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第十九話 八百万ハロワは今日も忙しい?

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羽倉はくらさん、おはようございます! 商店街の神様達はどうでした?」
「いやー……あれはどうなるんだろうね」

 週明け、一宮いちみやさんに質問をされ、苦笑いをするしかなかった。私の直感は、あのドラッグストアの神様は、元金物屋かなものやの神様で決まりだと言っている。だが、薬屋の神様とのやり取りを見ていると、その確信も揺らいだ。

「ケンカするほど仲が良いというの、神様にも当てはまると思う?」
「えー? どうなんでしょうねえ……」

 こちらの質問に、一宮さんは首をかしげる。

「神様同士の様子はどうなんですか?」
「なにもかも正反対って感じだったかなー」
「あまり似すぎていても良くないって言いますし、正反対ぐらがちょうど良いんじゃないですかねー?」

 まあ、近親憎悪きんしんぞうおという言葉もあるぐらいだ。それは当たっているかもしれない。

「喜怒哀楽が激しすぎて、笑うだけで地震がおきるんだよ?」
「それは金物屋の神様じゃなく……」
「薬屋の神様」
「すごーい!」
「感心してばかりもいられないんだけどね……」

 あのやり取りが悪いほうに大きくなったら、それこそ天変地異てんぺんちいで国家存亡の危機なのだから。

「性格が正反対っぽいから、ぶつかることも多そう」
「でも薬屋の神様って、今はドラッグストアにはいないんですよね?」
「そうなんだけど、あの様子だと、しょっちゅう顔を出しそうだしなあ……」

 そしてそのたびに、元金物屋かなものやの神様を怒らせそうだ。

「あの元金物屋かなものやの神様が本気で怒ったら、本当に地震か落雷がおきそう」

 しばらくは、重点的に視察に行ったほうが良いかもしれない。

「でも、多様性って大事じゃないですか? たとえば、機械は均一規格ばかりにすると、一つが不具合が出たら大変なことになるから、あえて違う規格のものを並行して導入するって、聞いたことありますし」
「そうなの?」

 普段は、スイーツや可愛い系の話しかしない一宮さんの口から、意外な言葉が出たので驚いた。

「はい。うちの兄が、某重工業で技術職として働いているんですけど、自衛隊が装備品を一つの企業にしぼらないのは、そういう理由もあるからだって言ってました。商店街の神様達にも、それって当てはまることなんじゃないかなって、思いました」
「なるほど。科学的な視点からも、そういうのがアリなのか」
「ま、自衛隊の装備のことについては、兄の個人的な考えなんでしょうけどね!」

 今は仲たがいしていても、もともとの関係は良好だったのだろうし、そこは部外者の自分が、口を出すべきことではないのかもしれない。もちろん、天変地異てんぺんちいはご勘弁だが。

「羽倉さんの手がけた実績、これでまた数字があがりますね!」
「どうかなあ、まだ予断を許さない状況だと思うけどー……」

 最後の最後でチャブ台返しの可能性もある。まだまだ油断は禁物だ。注意深く見守らなければ。


+++


 着替えて自分の席につくと、パソコンの電源を入れた。パソコンの神様がいつものように、ひょっこりと顔を出す。

「おはようさんなのじゃ。さきほど、データベースの更新があったようじゃぞ?」
「そうなんですか? なにか募集条件の変更でもあったのかな。確認してみますね」

 パソコンが立ち上がったので、さっそく情報を呼び出す。更新された項目がリストアップされていた。募集枠の拡大や、急きょ取りやめなどなど。更新されている箇所はさまざまだ。

「あ、商店街も更新されてる……」
「そうなのか? どれどれ」

 募集中だったドラッグストアの神様の欄が消えており、商店街の要項の一番上に、赤文字で【募集完了】と表示されている。

「どうやら決まったようじゃの、ドラッグストアの神が」
「ってことは、あの金物屋かなものやの神様が根負けしちゃったのかな……」
「だからわしが言ったじゃろ? 本音ではお互いに仲なおりしたかったんじゃと」
「そうは見えませんでしたけどねー……」

