろう。やはり動物園の神様責任者からの紹介なんだろうか。
「この者らは神ではなく使い魔なんじゃよ」
私の疑問を察したのか、神様が言った。
「えーと、つまり宅配便の会社に神様担当の神様がいて、その神様がキツネさん達を使役しているということですか?」
「正解じゃ」
再び「へえ」が口から出る。
「そんなところです。神様の荷物は人間には運べないので」
「なるほど。じゃあ、前にお菓子を届けてくれたお兄さんも、そうだったんですね」
「そういうことじゃな」
ここで働くようになってそれなりになるが、まだまだ知らないことはたくさんありそうだ。宅配便のお兄さんは、帽子のツバに手をやって元気に挨拶をすると、事務所から出ていった。どこから見ても人間のお兄さんで感心する。
「さあ、おみや開封の儀なのじゃ」
「え、今からお昼ご飯なんですが」
「どうせ十月はヒマじゃろ」
ヒマでも活動していればお腹はすくものだ。現に私のお腹は今、早くご飯を食べたいとグーグー鳴っている。
「ヒマですけど、やってくる神様がまったくいないわけじゃないですし」
「しかたがないのう」
「あ、そうだ。デザートに柿を持ってきたんですけど、食べますか?」
「おお、良いのう」
神様はうれしそうに私の肩に飛び乗ってきた。
「ところで神様、気になっていたんですけど」
「なんじゃ」
「神様の会議ってどんなことを話し合うんですか? しかも一ヶ月も」
気になっていたことを質問してみる。
「一年の間に起きた、その地方であったことの報告かのう」
「全都道府県のですか」
「そうじゃ」
これまでの神様達の様子を見ていたら察せられる。あっちこっちに話が脱線して簡単には終わらないだろう。それなら報告だけで一ヶ月かかるのも納得だ。
「大きな企業の全国支店長会議みたいなものですね。そりゃ一ヶ月かかるか」
「そもそも目的はそこではないからの」
「え?」
「神様会議とは人間達が勝手に言っているだけで、わしらは特に会議をしているわけではないんじゃ」
「そうなんですか?! でも委任状は出すんですよね?」
しかも委任状を出す方が面倒だという話だったはず。
「会議というより報告会じゃの。それと一年間の慰労会じゃ」
「それ、どっちがメインなんですか? 報告会と慰労会」
「さて、どっちじゃろうな。大きい神からしたら報告は重要じゃろうが、わしらのような小さい神は、飲んで騒いでをしている時間のほうが長いからのう」
「えええ……」
それはもう、報告会というより一ヶ月耐久の宴会では。
「酒蔵の神が持ち寄った酒を飲むのが楽しいぞい。最近はカラオケをすることも増えてのう。ますます人間の宴会に近くなった印象はあるのう」
「近いというか宴会そのものでは?」
ま、まあ人間と神様では価値観が違うというのもあるし、宴会と言っても我々が想像しているものとは違うのかもしれない……と思っておくことにしよう。
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