恋と愛とで抱きしめて

鏡野ゆう

文字の大きさ
上 下
63 / 94
番外小話 2

BのLとかその他諸々

しおりを挟む
【なろう】青いヤツと特別国家公務員の『二号、ちょっと怒る』『二号、故郷に帰る?』の顛末を安住から聞いた直後の奈緒達の話。


++++++++++


「へえ……そんな危機が安住さんと京子さんにもあったんですかあ」

 ある日の午後、安住さんがひょっこりと病院に現れた。もしかして心療内科に予約でも?と尋ねたら、知り合いがここに入院していて今日が休暇だったので見舞いに来たとのこと。それでここにも顔を出してくれたらしい。そして色々と話していくうちに、安住さんが京子さんと結婚する前に一度破談になりそうになったことがあるという話になったのだ。

「奈緒さんと三佐との間ではそういうことで問題になったことってないんですか?」
「無いです」
「……」

 即答かよっと呟かれてしまった。だけど本当のことなんだから仕方がない。最初にそういう話は信吾さんから聞いていたし、仮にも政治家の家に生まれた人間だからそれなりに言えない事情ってものがあるというのは理解しているし。

「じゃあ男ばかりの職場だから変なことになったりしないかとかは?」
「それこそ無いですよ。そりゃ信吾さんだけが男で周囲が女性ばっかりっていうんだったら少しは心配するかもしれないですけど」
「なるほど。奈緒さんは本当に煤けてないんですねえ、羨ましいです」
「そんなことないですよ? 私だってヤキモチやく時ありますし」
「え? どんな時に?」
「そうですねえ。せっかくの休みなのに信吾さんは安住さん達と楽しく訓練しているんだろうなって考えたら、なんだかちょっとムカつきます」
「……奈緒さん、それちょっと違う」
「そうですか?」

 普通の職場よりも皆の絆が強そうだし私よりも皆の方が信吾さんとの付き合い長いし、なんとなく私の知らない信吾さんとかいっぱい知ってそうだし。そういう意味では、一番付き合いが長いらしい安住さんに対してはちょっとヤキモチ以上のものを感じちゃうかもしれない。そんなことを口にしたら安住さんがあからさまにギョッとなった。

「まままま、まさか俺と三佐とのことで変なこと想像してませんよね?!」
「だからそんなことは思ってませんよ。だけどあまり仲が良いとちょっと複雑になっちゃうかも」
「断じて俺と三佐はそういう関係じゃありませんから!」
「分かってますよぉ。信吾さんは私にぞっこんらしいですから」
「らしいじゃないです。ぞっこんです、溺愛です。もう惚気だしたら止まりませんから」
「信吾さんでも惚気ることがあるんですか?」

 なんだかそんな信吾さんは想像つかない。どちらかと言うと職場では家庭のことなんて話しそうにないんだけど。

「本人は惚気てる自覚は無いんでしょうけどね。真面目な顔して奈緒さんのことを普通に話しているつもりなんでしょうが、あれは惚気です、間違いなく。お蔭でうちの独身野郎どもの結婚願望が強くなって少し困ってます」
「そうなんですか……」

 やっぱり想像つかないな、信吾さんが惚気ているところなんて。


+++++


 とにかく森永三佐は奈緒さんにぞっこんで他の女なんて眼中にない状態だが、奈緒さんも同様だ。お互いにお互いのことしか目に入っていない。いやいや、本当に胸焼けがするぐらいに御馳走様ってやつか。御馳走様すぎで何だか腹が立ってきたぞ。こういう時は教え子達への指導に熱が入るぜ。

「またケツに模擬弾食らわしてるのかよ、今度は何があったんだ?」

 あちらでヒーヒー言っている小童どもをニヤニヤしながら見ていると矢野が声をかけてきた。

「何もないぞ。昨日、恩師を見舞いに行った時に奈緒さんと会ってな、ちょっと話をしたんだが相変わらずのラブラブっぷりに腹が立っただけだ」
「お前んとこだって十分に御馳走様なゲロ甘夫婦だろうが」
「人のこと言えんだろ、お前のところだって。おい小僧ども!! 呑気に休んでる暇なんか無いだろうが!! さっさと動かないと今度はその貧相なイチモツにぶち込むぞ!!」