 まあ相手は神様だ。人間の私にはわからない事情があるのかもしれない。そういうことにしておこう。

「じゃが残念じゃな」
「なにがです?」
「あそこがうまくおさまったとなると、もう買い食いはできないということじゃからな。週末の楽しみがなくなってしまったわい。残念じゃ」

 まったくこの神様ときたら。パソコンの神様ではなく、すっかり食欲の神様だ。

「神様は食べすぎですよ。私、あそこに通うようになって、3キロも体重が増えちゃったんですからね」
「そうなのか。人間は不便じゃのう」

 神様は気の毒そうな顔をする。

「まったくですよ。今日からは粗食にします。正直言って、制服のスカートがきつくてヤバいんですから」

 ホックの位置を少しだけ変えたのは、私だけの秘密だ。

「わしのおやつも無しなのか?」
「ありません!」
「それはあんまりじゃ……」

 ショックを受けたような顔をした。

「少なくとも、私の体重が元に戻るまでは、おやつは無しです」

 休憩中に食べる甘いものをガマンするのは、なかなかつらいものがある。だが、体重が戻るまでのしんぼうだ。ここはグッとがまんしなければ!

「わしはなんともないのに、ひどいのう」
「私はおやつを持参しませんからね。どうしてもというなら、一宮さんかさかきさんに頼んでください」
「わしの相棒はお前さんじゃのに」
「じゃあ相棒らしく、ダイエットに付き合ってくださいよ」

 神様は私の前で腕をくんで考えこむ。そしてポンと手をたたいた。

「そうじゃ! ダイエット中に食べても良いおやつを探すぞい! ここには何でも探せるパソコンがあるではないか!」
「ちょ! 神様、仕事中になにをするつもりですか」
「ここのパソコンは買い換えたばかりで新しいんじゃ。そのぐらい裏でやっても影響はないじゃろ? わしがおやつを探してやろう」

 それが良いと神様は一人で納得している。

「神様、私、職務中に余計な検索をしたとかで、ニュースになるのはイヤですよ」
「わしを誰じゃと思っているんじゃ。パソコンの神じゃぞ?」
「それってどういう……」
「問題なしじゃ」

 どう考えてもロクなことではなさそうだ。ここは聞かないほうが良いかもしれない。

「とにかくわしが食べても満足する、おいしいものを探さねば」
「それってダイエットにならないんじゃ?」
「急激なダイエットは体に良くないと、テレビでも言っておるじゃろうが。心配するな。あやしげな通販サイトで手に入るものではなく、コンビニやドラッグストアで手に入るものを探してやるからの。本当ならお前さんが自分で探すべきなんじゃが、あいかわらずスマホは目覚まし時計じゃからのう」

 そう言うと、神様はパソコンの中へと消えていった。

「ちょっと神様? まさか今からですか?」

 軽くモニターをたたく。だが返事はかえってこなかった。

「神様ー?」

 もう一度呼びかけたところで、始業を知らせるチャイムが鳴る。

「もー……食欲の神様になってから自由すぎてシャレにならない……」

 それでもダイエット中に食べられるおやつがあれば、それはそれで助かる。神様はどんなものを探し出してくるのやら。少し楽しみでもあった。

「まあ、とにかく私は仕事をしなくちゃね」

 しばらく待機していたが、朝一の来訪者はいないようなので、新しく増えた神様の募集情報を、先に入力しておくことにする。相変わらず色々な神様が求められているようだ。

「ボイラーの神様? もうそれって、人間のボイラー技士さんを雇っておけば良いんじゃ……?」

 新しい募集項目を見て首をかしげる。そんな神様をどこが募集しているのかと思えば、近くにある陸上自衛隊の駐屯地だった。

「ここにも神様責任者がいるんだ。なんの神様なんだろ。あー、なるほど、コンビニの神様なのね」

 神様責任者に書かれている名前に納得する。

「戦車の神様とか、そういう神様もいるのかな……」

 少しだけ興味がわいた。ボイラーの神様になりたい神様が、あらわれると良いのだが。
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