 そんな俺を見ながらやれやれと首を振る矢野。なんだよ、若い連中に教えるのは楽しいぞ? そう言えばいつかは俺のケツに模擬弾をぶち込んでやると下山と言っていたが未だに成功してないよな、諦めたんだろうか。


+++++


「安住が病院に顔を出したんだって?」

 珍しく定時あがりで戻ってきた信吾さんがそんなことを口にした。

「うん。一昨日だったかな、あそこにお世話になった人が入院しているんだって」
「へえ」
「それでね、安住さんが結婚する前に京子さんとのことが破談になりかけたって話を聞いたの」
「ああ、そんなことがあったらしいな」
「知ってたの?」
「一度、飲みに行った時にそんな話をしていた覚えがある」
「ふーん……」
「なんだ」

 私の返事に何か感じたのか妙な顔をしてこちらを見た。

「なんだか仲良しなんだね、信吾さんと安住さんって」
「そりゃ空挺では俺の下にいたこともあったからな、安住は」
「へえ……」

 ますます顔をしかめる信吾さん。

「なんなんだ、その意味深な返事は」
「特に意味なんてないよ。仲良しなんだなーって思っただけ」
「まさか変なこと想像してないだろうな」
「変なことって?」
「だから、その、男同士でなんとかこんとかみたいな……」

 安住さんと同じようなことを言うので思わず笑ってしまった。

「安住さんも同じこと言ってたよ。もしかして自衛隊の人ってそんなこと言われてるの?」
「男ばかりだから、その手の話が好きな女子高生には格好のネタらしい」
「へえ。あ、でも大学でもいたかな、そういう漫画が好きな子」
「俺にはそんな趣味は無いからな」
「わかってるよー」

 普段の信吾さんを見ていたらそんなこと考えもしないよ。だけど、そのせいで逆に心配になることもあるんだけどね。だから思い切って尋ねてみることにした。

「ねえ。私、今はこんなお腹だし信吾さんとなかなかエッチができないけど信吾さんはしなくても平気なの?」
「急に何を言い出すんだ」
「だって男の人ってそういうの我慢できない時ってあるでしょ?」

 今はお腹が大きいから前みたいに何度も出来ない。信吾さんは優しく愛してくれるけど、それで本当に満足しているのかなって時々心配になるんだよね。

「奈緒以外の女を抱くなんて考えられないがな」
「でも我慢できなくなったら?」
「何でそんな心配を?」
「なんとなく……」
「どうしても我慢できくなったらそうだな、奈緒に頑張ってもらうしかないな、手と口を使って」

 ニヤリと笑う信吾さん。あ、まずい、変なスイッチ入れちゃったかもしれない? そんなことを考えてたら手を掴まれてお風呂場の方へと連れて行かれた。

「ここしばらくはトレーニングに没頭することで紛らわせていたが、そうだな、そろそろ奈緒に慰めてもらっても良いよな?」
「え、ちょっと……」
「心配するな、ちゃんと産婦人科でもらった夫婦生活の本に関しては目を通したから無茶はしない」
「そんな問題じゃなくて……」

 あれよあれよと言う間に服を脱がされていく。そりゃさ、いつも帰ってきたらご飯食べる?それともお風呂が先?とか尋ねるからお風呂の用意もしてるけどさ、今ここでそんなことするつもりはなかったんだけど!!

「しばらくの間、チビスケ達には耳栓をしていてもらわないとな」

 笑いながらお風呂場へと引っ張り込まれてしまった。最初は普通にシャワーを浴びて湯船につかってとリラックスタイムを楽しんでいたんだけど、やがて湯船の縁に腰かけた信吾さんがニヤリと笑って私を見下ろした。

「えっと……私、苦手なんだよ、それ……」
「わかってるよ。奈緒が嫌ならしなくていいんだ、俺は今のままで十分に満足なんだから。本当に浮気を心配してるのか?」
「そんなことないよ。だけどほら、前はもっと激しかったから今の状態で信吾さんが満足できているのかなって少し心配になっただけ」
「奈緒以外の女を抱いても意味がないんだ、それだったら自分の右手にお世話になる」
「それはそれで妻としては複雑かも……」
「だから体を鍛えることで発散させてるんだろ。まあそのせいで部下達からはブーイングだけどな」

 前から信吾さんは元気すぎるって若い隊員さんから文句が出ているって安住さん達から聞いたことがある。ビフカツサンドの件といい発散の件といい、なんだか色々と申し訳ない気持ちになってきたよ。

「体を鍛えて発散させるっていうのは重光さんからの提案なんだけどな、なかなか有効だ。あの人も沙織さんと結婚する前に同じ状態に陥ったらしくて同じようにして耐えたらしい」
「へ?」
「重光さんと沙織さんの年の差を考えてみろ」
「は?」
「未成年とセックスなんてしたら捕まるだろ」

 ひゃああああ、なんてことを暴露するの信吾さん!! 次からどんな顔して重光先生に会えば良いんだろ……。そして案の定、夕飯は少し……いや、かなり遅くなってしまったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。 【本編完結】【小話】 ※小説家になろうでも公開中※

僕の主治医さん

鏡野ゆう
ライト文芸
研修医の北川雛子先生が担当することになったのは、救急車で運び込まれた南山裕章さんという若き外務官僚さんでした。研修医さんと救急車で運ばれてきた患者さんとの恋の小話とちょっと不思議なあひるちゃんのお話。 【本編】+【アヒル事件簿】【事件です!】 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中※

好きすぎて、壊れるまで抱きたい。

すずなり。
恋愛
ある日、俺の前に現れた女の子。 「はぁ・・はぁ・・・」 「ちょっと待ってろよ?」 息苦しそうにしてるから診ようと思い、聴診器を取りに行った。戻ってくるとその女の子は姿を消していた。 「どこいった?」 また別の日、その女の子を見かけたのに、声をかける前にその子は姿を消す。 「幽霊だったりして・・・。」 そんな不安が頭をよぎったけど、その女の子は同期の彼女だったことが判明。可愛くて眩しく笑う女の子に惹かれていく自分。無駄なことは諦めて他の女を抱くけれども、イくことができない。 だめだと思っていても・・・想いは加速していく。 俺は彼女を好きになってもいいんだろうか・・・。 ※お話の世界は全て想像の世界です。現実世界とは何の関係もありません。 ※いつもは1日1~3ページ公開なのですが、このお話は週一公開にしようと思います。 ※お気に入りに登録してもらえたら嬉しいです。すずなり。 いつも読んでくださってありがとうございます。体調がすぐれない為、一旦お休みさせていただきます。

【光陵学園大学附属病院】鏡野ゆう短編集

鏡野ゆう
ライト文芸
長編ではない【光陵学園大学附属病院】関連のお話をまとめました。 ※小説家になろう、自サイトでも公開中※

好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?

すず。
恋愛
体調を崩してしまった私 社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね) 診察室にいた医師は2つ年上の 幼馴染だった!? 診察室に居た医師(鈴音と幼馴染) 内科医 28歳 桐生慶太(けいた) ※お話に出てくるものは全て空想です 現実世界とは何も関係ないです ※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

私はオタクに囲まれて逃げられない!

椿蛍
恋愛
私、新織鈴子(にいおりすずこ)、大手製菓会社に勤める28歳OL身。 職場では美人で頼れる先輩なんて言われている。 それは仮の姿。 真の姿はBL作家の新藤鈴々(しんどうりり)! 私の推しは営業部部長の一野瀬貴仁(いちのせたかひと)さん。 海外支店帰りの社長のお気に入り。 若くして部長になったイケメンエリート男。 そして、もう一人。 営業部のエース葉山晴葵(はやまはるき)君。 私の心のツートップ。 彼らをモデルにBL小説を書く日々。 二人を陰から見守りながら、毎日楽しく過ごしている。 そんな私に一野瀬部長が『付き合わないか?』なんて言ってきた。 なぜ私? こんな私がハイスぺ部長となんか付き合えるわけない! けれど、一野瀬部長にもなにやら秘密があるらしく―――? 【初出2021.10.15 改稿2023.6.27】 ★気持ちは全年齢のつもり。念のためのR-15です。 ★今回、話の特性上、BL表現含みます。ご了承ください。BL表現に苦手な方はススッーとスクロールしてください。 ★また今作はラブコメに振り切っているので、お遊び要素が多いです。ご注意ください。

Promise Ring

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
浅井夕海、OL。 下請け会社の社長、多賀谷さんを社長室に案内する際、ふたりっきりのエレベーターで突然、うなじにキスされました。 若くして独立し、業績も上々。 しかも独身でイケメン、そんな多賀谷社長が地味で無表情な私なんか相手にするはずなくて。 なのに次きたとき、やっぱりふたりっきりのエレベーターで……。

処理中です...